屋敷調査
酒場でキレットと別れた後、明日の朝までどうするか悩んでいた。
アイピは宿屋に泊る予定で一緒にどうかと言っているのだが、
正直この異臭の中で眠りたくはないし、何よりお腹も空いている。
セティの顔を見ると、頷いているのでアイピを連れ裏路地へと入っていく。
「カルさん、こんな場所で何をするんですか?」
「アイピ、今から起こる事、誰にも言わないと約束してくれ」
「絶対に内緒」
「良く分かりませんが、私、口は堅い方ですから安心して下さい」
言質を取った所で周りを見渡し、誰もいない事を確認、
そしてここに扉があってもおかしくないと思う場所を探す。
手頃な建物を見つけ、箱庭の扉を壁に設置する。
「な、何で急に扉が??」
「内緒だよ」
セティはアイピの手を取り扉の中に入り、俺も再度辺りを見渡し、中に入る。
箱庭の中に入りマスクを取ると、息苦しさが無くなり新鮮な空気を吸う事が出来た。
「アイピもマスク取ってみな。空気が美味しいぞ」
「・・・あれ?臭くない?それより、ここは何処ですか!?」
「ここは異空間の中だから、さっきいた場所とは別の所だよ」
「お二人は一体・・・?」
混乱するアイピを連れ、まずは食事をする事に。
幸いアイピは好き嫌いが無いという事なので、
色々な料理を楽しむ事が出来るバイキングの店へ連れていく事にした。
見慣れぬ店に入った事で初めは戸惑っていたが、セティが料理を注文し、
アイピに一口放り込んであげると、目を丸くして美味しそうに食べていた。
「こんなに美味しい料理、初めて食べました」
「他にも美味しい物、一杯あるからね」
「本当に?うう、全部食べたいよぉ」
その後、デザートとしてサントラレーゼの店に寄りケーキやアイス、プリンなどを購入。
風呂上がりに一緒に食べるそうだ。
「アイピって、風呂は大丈夫なのか?」
「お風呂ですか?確か温かいお湯が一杯あるんですよね?話だけは聞いた事がありますよ。人魚族は海の中で生活しますから、時々身体を拭くくらいなんですよ」
そんな人魚族のアイピを、お風呂に入れても大丈夫なのかと心配になってしまった。
「ゆ、茹で上がったりしないかな?」
「温い所もあるから、そこなら多分大丈夫だよ…」
旅館の中に入り、後は明日まで自由行動にし、アイピはセティに任せる事にした。
俺はとにかく風呂に入って着替えたいので、風呂場へと向かう。
日本酒と酒盗を肴に、一日の疲れを取る。
風呂から上がると、休憩スペースでアイピを団扇で扇ぐセティの姿があった。
「だ、大丈夫か?」
「一番温い所にいたんだけど、長く浸かっていたからね」
「おふろ、すごかったです・・・。でも、気持ち良かったですよ」
アイピに限らず、人魚族は長湯禁止にしよう。
その後、アイピとセティは同じ部屋で休む事になり、
俺はベランダで一人ゆっくり、二度目の晩酌をしてから休む事にした。
翌朝、朝食を食べた後、再びスポーツマスクに消臭スプレーをかけ外に出る事に。
扉からこっそり顔を出したが、幸いなことに周囲には誰もいなかった。
早速、約束通りキレットの待つ領主の館へと向かう。
すると、門の前に数名の衛兵とキレットが待機していた。
「カルさん、良く来てくれました。こちらは準備出来ています」
「それでどういう手筈でいくつもりだ?」
「まずは父の所へ行き、父の安全を確保してから離れを抑えようと思います」
「もし本当に病気ならセティに診てもらおう。この子の薬学の知識は凄いぞ」
「本当ですか!?それは助かります。それでは参りましょう」
キレットを先頭に屋敷の中に入って行く。
既にメイドや執事達はホールに待機しており、キレットからの指示を待っていた。
衛兵たちは手際よく、入り口などを封鎖していき、誰も出入りが出来ないようにしていく。
キレットに案内され、領主が休む部屋の前まで来ると、
ノックもせず中に入り、中を確認する。
しかしそこには、ベッドで休む領主と思われる男性以外、誰の姿も無かった。
キレットはベッドに近づき、男性に声をかける。
「父上、父上!起きて下さい」
「・・・デイ‥ノー、お前に、全て・・・任せ・・・る・・・」
キレットの問いかけに、領主はうわ言の様に繰り返すだけだった。
「デイノーって例の3人の事か?」
「はい、3人は姉妹で、デイノーは長女の名前です」
はて、どこかで聞いた事のあるような名前だが、どこだったかな…?
だが、今はそんな事は後回しだ。
「セティ、領主さんを視てくれ」
「父を、お願いします」
「うん、任せて」
セティが鑑定眼で領主を診察していく。
「父の容体はどうですか?」
「何か、幻覚剤のような物を飲まされているみたい。すぐに治療するね」
そう言ってセティは、今まで作っておいた薬をアイテムボックスから取り出し、
3本の種類の違う薬を少しずつ飲ませていく。
幻覚剤を飲まされているとなると、3人がこの事態の元凶で間違いないようだ。
領主が薬を飲み終わると…。
「うう・・・キレ・・・ットか?私は何を・・・」
「安心して下さい。父上はあの3人に幻覚剤を飲まされていたようですが、この方々が助けてくれたのです」
「そうか…あの魔女どもは私に薬を・・・」
「魔女?奴らは魔女なのですか!?」
「キレット、奴らを捕らえよ。この街が、危な、い・・・」
「父上!?」
領主はそれだけを言い残したあと、体力の限界が来たようで深い眠りについてしまった。
それにしても3人が魔女とは、事態は思ったより悪い方向に進んでいるようだ。
「カルさん、奴らを捕らえましょう」
「ああ、だがそれは俺達が行く。キレットはここで父親を守れ」
「・・・分かりました、よろしくお願いします」
「アイピもここで待っていてくれ。戦いになったら足手まといになる」
「はい、分かっています。二人共、どうか無事で」
俺とセティは屋敷を出て、急ぎ離れがある方へと向かう。




