ダンジョン攻略・其の8
獅子の角笛の一党と親しげに話していると、
前にいた別の一党の一人から声を掛けられる。
「さっきからうるせーぞ!ダンジョンでペチャクチャ喋ってんじゃねーよ!」
「おい、マイルド。そんな言い方はないだろう?ここで話しちゃいけない決まりなんてないだろ」
「ふん!大体そんなガキがAランクだと?ギルドの査定はいつから甘くなったんだ?」
「お前な、相手を知りもしないで、言って良い事と悪い事があるだろ」
マイルドと名乗る男、初対面で随分と突っかかってくる奴だな。
それにしても、セティをバカにするとはいい度胸だ。
一言言ってやろうと前に出ようとした時、アルガスから静止される。
「マイルドさん。この子の事を良く知らずに失礼な事を言うのは止めてもらえませんか?」
「アルガス、てめぇ誰に向かって口を・・・」
「この二人はホルス街を始め、各地で人々を助けた功績を残している立派な冒険者です。俺達も命を救われた事があります。これ以上何か言うつもりなら、許しませんよ」
「てめぇ・・・!!」
俺達より先に、アルガス達がマイルドの態度に対し、頭に来たようだ。
「そこまで!マイルド、お前達の番だぞ、さっさと先に進め!これ以上、彼らを侮辱するようならギルドに報告するからな!」
「ふん、覚えてやがれ!」
そう言ってマイルドの一党はボス部屋の中に入って行った。
「ふぅ、すまないな。あいつはちょっと問題児って奴でな。実力はあるんだが、ギルドも対応に苦慮している奴なんだよ」
彼らはBランクの一党で、竜巻を名乗っている。
マイルドをリーダーとし、レーテル、ガンス、トッドの男4人組だ。
喧嘩早く、良く他の冒険者ともめる事が多いのだそうだ。
再三注意を受けているものの、
実力があるせいで、ギルドも強く言えない所があるようだ。
「今後、あいつらと出くわしても無視してくれ。拘わらない事が一番だ。といっても、二人が本物のAランクなら、あいつら程度じゃ勝てないだろうけどな」
ヘイルは笑いながら俺達を見て、そう言っていた。
気分は良くないが、こちらから関わる気など無いし、忠告通り無視するのが一番だ。
先に入ったマイルドの次に、ヘイル達がボス部屋へと入っていくのを見届けた後・・・。
「アルガス、さっきは庇ってくれてありがとうな」
「ありがとう」
「何を言っているんだ、当たり前の事だろ?臨時で無くとも、俺達はダチなんだからさ」
他の3人も考えは同じだと頷いていた。彼らと知り合えて、本当に良かったよ。
暫く待っていると、ボス部屋の扉が開き自分達の番になる。
中に入ると、待ち受けていたのは身体が深紅に染まった牛が3匹。
「あれは、Aランクのブラッディブルだ。暴れると手が付けられないらしい。だが、ヘイルさんから聞いていたより数が多いな」
「何だか今回は、やけに数が多いわね」
「いつもより人数が倍だから、敵も倍になったんだろう」
「そんな話、聞いた事ありませんよ」
俺とセティがそれぞれ1匹ずつ、そして残りの1匹をアルガス達に任せる事にした。もちろんアウランとハクロウには4人の護衛を任せている。
結界魔法が使える二匹がいれば、怪我をする事も無いだろう。
ブラッディブルは目を血走らせ、正に猛牛といった感じで突っ込んで来る。
しかし、セティは魔法の一撃で、俺も狐徹の一太刀で敵を軽く屠った。
4人は?と目をやると、結界とレイチェルの支援魔法に守られたマリウスが
大剣で牛を受け止めた所に、アルガスとレイチェルが攻撃を仕掛け、
最後はマリウスの頭への重い一撃によって、見事に倒した。
「はぁ、はぁ。や、やったぞ、倒した!!」
「マリウス、よくやったわね」
「結界とレイチェルのお陰で倒せたぜ」
「かなり魔力を持って行かれましたけどね」
しかし、4人ともかなり消耗したようで、次の階層では休む必要がありそうだ。
ドロップ品を集めた後は、魔法陣で次の階層へと向かう。
17階層は先程と同じ作りで、岩肌むき出しの洞窟が続いていた。
マリウスの話では、ここにはトカゲの魔物が出るという話だ。
「ここはサラマンダーとポイズンリザードが現れると聞いている」
「解毒ポーションは私達が用意した4本しか無いから、気を付けてね」
「念の為に、ビフレストの街で買っておいて良かったぜ」
「ねぇ、そのポーション見てもいい?」
「ええ、これですよ。効果が凄いと人気の品なんですよ」
カミラが見せてくれたポーションには、狐マークのロゴがしっかり張り付けられていた。
「これ、私が作ったポーションだね」
「セティちゃん、製薬の技能まであるんですか!?」
やはり、定期的にアンダリアさんの店に卸していたポーションだった。
前に石鹸や酒を卸す際に、狐マークを付けると提案した事があり、
その時、ポーションにも付けて欲しいと、セティがキアラさんにお願いしたのだ。
「狐印のポーションは効果が高く、人気で品薄なんだよ。まさかセティちゃんが作っていたとは思わなかったよ」
「魔法だけじゃなく、そんな事も出来るなんて本当に凄いわ」
セティは修行の際に、エリクサーまで作れるようになっている。
加えて、薬神様の加護まで付いているのだから、製薬の技能は相当な物なのだろう。
毒への備えは万全と分かり、意気揚々と進んでいると早速魔物が現れた。
出て来たのは、何やら濃い紫色をしたトカゲが5匹。
「ポイズンリザードだ。毒液を吐き出すから注意してくれ」
「それなら遠距離攻撃が良さそうだな。ハクロウ、アウラン」
「「ガウッ!」」
ザシュッ!!×6
二匹による爪斬撃がポイズンリーザドを襲う。
最後の一匹だけは、憐れにも両方から攻撃を受けたようだ。
ドロップ品は、瓶入りの毒液と紫色の皮と魔石。
「何でこれ、瓶に入っているんだ?」
「ダンジョンでは、その手の類は瓶入りで落としてくれるんだよ。本当、親切だよな」
親切の一言で済まされる程、ここでは普通の事のようだ。
異世界って本当に不思議だよ。




