表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

第1話:襲撃

虚空(こくう)の彼方、遠い世界の出来事。

天をも(ふる)わす悪しき魔の神が、生命の星々へと襲来(しゅうらい)した。

星を守らんとそこに住まう人々は立ち向かうが(ことごと)く敗れ、

邪悪達の狂乱(きょうらん)(にえ)として、裂かれ、斬られ、千切られ、焼かれ、(ほふ)られていった。


幾星霜(いくせいそう)()幾多(いくた)の星が邪悪なる者共の手により()ちた土塊(つちくれ)と化した。

最後に残った命の惑星。(わず)かなる芽を摘み取らんと、邪悪の魔手はすぐそこにまで迫っていた……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


雲一つない日照り空。岩と砂埃(すなぼこり)の荒野。

荒涼(こうりょう)とした大地を駆けるのは乗り手に鞭打(むちう)たれて(ひづめ)を鳴らす馬達。

彼らが引く数両の馬車団は大地に幾数(いくた)もの足跡と(わだち)を残す。

行けども行けども変わらぬ景色、果てしない地平線。

終わりの見えない(はる)かなる旅路(たびじ)。されどその先にある確かな地点を目指して。


(町にさえ、町にさえ行ければ……)


襤褸切(ぼろき)れの着衣に身を包んだ少年は馬車のキャビン内の人々を見ては切実(せつじつ)に願っていた。

周りにいるのは中年の男性と女性、少年と同じくらいの年頃の少女、それよりも小さい子供達。

皆一様(みないちよう)襤褸(ぼろ)を身に(まと)い、肌は浅黒く、()せていた。

彼らは元居た村を離れ、別の所にある堅牢(けんろう)で大きい町を目指して逃走していたのだ。

ある恐ろしい者から逃れる為に。


ヒャハハハハハハハハハハ……!!


「!?」


何処(どこ)からともなく自分達を嘲笑(あざわら)うかの様な声とモーターの駆動音(くどうおん)()こえる。

徐々に近づいてくる戦慄(せんりつ)。胸を()め付ける焦燥(しょうそう)。馬車の人々も皆青ざめていく。

少年は恐る恐る馬車の入り口から顔を出した。


「ま、魔族だぁぁぁぁぁぁっ……」


その叫び声が止む前に、乗り手の頭蓋(ずがい)から鮮血(せんけつ)(ほとばし)るのを少年は目の当たりにした。

乗り手だった者は馬から投げ出され、馬は生きたまま目を撃ち抜かれ、悲鳴を上げながら暴れ狂っていた。


「う、うわぁぁぁあぁぁあぁ!!」


馬車は次第にバランスを(くず)し横転する。馬車は大きな音を立てて無残に地面に転がり、キャビンを(おお)っていたテントはビリビリに(やぶ)れ、木材の部分は破損し、人々は外へと放り出される。


「う、うう……」


少年もその一人。()りむいた我が身を起こし、目を開いた彼の前に待っていたのは。


「! 父さん! 母さん! みんな!」


自動二輪車(オートバイ)搭乗(とうじょう)した人ならざる者達<魔族(まぞく)>が、彼の両親を始めとした横たわる人々に黒鉄(くろがね)の銃口を向け、


「あ、アジル!逃げっ……」


次の瞬間、少年は目の当たりにした。倒れた人々が(ゆが)んだ(あご)輪郭(りんかく)をした紫肌(むらさきはだ)の魔族達に四方から(なまり)(たま)でハチの巣にされる様を。

魔族は嘲笑(あざわら)い、頭の鋭利(えいり)な一本角を(きら)めかせる。


「あ、ああっ……」


父さんも母さんも他の人達も、みんな殺された。

その事実を突き付けられたアジルに()き上がった感情は「悲しみ」ではなく「恐怖」と「絶望」。

自分もすぐに同じ目に合う。あの得体(えたい)の知れない恐ろしい者達にやられる。

それと同時に「(あきら)め」の感情も()き上がってくる。何をやっても駄目なんだ。もう(あらが)えない。

どうせ殺すなら楽に殺してくれ。両親やみんなの命を奪ったその銃で。


「ヒャッハッハッハッハッハッ!」


魔族達が笑いこちらを標的にしてくる中。アジルはただ項垂(うなだ)れていた。


「ヒャッハッハッハ……」


不意に魔族の声が途切(とぎ)れた。つい先ほどにみんなの命脈(めいみゃく)が断たれた瞬間と同じ様に。


「?」


アジルは恐る恐る顔を上げた。


「魔族には死を……」

「!?」


そこに立っていたのは熱風に(なび)いたマントを背に付けた短髪の男性。

彼の右手には(はがね)の刃。刀身を(つた)い青い液体が(したた)り落ちる。

地面には転がっているのは石? いや違う。魔族だ。自分達の生活を(おびや)かし、みんなを殺害した憎く恐ろしき存在。

それが大口を開いたまま硬直(こうちょく)し血に(まみ)れ、切断された首となっていた。


「ギ、ギギィ……」


突如(とつじょ)現れた何者かに倒された同胞(どうほう)の末路を()の当たりにした他の魔族達は、その惨状(さんじょう)戸惑(とまど)いと(おび)えの表情を見せていた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ