不思議な勾玉
宴の後、アルガス達と別れ宿屋へと戻って来た。
出来るだけ良い酒を注文したが、出て来たのは温いエールと少々塩辛い料理ばかり。
だが、気の合う者達と飲んだ事もあって久しぶりに気分良く酔えたと思う。
一方、セティはレイチェルとカミラに可愛がれ過ぎた為に少々疲れているようだ。
また、初めて居酒屋に入っただけでなく今日会ったばかりの人達と一緒の席に座ったので面白かったと言っていた。
その日は交互に風呂を済ませた後、早々に休む事にした。
すると翌日、激しい痛みで目を覚ます。
「うぐっ…、頭が、痛い…。」
「もう、あんなにお酒を飲むからだよ。お水、持ってこようか?」
「お願いします…。」
流石に飲み過ぎた事もあって酷い二日酔いになってしまったようだ。
酒場で出されたエールはアルコール度数こそ高くなかったが、あれだけ飲めば流石にこうなっても仕方がない。
セティが持って来てくれた水を飲み、顔を洗って支度を整えていく。
今日も常設依頼を受ける事にし、ギルドに寄らずそのまま東の森へ向かっていった。
到着後、セティが周囲の気配を探りながら魔物を探していく。
昨日、気配を消す技を身に着けたお陰で、今日はスムーズに狩りをする事が出来、短時間の間にホーンラビットを10匹仕留める事が出来た。
道中、見かけた薬草を採取しながら順調に依頼をこなしていった。
正午になると、露店で見かけて購入したサンドイッチを食べながら一休み。
「順調だけど、もう少し強い魔物が出て来てくれても良いんだがな。」
「油断は禁物だよ。いつも倒せる魔物が出るとは限らないからね。」
昨日のように滅多に現れるはずの無い魔物が襲って来る事もあるのだ。
たまたま倒せたから良いものの、セティの言う通り油断するのは良くないな。
休憩した後、今日はもう十分に稼げているので、そろそろ戻ろうかと話していると、セティが何かを感じ取ったようだ。
「どうかしたのか?」
「何だろう?この先に、何かある気がするの。」
「人か?魔物か?」
「ううん。良く分からないけれど、不思議な気配を感じるの。」
不思議な気配というのが気になるが、危険が無いのであれば念の為に確認しておきたい。
但し、少しでも危険を感じた時は即逃げる事をセティに伝えたが、返って来たのは空返事だった。
余程、その何かが気になっているのであろう。
セティが気配を探りながら森の奥へと進んで行くと、徐々に周囲の木々の高さが増していく。その為、陽の光が届かなくなり、ひんやりとした心地の良い風が肌を撫でる。
その時、周囲を見渡してみるとある事に気が付いた。
舗装こそされてはいないが、草木の生えていない道が森の奥まで続いていた。
獣道とは明らかに違っている事から、人の手が加えられたものだと分かる。
この先に何があるのだろうと思っていると、急にセティが足を止める。
「この先に、何かがあるみたい。」
セティが指さす方向へ進んでいくと、目の前に少しだけ小高い山が見えて来る。
道も続いている事から、どうやらあそこが目的地のようだ。
警戒しながら山を登っていくと、そこには見覚えのある意外な物が姿を現した。
「あれは鳥居、か?」
森の中に突然現れた木製の古ぼけた鳥居がひっそりと佇んでおり、更に山の上へと階段が続いている。
鳥居に近づいて調べてみると、一部に赤い色が残っている事から、元々は全体が朱色だった事が伺える。
だが、色の剥げ方や苔、蔓植物が付いている事から長い間放置されていたと思われる。
「この先に、何があるんだ?」
セティは無言で鳥居を潜り抜け、石で作られた階段を登って行く。
もしかして、何かに引き寄せられているのだろうか?
セティの後を追うように後ろから付いて行くと、階段の先に開けた場所が現れ、その奥には小さな社が建てられていた。
何故こんな場所に社が?
そもそも、ここは異世界だぞ?
不思議に思っていると、セティは迷う事無く社へと歩を進めて行った。
訳が分からないが、ここに何があるというんだ?
社を見ると、これも相当古いもののようだが幸い朽ちている様子は無い。
だが、屋根には苔の他に雑草まで生えている事から、建てられたのは数十年前?いや、もっと古い時代に建てられたものだと察する事が出来る。
この異世界に誰が建てたのかと見ていると、セティが躊躇う事も無く、社の扉を開けて中に入ってしまった。
「お、おい。勝手に入っちゃ駄目だろう!」
社は神聖な場所なのだから勝手に入っては駄目だろう。
先程からセティはずっと上の空だった事もあったので一度、止めた方が良さそうだ。
慌てて靴を脱いで社の中に入ると、セティが何かを見て立ち止まっている。
「一体、どうしたんだよ?」
「・・・見つけたよ。」
何を見つけたのかと奥を見てみると、そこには祭壇のような場所に何かが祀られていた。
置かれているのは…小石か?
形からして古い勾玉のようにも見えるが、うっすらと光を放っている。
「これは何なんだ?」
「大丈夫。この石から、お母様と同じ力を感じるの。」
「ナギと同じ力?もしかして、これを探す事が目的で異世界に来たのか?」
「分からないけど、目的の1つだよ。」
ナギからはセティの保護者として同行する事を頼まれているだけなので、修行の詳しい内容は分かっていない。
だが、この石を探す事が目的の1つだったようで今の言動から他にも探さなければならない物があるのだと推測出来た。
目の前の勾玉は神秘的な光を放っており、ただの石ころで無い事だけは分かる。
それにしてもこの社といい勾玉といい、この場所は一体何なんだ?
来る途中、周囲には他に建造物は見当たらなかったが昔、ここに日本人でも住んでいたのだろうか?
神主か管理人でもいたら知る事も出来たかもしれないが、この様子では最近、訪れた人は皆無だろうな。




