昇進
冒険者ギルドを後にしようとしていたら、受付嬢のラピリスさんから声をかけられ、
大至急、デニスの屋敷へ向かうよう伝言を受け取るが、何か急ぎの用でもあるのだろうか?
元々行くつもりではあったので、そのまま屋敷へと向かう事にした。
到着するとライルさんが門兵をしており、こちらに気が付いて会釈してくる。
「カル様、セティ様。ようこそおいで下さいました。連絡は受けていますので、どうぞこのまま中へお入りください」
「俺達に急用があるって聞いて来たんだが、ライルさん何か聞いています?」
「私の口からは…ですが、良い話ですよ」
悪い話で無いだけマシではあるが、デニスにとって良い話が俺達に何の関係があるのだろう?
疑問に思いつつ中に入って行くと、執事さんが出てきて屋敷の中へと案内される。
客間で紅茶を飲みながら待っていると、すぐにデニスとフランさん、そしてクリスがやってきた。
「カル、セティ嬢。やっと来てくれたか。待っていたぞ」
「一体どうしたんだ?」
「そうだな、少し長くなるからセティ嬢はクリスと外で遊んでくるといい」
「分かりました、お父様。セティ、庭に行こう」
「うん。あ、ハクロウとアウランを出してもいい?」
「もちろんだ。この屋敷の者は知っている事だしな。好きにしていいぞ」
セティとクリスは庭に出ていった。
「さて、実は今回、陞爵を受ける事が決まったのだ」
「・・・しょうしゃくって何?」
「一言で言えば、貴族階級が上がる事です」
陞爵なんて言葉、一般人には無縁の言葉だな。
どんな漢字なのかも分からないよ。
「つまり、昇進したって事か?良い事じゃないか、おめでとう」
「はぁ…。何を他人事のように言っているんだ。そもそも誰のせいだと思っているんだ!?」
「・・・え、俺?何でさ?」
「今回の決定には、カルさん達の影響が大きいのですよ」
「いいか?貴族が陞爵を受けるには、いくつかの条件がある。一番手っ取り早いのは戦での功績。つまり、国の為に戦で功を立てれば、陛下から認められる事になるからな。次に注目されるのが、自分達が治める街からの税だ。お前、この街で商売しているだろう?石鹸や香水、そして酒だ。今、それらの売り上げが凄い事になっていてな、お陰で前回、国に納めた税金を遥かに上回る額になってしまったんだよ」
つまり、俺が異世界から仕入れた品物をこっちで売った事で、街の税収が跳ね上がり、
結果、国王に納める額が増えてしまい昇進に繋がったと言う事か。
あれだけ納品しても、外からも買い求める商人が後を絶たないみたいだし、
相変わらず異世界の品はどれも魅力があるね。
「そして最後に、お前とセティ嬢の存在が大きく影響している」
「それが分からない。何で俺達が?」
「カルさんもセティちゃんも自覚していないでしょうが、二人はAランクの冒険者なのですよ。しかも、何処の国にも組織にも所属していない二人は、各国が喉から手が出る程の存在なのです。ですが、二人が良く訪れているのはこの街ですよね?それだけでこの街の評価が上がるのですよ」
知らず知らず、自分達がそんな影響をもたらしていたとは、想像もしなかったよ。
何処かの国に所属する気は今後も含め一切ないが、これからは少し自重しなければならないな。
目立ち過ぎると、今後の旅に影響が出てしまうかもしれない。
「我がバルシュタイン家は100年前に伯爵の地位を授かり、それを受け継いできたというのに、いきなりの陞爵だ。陛下がお前達を気に入っている事も影響しているのだろうな」
「・・・えっと、何か、ごめんね?」
「・・・いや、すまない。少し言い過ぎたな。位が上がる事は本来喜ばしい事なのだ。しかし、直接自分の手柄ではないから、どうにも実感が無くてな…」
「俺達の事を受け入れてくれたのはデニスだから、何も問題ないだろ?」
「別に私は何もしていないさ。だが、今後は少し自重してくれ。お前達の行動は、本人達が思っている以上に影響が大きいんだ」
デニスのおかげで俺達の旅が少なからず楽になっているのは事実だ。
それに、セティの最初の友達がいる街でもある為、そういう意味でも感謝もしている。
しかし、仮に俺達がこの地を去り、品物を卸せなくなった時の事も考えないといけないね。
この街で、何か特産品を作り出せればいいのだが…。
※コンコン
「デニス様、失礼します」
「どうした?今は来客中だぞ」
「申し訳ございません。それが、先程冒険者ギルドから緊急の連絡がございまして…」
執事さんがデニスに何かを耳打ちしていると、急にデニスの眉間に青筋が・・・。
「カル!!お前、魔界の魔物を持ち込んだそうだな!!一体何を考えている!?」
「まぁ、魔界ですって!?」
「ロランさん、黙っていてくれるって言っていたのに!!」
「ラバンから魔界の素材をどうするかと相談が来たぞ!自重しろと言ったばかりだろうが!!」
「カルさん、魔界に行ったのですか!?教えてください!どんな場所でしたか!?それからどんな魔物がいたんですか!?教えてくれるまで、帰しませんよ!!」
この後、デニスにしこたま怒られ、フランさんは元・Aランク冒険者の血が騒ぎ、
魔界の事を根掘り葉掘り質問される事になったとさ。
人生とは、中々上手くいかないものだね。




