バーベキューで来客
人が折角バーベキューで楽しんでいたのに、誰が訪ねて来たんだろう?
でもここはデニスの家なのだから、きっと他の貴族の誰かがやって来たのだろうと思っていると、デニスは馬車を見るなり血相を変え、急いで走って行ってしまった。
同時に執事さんやメイドさんまで、慌ててデニスの後を追って行ったが知り合いでも来たのだろうか?
「あれは、王族が使う馬車ね」
フランさんが呑気にそんな事を言い出した。
王族が使う馬車という事は、つまりそのうちの誰かが乗っているという意味じゃないか。
俺が出迎える必要は無いだろうが、フランさんは気にせずエビマヨを食べている。
来客はデニスに任せる事にして、追加の海老を焼いていると後ろから声を掛けられた。
「ほぉ、随分と美味そうな物を焼いているな」
「良い焼け具合だよ、もう食べていいぞ」
「それでは、お言葉に甘えていただきます」
「どうぞ、どうぞ・・・って、あれ?」
何だか聞いた事のある声が気になり振り返ってみると、そこには王様とアイリス、護衛のアベルが立っていた。
「・・・何故、王様がここに?」
「ここは我が国。それに王が臣下の家に来てはいかんのか?それで、儂らも食べて良いのか?」
「それは、別にいいですけど…」
「セティちゃん、どれが美味しいの?」
「このホッテとエビマヨが美味しいよ、アイリスお姉ちゃん」
王様とアイリスに焼いた海鮮を皿に載せ渡していくと、二人は美味しそうに食べていた。
セティとフランさんを除く他の者達はその姿を見て、どうしていいのかおろおろしているじゃないか。
そりゃいきなり王様が来てバーベキューに参加したら、誰でも驚くよね。
というか、毒味もしないで食べるなんて警戒心が無いにも程がある。
その証拠に、アベルや護衛の騎士達までハラハラしながら見ているよ。
きっと普段から自由奔放な王族に苦労しているのだろうな。
労いも兼ねて美味しい海鮮をご馳走する事にしよう。
「アベル、良い具合に焼けてるぞ」
「わ、私は護衛で来ていますので」
「アベル、貴方も食べなさい。美味しいですよ」
「・・・はい。分かりました」
アイリスの優しい一言で、アベルと護衛の騎士達は遠慮がちにではあるが海鮮を食べてくれた。
「あ、ビールも飲みますか?」
「ビールとは何だ?また新しい酒か?」
冷えたビール瓶を開け、冷えたジョッキに注いで手渡すと王様はそっと口を付けた後、カッと目を見開き一気に飲み干していった。
「ぷはぁ!美味い!」
良い飲みっぷりだ。
王様からビールも売りに出すよう頼まれたが、冷蔵庫が十分普及してないので今は難しいと断ると、残念そうにしていた。
ビールは上流階級だけの飲み物じゃないからね。
その後、アイリスから献上したジャイアントシルクワームの反物について色々と質問をされる事になった。
特に母である王妃様が気に入ってくれたそうで、何を作るか仕立て屋と会議までしているらしい。
海鮮とビールを堪能した二人は、そろそろ城へ戻る事になった。
その際いつでも城へ遊びに来てくれて良いと許可を得たが、やんわりと断っておいたよ。
「今日は馳走になったな。また美味い物と酒を楽しみにしているぞ」
「カルさん、セティちゃん。いつでも私の所に来て下さいね」
そう言って王様達は城へと帰って行った。
セティとフランさん以外はやっと帰ってくれたという感じでほっと胸をなで下ろしていたよ。
それにしてもあの王様は一人で良く飲み食いしたものだ。
大量のビール瓶と貝の殻を見て呆れていると、デニスが溜息を付きながら・・・。
「お前達といると、本当に退屈しないな」
「お気に召したようで何よりだよ」
「皮肉だ、馬鹿。それより、ビールはどうにかして売りに出したい所だな」
デニスはビールを随分と気に入ったようで、何とかしたいと考えているようだ。
幸い、街の経済は新商品の影響もあって税収が潤っているので、酒を扱う各店舗に冷蔵庫を支給する事は可能だと言っている。
問題は保管する為の倉庫をどうするかというところだ。
ビールの保存方法は難しく、専用の保管場所が必要となる。
可能であれば、ワインセラーのような一定の温度が保たれる場所だ。
ビールを保管するには高過ぎず、低過ぎない場所が最適なので、そんな場所があるのが一番良い。
そこでデニスには、商業ギルドと共同で大規模な貯蔵庫を地下に作ってはどうかと提案してみる。
どうせなら他の酒も同じように保管するのが望ましいからね。
すぐに出来る物でも無いし、実際に可能かどうか調べてみないと分からないので、街に戻ったら商業ギルドのギルマス・キアラさんと検討してみるそうだ。
キアラさんの事だから、二つ返事で作ると言い出しそうだけどね。
次の旅から戻ってきたら、完成している可能性もあるな。
翌日、デニス達をビフレストの街へ送り届ける為、支度を整えていく。
ハンスとアンナに見送られながら王都を後にし、本人達の希望でデニスとフランさんはハクロウに乗り、セティとクリスはアウランに乗って出発する。
俺は3度目の乗馬となって随分と慣れてきたがやっぱりアウランの乗り心地には敵わないな。
帰りは一度も魔物と遭遇する事無く、ビフレストの街へと戻って来た。
「カル、護衛の仕事を引き受けてもらって助かったよ。こんなに楽な旅は初めてだった」
「気に入ってもらえて良かったよ」
「また王都に行く時は、お二人にお願いしないといけませんね」
「全くだな」
同行するのが二人までなら移動時間も半分になると伝えると、急ぎの時は頼むと言われたよ。
その日はそのままデニスの屋敷で泊まる事になり、明日からは次の目的地へと向かう事にしている。
だがその前に、1つやるべき事を済ませる事にした。
EP:毛皮作り
今日は王女御一行を襲ったブラックタイガーとフォレストタイガーの解体に冒険者ギルドを訪れた。
どちらも毛並みが美しく、敷物にしたら部屋がグッと豪華になると考えている。
しかし、ここで思いもよらぬ事実が判明した。
解体が終わり、いつものように魔石を受け取り依頼しておいた毛皮を受け取ったはいいが渡されたのは剥ぎ立てホヤホヤの新鮮な毛皮だった。
血は拭き取ってくれてはいたものの、裏面には皮下脂肪がたっぷりと付いていた。
オマケに匂いも強烈で、こんな物を直接部屋に敷けば大変な事になってしまう。
困惑しながら受付の職員に、どうすれば敷物に出来るか尋ねてみると予想外の答えが返って来た。
「こちらを敷物にですか?それでしたら、なめし職人の所に預けるのが確実かと思いますよ」
そう言われてみると以前、テレビか何かでそんな事を言っていたような気がして来た。
確か皮下脂肪を専用のナイフで削り取るんじゃなかったかな。
※除脂
専用のナイフで皮下脂肪を取り除く作業
他にも特殊な液体に漬けるとか言っていたような気がする…。
※なめし液
ミョウバン又は、タンニンが含まれた液に一週間ほど漬け込むと、タンパク質が変質させる事が出来る。
他にも樟脳という防虫剤を使用すると良い。
そして皮を縦横全ての方向から引っ張るように伸ばし直射日光を避けながら一ヶ月以上、陰干しする。
直射日光で干すと、皮がパリパリになってしまう。
また、裏面を専用の道具で叩くと少し柔らかくする事が出来るという。
「もし毛皮にされるのでしたら、なめし職人をご紹介致しましょうか?」
職員さんによれば、この大きさの皮を綺麗になめすとなると最低でも2~3ヶ月はかかるだろうと言っていた。
予想以上に時間が掛かると知り、セティは俺の裾を掴んで無言で首を横に振ってきた。
俺達は目的があってこの世界に来たのだから、悠長に待っている時間は無いな。
「あの、やっぱりこれも買い取りお願い出来ますか?出来れば他の物も・・・」
「うちとしては有難いですが、宜しいのですか?」
「ええ、ちょっと時間が掛かり過ぎなんで・・・」
本物の毛皮、欲しかったけどいつまでもこの街にいられる訳じゃ無いし今回は諦める事にしよう。
結局、毛皮だけでなく異空間収納に入れておいた魔物の素材一式、全て売り払う事にした。
その帰り道、偶然立ち寄った雑貨屋で見かけた手織りの絨毯を衝動買い。
お陰で部屋が少し華やかになったよ。
バーベキューしながらビールを飲む。
久しくやっていないなぁ(´・ω・)
ホタテのバター焼き、そこにビールがあればいう事無し!




