異世界へ旅立つ・其の1(改)
初めての投稿作品となります。
中々思うように書けませんが、
生温かい眼で読んで下さると幸いです。
不思議な依頼を受け、到着したのは見知らぬ深い森の中だった。
何処からともなく鳥とも動物とも思えぬ聞き慣れない鳴き声が聞こえて来る中、隣に目をやると白銀の体毛を持つ可愛い子狐が不思議そうにこちらを見つめている。
一体何故、こんな場所で子狐と一緒にいるのか?
それは職業安定所からの帰りに、とある神社に立ち寄った事から始まった。
俺の名前は元村業
今年40歳になる独身貴族という奴だ。
昔ながらの寂れた小さな観光地で産まれ育ち、20歳の時に100年の歴史を持つという老舗旅館に就職。
しかし、先月起きた地震で地層が変化したとかで源泉が枯渇してしまい、先月あっけなく倒産。
この街には温泉以外の魅力は無く、この厳しいご時世では長くは持たなかっただろう。
それ故、社長に解雇を言い渡された時は、素直に納得する事が出来たよ。
だが、生きる上には金が要る。
取り急ぎ次の働き口を探してみるが、大した資格も持っていなかった事もあって、中々条件の良い職場が見つからない。
唯一良さそうな職場までは家から車で90分と悩む距離にある。
しかも、雇用条件を見ると通勤手当も出ない上に立ちっぱなしの肉体労働となっている。
贅沢を言える立場ではないが今回は見送る事にして、職安を出た俺は当てもなく彷徨っていた。
店の大半がシャッターを降ろした古い商店街を抜け、気分転換も兼ねて歩き続けていると昔、子供の頃に一人で良く遊びに来ていた神社が見えて来る。
古ぼけた朱色の鳥居を眺めていると、蘇る懐かしさから先刻までの憂鬱な気分が少しだけ楽になる。
折角ここまで来たのだからと久しぶりに境内を見たくなり、階段を登る事にした。
鳥居は神様のいらっしゃる「聖域」と下界の人間が暮らす「俗界」を隔てる神聖な場所、その程度の知識は持ち合わせている。
鳥居の前で一度立ち止まり「失礼致します」と、心の中で呟き一礼してから鳥居を潜った。
杉木立が鬱蒼と茂る山道は、薄暗くひんやりとした空気と苔の湿った匂いがノスタルジーを感じさせてくれる。
暫く進むと、参道の脇に狐の像が置かれているのを発見する。
あまり詳しくは無いが、ここは狐を祀る有名な神社だったという事を思い出す。
先程よりやや深く一礼してから像の前を通り過ぎようとした時、突然頭の中に聞き慣れない声が響いて来る。
「其方、ここに来るのは久しぶりじゃのう」
突然、女性の声が聴こえて来た為、驚いて周囲を見渡してみるが声の主は何処にも見当たらない。
空耳だったのかと耳に手を当てていると、再び女性の声が聴こえて来る。
「妾はこの神社に祀られし神の使い。此度は其方に、特別な仕事を依頼したいと思って声を掛けたのじゃ」
「あ、宗教の勧誘でしたら間に合っていますので、お断りしますね。それではー」
「ま、待て待て!そのような俗な話では無いぞ。見た所、其方は失業したばかりで次の仕事を探しているのであろう。良ければ面白き仕事があるのじゃが、興味はないかのう?」
「仕事なら職安を通して貰わないと困りますよ。雇用保険や社会保険が・・・」
「顔の割に随分と現実的な男じゃな…。悪いがこれから紹介する仕事には、保険どころか命の補償さえ存在しない。その代わり、誰もが経験した事の無い未知なる世界を味合わせてやれるぞ」
「未知なる世界ね…。火星でジャガイモでも育てろってんですか?」
「妾には一人娘がいるのじゃが、これから修行の為に異世界へ旅立たねばならんのじゃ。そこで其方には、その旅に同行し保護者として娘の事を護って欲しいのじゃよ」
「へぇ、異世界に行くんですか。それは随分とまぁ遠くまで…って、異世界???」
今、異世界って言った?
異世界というと剣や魔法、エルフや獣人、そして危険な魔物が跋扈するファンタジーな世界の事?
俺は昔からゲームや漫画が大好きで、最近では異世界転生などの小説も読んでいるが、あの異世界の事なのか?
「その異世界って、俺が想像してる異世界で合っています?」
「其方の中二病的な認識で合っておるぞ」
「ば、馬鹿馬鹿しい!そんなのは空想で、異世界なんて存在しないさ」
「じゃが、異世界は存在する。妾はその世界から来たのだ」
「ははは、そんな馬鹿な。…マジ?」
「マジじゃ」
「い、いや、仮にそんな世界があったとしてもだ、魔物や盗賊に出会ったらどうするんだよ?即ゲームオーバーだなんて洒落にならないぞ!」
異世界には、この世界の常識が通じない危険が満ち溢れているはず。
そんな世界に武術の心得さえ無い40のおっさんが行った所で何が出来るというのか。
ましてや女の子を守りながらだなんて無理に決まっている。
「安心せよ、妾とて鬼ではない。向こうで役立つ便利な技能をいくつか授けてやろう」
これから向かう異世界では文明があまり進んでいないようで、今の生活に慣れた俺にはとても不便な場所だという。
風呂は貴族の様な裕福な家庭にしかなく、トイレも大昔のもの、食事だって味気ない物になるという事だ。
「そこで其方には、狐の箱庭という特別な技能を授けてやろう」
「・・・箱庭?」
※狐の箱庭
要約すると現地の「お金」と魔物から採取出来る「魔石」を消費する事で、今と変わらぬ生活を維持出来る。
確かにそれは、俺にとってどんな技能より有用なものになるだろう。
いくら強くなろうが、生活そのものが豊かになる訳じゃ無いからな。
次に授かったのは定番中の定番「異空間収納」という技能だ。
しかも容量無制限、時間経過による劣化も無いという優れもの。
但し、生物は収納する事が出来ないとの事。
「どっちも便利な技能で嬉しいんだが、せめて魔物と戦えるだけの力は欲しいんだが…」
「うむ…、確かにその細腕では全く頼りにならんな」
「返す言葉も無い」
運動不足が一番の原因だが、そもそも年齢的に下り坂真っ最中なんだ。
「どうしたものか…。それに年齢もちょっと行き過ぎて…コホン」
何かサラっと失礼な言葉が聞こえたぞ。
声の主は暫く考え込んだ後、俺の身体能力を向上させ、ついでに若返らせると申し出て来た。
若過ぎても困ると答えると、20歳ならどうかと提案して来る。
本当にそんな事が可能なのかと疑ったが、事実だったらありがたい話だ。
それから戦闘用に「刀剣術」の技能を授けてくれるという。
剣術ではなく刀剣術というのが気になったが、向こうで刀なんて手に入るのか疑問だな…。
現在、改訂作業をしております。
300話以上書き続けた結果、随分と書き方などが変わった為です。
出来るだけ読み易くして参りますので、何卒ご理解下さい(/ω\)
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