第2話:抹殺者
「ギ、ギギギギィ……」
同胞が討ち取られた。その事実を目の当たりにした魔族達は忌々しそうに歯ぎしりする。
アジルの前に現れた男は短刀を携え、突き刺す様な眼光を相対する複数の標的へと向ける。
「ギァッ!」
先に動いたのは魔族達。彼らにとっては人間は娯楽として、餌として、狩る為だけの畜生。そんな奴が自分達に楯突き同胞を刃に掛ける。そんなのは理不尽。矜持が許さなかった。
男に向けられるのは無数の銃口。それは一斉に火を噴き鉛の飛礫が襲い掛かった。
銃弾はドスドスと体に突き刺さり被弾に合わせて男のマントがひらひらと揺れる。ハチの巣となった肉体は硝煙を上げて地へと崩れ伏した。
「あ、ああ……」
救世主? と思われた希望は呆気なく敗れた。それを見ていたアジルはこれから訪れる自分の運命を今度こそ確信する。
「ギャァッ!」
と、思ったのも束の間、魔族の一体の肩口から青い鮮血が噴き出し、乗っていた二輪車から叩き出された。
「ギィッ!?」
魔族の集団の真ん中から這い出す様に先程撃ち抜かれた筈の男の姿が現れる。男はマントを失ってはいるものの無傷。両手からギラつく二対の刃。円を描く様な剣閃は更に周囲にいた魔族の二、三体の頸部を裂き、それらの命を絶って行った。
慌てて銃を発砲する周囲の魔族達。火花が散った瞬間、男は瞬時に魔族達の足元に潜り込む。すると男を包囲する形になっていた魔族達が放った銃弾は男には当たらず、代わりに向かいにいる同胞と互いに打ち合う事となった。
「ギェェェェェ!」
六体程の魔族が地面に転がり落ちる。男はすかさず刃を奔らせその魔族達の喉を断ち切っていく。しかし地に視線が行った瞬間に男に銃弾は放たれる。だが弾は外れ地面に命中。代わりに発砲した魔族の首が血液を流しながら宙を舞っていた。男は首を無くした魔族の骸を引きずり下ろし、二輪車に跨る。
「ギ、ギギギ……」
離れた位置にいた魔族。集団だった彼らの頭数は今や僅か二体となっていた。
バァン!
「!?」
動揺していた所だった。間を置く事無く魔族一体の額に穴が空き二輪車から転がり落ちる。発砲したのは男。魔族から奪い取った銃で逆に彼らを狙い撃っていたのだ。
「ギギィィィィ!」
最後に残った魔族は二輪車のアクセルを全開にし、男に向かって突撃した。もう逃げられないと確信したのか自棄になって左手で銃を付き出して出鱈目に乱射しながら突き進んでくる。
男も二輪車のアクセルを吹かし走らせ魔族を迎え撃つ。錯乱し銃身がぶれ続けている銃弾が当たる筈もなく、両者は交差する。そして――
男が過ぎ去ったその瞬間には、魔族の頭と胴は分かれ、日差しの逆光が掛かり黒い影となって宙空に舞い上がり、そして落ちた。
「あ……」
アジルの両親と仲間達の命を奪った魔族の集団は瞬く間にたった一人の男の手によって葬られた。
あまりにも呆気ない幕切れ。安堵よりも急な事態の変化に感情が追いつかず、ただただ唖然としていた。
男はアジルの前に戻り、地面に落ちたマントを回収する。その下から出てきたのは穴だらけになった魔族の首無し死体。最初に討ち取った魔族の体を弾避けに使ったのだろうか?
「乗れ」
男は魔族から奪った二輪車に乗り直し、アジルにも自分の後ろに乗る様促した。
元々逃走中だった身の上。願っても無い事。アジルは感情の整理が付かないながらもコクリと頷き、男と共に二輪車に跨った。
日は既に暮れ始め、沈む日差しが荒野の大地を赤く照らし出す。
「あんた、名前は? 僕はアジル」
アジルはおもむろに男に尋ねる。
「レイゾード」
レイゾードは淡々とそう答えた。