俺と僕が愛する幼馴染は超鈍感女
相河ななせには、二人の幼馴染がいる。家が近いため、保育園の頃から高校生になった今に至るまで、ずっと一緒だ。
周りからはイケメンな幼馴染が二人もいて羨ましいだとか、どっちと付き合ってるのだとか、色々と言われたり聞かれたりするものの、ななせにそんな感情はこれっぽっちもない。
どちらも、クセが強すぎるからこそ。
「おい、なー。俺の鞄持て」
「なっちゃん、僕の手引っ張ってー。スマホ弄りたーい」
「どっちも嫌だよ!」
学校へ行く道すがら、幼馴染たちにそう言われて、ななせはすぐさま拒否した。
幼馴染たちから呼ばれる、「なー」や「なっちゃん」というあだ名は保育園の頃からずっと変わらないが、正直恥ずかしい。
しかし、ななせも鞄を持てと煩い幼馴染、香山充悟を「じゅっくん」、手を引っ張れと煩い幼馴染、重森実尊を「みっくん」と呼んでしまうくせが抜けていなかった。
情けない事だと思っているが、いきなり呼び方を変えるのは他人行儀な感じがする事から、結局そのまま。
頼みを拒否された充悟は舌打ちし、実尊は「えーっ」と不服そうに言ったが、二人はななせの事を『言えば何でもしてくれる』と勘違いしている。ここは心を鬼にする必要があると判断したななせは、二人にあっかんべーをして歩き出した。
ななせの背後で顔を見合わせた充悟と実尊は、頼みを拒否できて喜んでいるらしいななせの隣に立ち、右手に鞄を持たせ、左手を取る。
「わっ!? 何っ!?」
突然の事に驚くななせに対し、充悟はニヤリと、実尊は満面の笑みを浮かべた。
「いいから、それ持っとけ。軽い上に、魔除けになるぞ」
「そーそーっ。それに、僕も転ばなくて済むし!」
「魔除け!? そっ、そんな効果があるなら、有り難いかも……」
実尊の発言は無視したが、ななせは充悟の何も入っていなさそうな鞄を持つ。結局、実尊の手も繋いだまま学校まで向かった。
学校についてすぐ昇降口へ向かう三人。スリッパに履き替えようと下駄箱の扉を開けた時、スリッパの上に封筒が乗っているのが見えた。
「あっ。また誰か私の下駄箱をポストか何かと勘違いしてる人がいる……」
「は? ……入ってるの、貸せ」
充悟にそう言われたななせは、白い封筒を充悟に渡す。すると、充悟はすぐに封筒を縦に破いた。
「なー。ああいうのは新手の詐欺だ。見つけたらすぐに処分しろ」
「えっ!? うっうん、わかった……」
充悟の言葉に軽く恐怖を覚えたななせは、ゆっくりと頷く。そして、充悟は実尊に「そいつ処分しとけ」と言ってから、ななせの肩に手を回して歩き出した。
「なー。封筒もそうだが、この学校の男に呼ばれても反応するなよ」
「へ? それって、じゅっくんやみっくんにも?」
「バカ、俺らは別だ。他の男どもにだよ。……この学校の男どもは狼男だからな」
狼男。充悟の口から飛び出した恐ろしい言葉に、ななせは肩を震わせる。小学生の頃にはライオン男ばかりで、中学生の頃は虎男ばかりだと教えられてきた。今度は狼男が大量発生しているなんて。
俯いて怯えるななせを、充悟はそっと抱き寄せる。充悟の黒髪がななせの顔に当たってこそばゆく感じた。
「大丈夫だ。俺と実尊が、必ずお前を守ってやるよ。……昔、そう約束しただろ?」
約束。確かに、ななせは充悟や実尊とそんな約束をした……ような気がする。それほど前の約束を覚えている充悟に対し、素直に凄いと思うななせ。
「えへへっ。じゅっくんとみっくんは、私の王子様だもんね」
充悟の優しい言葉に嬉しくなったななせは、笑顔でそう言う。しかし、すぐにハッとして両手を胸の前に出して振った。
「あっ! でっでも、私は俺様なじゅっくんやマイペースなみっくんじゃない、他の人間の男の人としか結婚しないから!! じゃあね!」
ななせはそれだけ言って、教室に逃げ込む。もう席についていた友達に挨拶をしていると、廊下の方から物凄く大きな音が聞こえた。
「ひゃう!? いっ、今の、何の音だろう!?」
「うーん。……恐らく、王子様が変な男を蹴飛ばしたんだと思う」
「へっ……?」
友達が発した言葉の意味を理解できなかったななせは、首を傾げる。友達は乾いた笑いを浮かべてから、「何でもないからね」と言って違う話題を出してきた。
ななせはそのまま友達の話に耳を傾けたが、クラスで唯一の人間と思われる男の子に挨拶され、頬を赤らめつつもすぐに挨拶を返した。
「あっちゃー。また派手にやってるね、充悟」
「るせぇ。俺の視界に入りやがったからだ」
先ほどの封筒の送り主を処分した実尊は、廊下に転がる男子生徒の山に腰掛けた充悟を見て呆れた表情を浮かべながら溜息をつく。
別に、男子生徒に同情する気はない。何故なら、転がっているのは全て以前ななせに告白しようとした者たちだからだ。
こんな事をしても問題にならないのは、充悟の両親がこの学校に多額の寄付をしているおかげ。それもあって、実尊も暴れさせてもらえている。
「にしても、こいつらもバカだよね。僕たちがなっちゃんの側にいるのに、告白したり手紙書いたりして。まぁ、なっちゃん可愛いからしょうがないけど」
クリッとした栗色の瞳に、ハニーブラウンのゆるふわモブがななせの可愛らしさをより引き立たせていると言えた。背も低めなおかげで小動物のようだと女子人気も高い。
だが、充悟と実尊にとって自慢の幼馴染は、超がつくほど鈍感な女だった。
充悟や実尊がななせを好きだからこそしている行動にも、まるで気づかない。わざわざ名前が刺繍された鞄を持たせたり、何て事ない理由で手を繋ごうとしたりする事が、「好かれているから」など微塵も思っていないのである。
「もう十三年? くらいの付き合いなのに、なっちゃんは何で気付いてくれないんだろ」
「そりゃあ、あいつ自身が超鈍感なのに加えて、俺らが余計な知識を入れさせないようにしてるからだろ。……他の野郎に、勝手されないためにもな」
大切な幼馴染だからこそ、他の男に取られたくはない。最初から、ななせには充悟と実尊以外の選択肢はないのである。勿論、どちらがななせを先に落としても文句は言わないようにと充悟と実尊の間で昔から決まっていた。
「さて、実尊。俺は今日の昼休み、あいつに焼きそばパンを買わせてちゃんと買ってこられたらよしよしプレイをするつもりだが、お前は?」
「ん? お弁当を作ってきたから、焼きそばパンなんて買いにいかせずに卵焼きあ〜んプレイをしようと思ってるよ」
お互いの予定を言い合った後で飛び散る目線の火花。幼馴染の間でそんな謎の戦いが行われているとは、一切知らないななせ。
同時に、ななせには好きな人がいる事を一切知らない充悟と実尊だった。