帰還と報告
何とか無事に、カリュブディスとグライアイを倒す事が出来たが、
今回ばかりはセティの思い付きが無ければ、正直勝てる気がしなかったよ。
「セティ~!」
後ろで詩歌を歌っていたアイピが、こちらへ走って来る。
「セティ、無事で良かったよ」
「アイピが歌ってくれたおかげで勝てたよ。ありがとう」
「うう、セティ~」
「こっちも無事だけどな」
「カ、カルさん、ズクシちゃんも。無事だったんですね、良かった」
「俺達はオマケか?」
ズクシの話では、カリュブディスの触手による怪我人はいるものの、
幸いなことに死者は一人も出ていないそうだ。
「それで、カリュブディスの死体はどうする?バラバラになったけど」
「このままで大丈夫だと思います。この辺りはカリュブディスのせいで生物が消えていましたが、奴の肉を目当てに戻って来るでしょう」
魚にとっては良い餌となるだろうが、同時に大型の魔物も寄ってくるそうなので、
泡を戻した後は面倒な事になる前に、急いでこの場を離れる方が良さそうだ。
ズクシは人魚達に撤収の指示を出すと同時に、
念の為に、隠密のスキルがある者を数名残し、暫く監視するそうだ。
俺達はハクロウとアウランに乗り、街に戻る事に。
セティから、今回はハクロウとアウランがグライアイをそれぞれ倒した聞いたので、
街に戻ったらご褒美に、特大の肉を出して労ってあげないとね。
街に到着すると、アイリーンが俺達を見送った時と同じ場所で皆の帰りを待っていた。
「皆さん、よくぞ無事で戻られました。ズクシ、詳細を報告してもらえますか?」
「はっ!カルさんとセティさんの尽力もあり、カリュブディス及びグライアイは無事に討伐。負傷者が数名出ましたが、セティさんから薬を頂き、既に治療は終わっています。現在監視を残して・・・女王様?」
「・・・カリュブディスを・・・倒した?」
「はい。最後はカルさんの見事な一撃で完全に粉々に・・・」
「粉々に・・・」
ズクシの報告を受けていた女王が、頭を抱えながらフラフラと倒れてしまった。
報告に変な所は無かったはずだが、どの部分がダメだったのだろう?
周囲にいた人魚達が女王を支え、近くのベンチに腰掛けさせる。
暫く休むと、女王は意識を取り戻す。
「すみません、報告の内容が予想以上だったもので・・・」
「一体どの部分が・・・?」
「全てです、全て!我ら人魚族数百年に渡る懸念がこうもあっさりと・・・」
アイリーンが言うには、初代海王が封印した7柱の魔物達は、
海の民達が多大なる犠牲を払い何とか封印する事の出来たものだったのだそうだ。
それを1人の犠牲者も出さず、バクナワに続きカリュブディスまで倒してしまった事に、
どう喜んでいいのか困惑してしまったのだそうだ。
7柱の魔物達はその規格外の強さもあり、
亜神として崇められていても不思議では無い程の存在だという。
※亜神
神の如き強大な力を持つが、神には遠く及ばない者。
または、個の生物としての存在を超えた尋常でない力を持つ者達の総称。
中にはその絶大なる力から、人々からの信仰を得、神の領域に上り詰めた者も存在する。
確かにそんな厄介な化け物を2匹も倒してしまえば、複雑な気持ちになるのも無理はない。
「ですが、私がこの街でカリュブディスを監視するという大きな役割が無くなった事を嬉しく思います。これからはその分、街の為に力を注ぐことが出来ますから」
アイリーンを始め、海王の妻達は街を治めるだけでなく、
封印された魔物達の監視という重責を負っていた。
今回、その1つが解消された事は、今後大きな意味を持つのかもしれない。
こちらとしては成り行きでこうなってしまったが、
結果としてアイピが住むこの街を救えた事で満足している。
「それでは、カリュブディスを無事討伐した事を祝い、宴を開く事にしましょう。ズクシ、城の食糧庫を解放し、宴の準備を」
「かしこまりました」
アイリーンの提案で、街を挙げての祝勝会を開く事になった。
女達は城の食糧庫から食料や酒を出し、それぞれ料理を準備、
その一方、男達は会場の設営準備に取り掛かる。
俺とセティは今回の立役者という事で、座って待っていてほしいと言われた。
そこで、トイレに行く振りをしてこっそり箱庭の中に入る。
折角の宴となれば、色々と用意したい物があるからね。
宴で用意するものといえば、やはり酒であろう。
冷えたビールに、ウィスキー、焼酎、日本酒、梅酒等、様々な酒を一通り購入しておく。
料理は女性陣が作っているようなので、今回はお任せするが、
刺身醤油とワサビは多めに持って行く事にしよう。
それから料理には潮汁とか出てきそうなので、赤味噌と麦味噌も購入しておく。
これだけ揃えれば準備万端、戻って宴を待つ事にしよう。




