ダンジョン攻略・其の14
22階層へ到着すると、景色が一変する。
先程までいた城の中とはガラリと変わり、今度は見渡す限りの森の中。
木々の間から清々しい風が吹いてきて心地よい。
「ここって、本当にダンジョンの中なの?」
「流石に外って事は無いだろう。戻る為の魔法陣はちゃんとあるし」
一階層が平原だった事もある為、今更森が出て来ても驚きはしない。
細かい事は気にせず先へ進む事にしよう。
それぞれハクロウとアウランに跨り、森の中を走り抜ける。
「カル。この森、あちこちに魔物がいるみたい」
セティの言葉通り、周囲から魔物の気配を感じる。
「ハクロウ、アウラン。一度、戦いやすい場所で止まってくれ」
狭い場所で襲われたら面倒なので、森の開けた場所で敵を迎え撃つ事にした。
程よく開けた場所で待機していると、森の中から魔物達が姿を現す。
「あれって、カブトムシとクワガタか?」
「ジャイアントビートルとジャイアントスタグビートルだって」
大きさはワゴン車よりも一回り大きく、変わった鳴き声を発している。
「殻が硬そうだね」
セティの言う通り、このサイズで魔物ともなれば、
恐らく普通の武器では歯が立たないかもしれない。
「でも、昆虫が弱いのは、火」
セティは容赦なく目の前の二匹を火の魔法で燃やしてしまう。
しかも、お腹辺りに魔法を発動させたものだから、虫にとっては災難としか思えない。
燃え尽きた虫達はドロップ品に姿を変え、
魔石の他に2種類の角と羽部分の外殻がドロップされた。
すると、森の中から更にカブトムシとクワガタが現れ、こちらへ向けガサガサと走って来る。
子供の頃は好きで良く捕まえたものだが、ここまで大きいと流石に気持ちが悪い。
全員で協力して、出て来た虫を一掃していく。
ドロップ品を回収し終えた所で一度休憩を取る事にした。
「ハクロウ、アウラン。休憩所の位置は分かるか?」
「「クゥーン」」フルフル(首)
「もしかすると、フロア型のダンジョンには、休憩所が無いのか?」
「それじゃどこで休むの?」
昔、勇者の一党が22階層で撤退したというのは、
これが原因なのかもしれない。
深く潜れば潜る程、必要な物資が増える事はもちろんの事、
疲労を回復させなければならない。
いくら勇者といえど、生物である以上それらは必要な事だ。
「それじゃどうするの?このまま先に進む?」
「うーん。…ん?俺達、箱庭で休むから関係ないんじゃないか?」
「あ、そういえばそうだったね」
狐の箱庭は自分達が許可を出さない限り、誰も入る事は出来ない。
その為、人通りが多かろうと魔物が沢山いようと関係無いのだ。
「だが、箱庭から出る時に魔物が扉の前にいたら困るな」
「そうだね。どこか高い場所に設置する?」
「「ガウガウ」」
ハクロウとアウランが鳴くと、扉の周りを淡い光の幕で覆っていく。
「これは何だ?」
「結界魔法だよ。これなら扉の周りには魔物が近づけないよ」
何て便利な魔法なんだ。
しかも、二匹は察して使ってくれるなんて、今日の晩御飯は豪勢にしてあげよう。
夕食はセティの希望もあり、豪華にステーキを選ぶ事にした。
南国の有名なステーキハウスの店から、特大のヒレ肉・ロース肉を選んでいく。
ハクロウとアウランにメニューを見せると、
何故か、大食いのチャレンジメニューという8キロ越えのステーキ盛りを選んでいた。
成功すると最初の一皿は無料になるのだが、
後から追加で4回頼んだ分は自腹となって悲しくなった。
その日はゆっくりと休み、次の日に備えた。
翌朝、扉の外に出ると、数匹の巨大な蜂が結界を破ろうと針で攻撃をしていた。
「結界のおかげだな。開けた瞬間アレが目の前にいたら驚くぞ」
「うう、蜂は嫌い」
セティがその言葉を発した瞬間、ハクロウが雷の魔法を放ち蜂達の頭上に降らせていく。
黒焦げになった蜂は、何故か瓶入りの蜂蜜と針をドロップする。
「ありがとう、ハクロウ。でも、何で瓶入りなの?」
「親切なダンジョンだな」
「不思議じゃないの?瓶入りなんだよ?」
「異世界のダンジョンだから仕方ないさ」
ハクロウとアウランに跨り、先を進む。
途中、蜂が数回襲ってきたが全てハクロウが雷魔法で撃ち落とし、
ドロップ品を回収しながら先に進むと、
突如目の前に、競技場くらいはありそうな空間が広がった。
「ここにボスでもいるのかな?」
「ねぇ、中央に大きい樹が生えているよ」
セティが指さす方向に、大樹が一本生えている。
そして、樹の中心が不自然な程太い。その理由は近づく事で分かった。
「あれって蜂の巣?大き過ぎない?」
樹に張り付いていた物は尋常ではないサイズで、
一般的な家が10軒ほど軽く入りそうな、巨大な蜂の巣だった。
その周りには、巣を守るかの如く蜂が飛び回っている。
「あれ、どうするの?攻撃したら一杯蜂が出てくるよね?」
「全部倒すのはちょっと疲れるな」
目の前の蜂の巣は数匹飛んでいるだけで、まだこちらを認識していない。
ここで攻撃を仕掛ければ、とんでもない数の蜂が出て来るに違いない。
これを倒すには何か良い方法は無いものか…。
「ガウガウ」
アウランがこちらを見て何か言いたそうにしている。
「今度は自分にやらせろって事か?」
「ワフワフ」
アウランが、同時に強烈な火の魔法を放つと、
巣の周りを取り囲むように複数の強烈な火柱が立ち昇る。
蜂は火から逃れようと飛び出して行くが、見えない壁に遮られてしまう。
どうやら結界魔法で周囲を囲んでしまったようだ。
逃げ場も無く、激しい熱気に当てられた蜂達は成す術も無く倒れ、
巣はおろか、樹までもが完全に炭になってしまった。
近づくと、大量のドロップ品が中央に積まれている。
魔石、蜂蜜、針、と女王蜂の針、そして宝箱
「箱だよ。何が入っているのかな?」
「待て!まずは外から鑑定してからだ。罠があるかもしれないぞ」
「そうなの?視てみるね…本当だ。開けたら槍が飛んでくるって」
うっかり開けたら串刺しとは、何て悪質な宝箱だ。
しかし、解除する技能など二人共持っていないし…。
「俺に結界を頼む。開けて来るよ」
「「ワォン」」
強力な結界を付与され、箱を開けると勢い良く槍が飛んできた。
キンッキンッキンッ!と、音を立て槍は結界によって弾かれ地面に突き刺さる。
まさか箱の中からでは無く、突如浮かび上がった魔法陣から飛んで来るとは予想外だ。
こんなもの結界が無かったら完全に串刺しになっている所だぞ。
箱の中身は、何だか薄汚れた袋が入っていた。
「セティ、これ鑑定してくれるか?」
「えっと、収納袋の中だって」
「へぇ、良い物が手に入ったな。何かに使えるかもしれない。持って帰ろう」
ドロップ品と箱の中身を異空間収納に放り込み、
現れた魔法陣を使って23階層へと進む。




