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FoxBoxで異世界放浪記  作者: 風詩
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森の月見酒

「セティさんが飲ませてくれた薬のお陰で父の傷は癒えました。本当にありがとうございます」


「これで、奴らに反撃する事が出来ます」


ディアさんの息子ファルセンとレイナートは、父が万全な状態なら勝てると確信しているようだ。

確かに、手負いであるのにも関わらずあの剣の腕前、万全の状態であれば決して巨人族には引けを取らないだろう。


「父上、お二人に助力を頼んでみてはどうでしょう?」


「カルさんの剣の腕前は父上に引けを取らない。それにセティさんの強力な魔法に、あの二匹の狼も素晴らしい戦力です」


「だが、我が国の問題に、これ以上拘わらせる訳には・・・」


いくらディアさんが強いとはいえ、巨人族の数とその二匹の上位種とやらの強さが気になる。

ファルセンの言うように俺達が加勢すれば、ディアさんの負担を軽くする事が出来るだろう。


「セティはどう思う?」


「聞かなくても分かっているでしょ?」


「という訳だ。乗り掛かった舟だ、最後まで付き合うよ」


「・・・感謝する。君達の助力があれば、これほど心強い事は無い。だが、一つ問題があるのだ。私とカルの剣で、巨人族の二匹を倒すことは出来ても、殺す事は出来ないのだ」


巨人族を率いる二匹の上位種は、通常のトロルとは比較にならない程の再生能力を持っており、首を刎ねた程度では倒す事が出来ないようだ。

いくら俺とディアさんが頑張った所で、死なない相手に勝つ事など不可能だ。


「何か、奴らを殺す方法は無いのか?」


「一つだけあるにはあるのだが…」


ディアさんが腰に下げていた剣をゆっくりと引き抜くと、刀身が妙に赤く煌めいていた。


「これは私が若い頃に旅先で手に入れた魔法武器マジックウェポンだ。見ての通り炎の力を内包している。しかし、使用回数が残り少ないんだ」


魔法武器マジックウェポン

武具を作る際、魔素を含む特殊な素材を掛け合わせる事で作られる武器の総称

同様に防具も存在し、通常の素材では到底引き出せない効果を付与出来る。

武具に刻まれたルーン文字の光加減で、残りの使用回数が予想出来るとされる。


「この剣であれば、一体は倒すことが出来るはず、だが・・・」


ディアさんの持つ剣に彫られたルーン文字は光をあまり放っていないので、寿命が近いという訳だ。

魔法武具は、無限に使用する事は出来ない。

使われた素材にもよるが内包されている魔素量には限度があり、それを使い切ればただの剣になる。


「素人考えで悪いが、魔力を充電チャージ出来ないのか?」


「それが可能な魔法武器もあるとは噂に聞いた事がある。しかし、残念ながらこれは普通の物だ」


「つまり、似たような武器がもう一つあれば、二匹を同時に倒す事が出来る訳だ」


「はは、そう簡単に言わないでくれ。魔法武器はダンジョンの中でしか見つからない貴重な物。その辺りの武器屋では取り扱っているような物では無い」


ダンジョンではそういった物が見つかるのか。

いつか潜った際に手に入れてみたいが、魔力が無い俺が持っても発動するのかな?


「それは問題ない。セティ、炎を頼むよ」


「うん、分かった」


「何をする気だ?」


俺は3人の前で狐徹を抜き、セティの魔法を受け止め炎を纏わせた。


「それは魔法武器、いや、魔剣とも違うようだな?ただの剣士では無いとは思ったが、そんな物まで持っているとは驚いたよ」


「これなら問題は無いだろ?」


「もちろんだ、これなら勝てるかもしれない」


ディアさんはすぐにファルセンとレイナートに戦いの準備を整えるよう指示を出す。

作戦は至って単純。

巨人族は策略などを画策する頭脳は無いので俺とディアさんが前線で注意を引き付け、後衛部隊が樹の上から弓と魔法で援護するというものだ。

ただ、前線が二人だけだと取りこぼしがあるかもしれないので、ハクロウとアウランにも手伝って貰う事にしている。

この子達は俊敏な動きと近接、遠距離攻撃を使い熟す万能型、その力で敵を蹴散らして欲しい。


その日の夜、セティは用意された客間でハクロウとアウランに埋もれて眠りに付いていた。

俺はというと昂る気持ちを落ち着かせる為、ベランダに出て月を眺めていた。

エルフ達は日の出前に起き、陽が沈むと眠りに付くそうで街の中には僅かな明かりしか灯っておらず、静寂に包まれていた。

おもむろに異空間収納アイテムボックスの中から、最近お気に入りの日本酒とグラスを取り出し、一人で月見酒をする事にした。

グラスに注がれる日本酒の音を愉しみ月を見ながらゆっくりと口を付けていると、何処からともなくディアさんがベランダに降り立った。


「明日は激戦になるというのに、余裕だな」


「何だか眠れなくてな。一緒にどうだ?」


「はは、頂こう」


グラスに日本酒を注ぐと、ディアさんは不思議な光景に驚いていた。


「何だ、この酒は?グラスに入ると同時に凍ってしまったぞ?」


「シャーベット酒って言うんだ。面白いだろ?」


過冷却という現象で、ゆっくり静かに冷やす事で凍るはずの温度でも液体の状態を保っていると聞いた事がある。

冷やしたグラスに注ぐと一気に氷結し、まるでシャーベットのようなみぞれ酒になると書いてある。

味はもちろんの事、見た目も面白いので思わず買ってしまった。


「・・・美味いな。世の中にはこんなに素晴らしい酒があるのだな」


「珍しい品だから、手に入れるのは難しいけどな」


理由は、異世界の酒だからとは言うまい。

俺とディアさんはそれ以上話す事も無く、月を眺めながら酒を楽しんだ。


シャーベット酒という物を、

ディアーホという友人に教えてもらった事があり、

そのエピソードを入れてみました。

銀河鉄道という日本酒で、とっても美味しいお酒です(*´ω`*)

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