合同訓練
冒険者ギルドにて、緊急の依頼があると聞いて
ギルマスのクレアさんの部屋で話を聞く事になった。
「実は数日前から騎士団の方から、依頼が来ていまして…」
なんでもニコラウスさん率いる騎士団と、
冒険者達で合同訓練をしたいとの要請があったのだそうだ。
以前、ホルスの街が魔物の集団に襲われそうになった事を鑑みての事らしい。
しかし、訓練予定日は明日だというのに、応募してきた冒険者はゼロ。
そもそも、冒険者とは基本的に自由な考え方の持ち主が多い為、
いくら依頼とはいえ、汗水流すだけの訓練となると、興味を持つ者は皆無なのだろう。
それに、普段戦うのは魔物が大半である為、人間同士の訓練に向いていないと思う。
「訓練は大事だと思いますが、畑違いですから中々難しいですね」
「そうなんですよ…。かといって、騎士団からの依頼は断り難くて困っているんです」
「新人冒険者を強制的に招集したらどう?それならお互い損は無いと思う」
「始めはそう思ったのですが、その場でニコラウス様から、熟練冒険者を送るようにと言われたのです。何せ訓練相手は、この国の騎士団の中でも精鋭中の精鋭。新人冒険者程度では相手になりません」
精鋭中の精鋭か、ニコラウスさん張り切っているんだな。
確かに、それは新人冒険者には荷が重い依頼だね。
「ですので、この依頼、カルさんにお願いできないでしょうか?」
「・・・まさか、俺一人で相手にしろと?」
「Aランク冒険者であれば、誰からも文句が出ません。それに、ニコラウス様を倒したカルさんが相手となれば、騎士達も張り切ってくれると思うんですよ」
「・・・ちなみに、騎士団って何人いるんですか?」
「500名ですね。王族の守護を一任されているこの国最強の騎士団です」
まさかこの人、俺に500人全員を相手にしろと言っているのだろうか?
空手の100人組手じゃあるまいし、凄く無茶な事を言っているという自覚は
ないのだろうか?
「カル、行っておいでよ。ダンジョンに挑む前に、修行の成果を試せるチャンスだよ」
「それはそうだが、セティは行かないのか?」
「私は魔法が武器だから、騎士団の訓練には向いていない。クリスと遊んでいるよ」
正論ではあるが、それはちょっとずるいぞ。
「では、受けて下さると言う事で宜しいですね?ありがとうございます。おかげでギルドの面目が立ちますよ」
クレアさんは嬉しそうに、書類に俺の名を書き足していた。
相手は人間、手加減して倒せる方法を考える必要がありそうだ。
ギルドを出た後は、セティが言った通り王都の屋台を食べ歩き屋敷へと戻る。
◇◇◇
今日は一人で、依頼書を片手に王城の前へ訪れていた。
門兵に依頼書を渡すと、中にある演習場へ向かうよう言われる。
言われた通りに進むと、既に沢山の騎士達が整列しており、誰かの話を聞いているようだ。
近くに行くと、話をしていたのは騎士団長のニコラウスさんだった。
「諸君!我らは誇りある王国騎士団として、今回の訓練に励んで欲しい!例え相手が誰であれ、無様な姿を晒してしまえば、陛下の顔に泥を塗る事にもなると思え!決して気を抜かず、実戦と思いこの任に当たるよう厳命する!!」
「「「ははっ!!」」
ニコラウスさん、いくら何でも気合入れすぎでしょう・・・。
今回の相手が、たったの一人、しかも俺だという事を知ったら、
ニコラウスさんと彼らは、一体どんな顔をするのだろう?
クレアさん、せめて形だけでも、こちらも数十人は用意して欲しかったよ。
さて、どんな風に声をかけようかと悩んでいると…。
「貴様!そこで何をしている!?騎士では無いようだが、何用だ?」
突然、巡回していた兵士に声をかけられる。
木の陰で様子を見ていたものだから、不審者にでも見られたのだろうか。
兵士の声で、整列していた騎士達の視線が、全て俺へと向けられてしまったよ。
凄く気まずい、もう少し静かに声をかけてくれたらよかったのに。
「えっと、依頼を受けた冒険者です。ニコラウスさんに会いに来たんですが…」
「貴様のような怪しい奴に依頼だと?あまり適当な事を言うとためにならんぞ?」
「いや、ほら。依頼書もありますから…」
「カル殿!?こんな場所で、一体どうされたのですか?」
助け舟を出してくれたのは、声を掛け難かったニコラウスさんだった。
「ニコラウスさん、お久しぶりです。冒険者ギルドで依頼を受けて来ました」
「貴様、騎士団長に対し無礼であろう!!様を付けんか!」
「良い。私の知り合いだから、大丈夫だ。貴様は任に戻るが良い」
「はっ!大変失礼しました!」
威勢の良い兵士は巡回の仕事へと戻って行った。
「失礼しました。それで、カル殿。まさか、今回依頼を受けてくれたのは貴殿一人ですか?」
「ええ、残念ながら・・・」
「・・・はぁ。これでは合同訓練にならないではありませんか。クレア殿もせめてもう少し人数を・・・」
確かに冒険者一人いたところで、合同訓練とは到底呼べないよね。
どうしたものかとニコラウスさんと迷っていると、待機していた騎士の一人が話しかけてきた。
「ニコラウス様。まさか、予定していた冒険者はたった1人ですか?」
「うむ、そのようだ。私がもっと時間をかけて説得するべきだったかもしれんな」
「仕方ありませんよ。所詮、冒険者とはごろつきの集まり。最初から、我らとは住む世界が違うのです」
「止めないか、ベルナード。冒険者を軽んじる発言は…。いや、待て。それならば・・・」
ニコラウスさんがこちらを見て、不敵な笑みを浮かべる。
凄く嫌な予感しかしないんだが、一体何を考えているんですか?




