双魔鷹
アレンがグラン帝国を飛び出して約十時間後…アレンとコハクは目的地であるナナツ山脈に到着した。
飲まず食わず…そして休憩なしでの強行軍で、帝国から山脈までの道を踏破してきたのだ。
それはもちろん、魔獣であるコハクの力が大きかった…いくらアレンとて休憩もなしに走り続けることは不可能だ。
飛び出してきたのがすでに日暮れ近くだったこともあり、今はもう空が明るくなっていた。
「コハク、一度降ろしてくれ」
「ウォフッ…」
アレンの言葉に走ることをやめ、腰を下ろすように体勢を低くするコハク。
そのコハクの背から跳び降り、周囲に眼を向ける。
アレンの目に映るのは高い山々が連なる山脈だ。
1つ1つが数千メトルはあるだろう…そんな山が連なっている。
山によっては木々が生い茂る山もあれば、木々が生えていないはげ山のような山もある…それぞれで環境が違うように見えた。
それが7つ…ナナツ山脈と呼ばれる所以であった。
「…この山のどこかにいるんだろうけど、普通に探してたんじゃ時間がかかり過ぎるな」
この山のどこかに目的の【双魔鷹】がいる…しかし山脈自体が広すぎるため、まず発見することが困難なのだ。魔獣の強さもさることながら、発見の難しさも考慮しての高ランク依頼である。
アレンはおもむろに両手を上に突きだし、眼をつむった。
「…【響感空震】」
アレンが魔法を唱えると同時に大気が揺れたように見えた。
以前、グラトニー・アントの時に使用した索敵魔法、【響感動地】の空中版である。
大気に魔力と、風の魔法をのせ自分を中心に空気を振るわせ…その風に触れた者を感知できる魔法である。
「…見つけた」
眼を開き、特定の方向に視線をやる。
空を飛ぶ、大きな魔獣はさほど多くはない…そのためたった今、感知できた魔獣は高確率で【双魔鷹】の可能性がある。
しかし、感知できたのはそれだけではなかった。
「おそらく、戦闘に入ってるな…十数人ってとこか」
先に依頼を受けたクランが戦闘に入っているようだった。
【双魔鷹】と思われる反応の近くに複数の反応があるのだ…。
一足遅かったか…でも戦闘中ってことはまだ討伐はされていない可能性がある、急ぐか。
「コハク!あっちだ!急いでくれ!」
「ウォウッ!!」
コハクはアレンを乗せ、再度駆けはじめる。
グラン帝国から走りっぱなしできたのに、そのスピードは一向に衰える気配はなかった。
アレンの先導により、戦闘をしている場所へと近づいたコハク。
念のため、アレンは気配を消すようにコハクに言い聞かせ静かにその場へと足を進める。
ギィン!!ギィン!!
「うぉら―――!!」
「ピィー―――ーーッ!!!!」
「火球よ!敵を燃やす尽くせ!【ファイヤ・ボール】!!」
岩陰から様子を見ると、数人の男たちが複数の【魔鷹】と戦っていた。
空を高速で飛び、急降下から鉤爪や鋭いくちばしでの攻撃に手を焼いているようだが、問題なく安定した戦闘をしていた。
…戦い慣れてるな、しっかりと連携も取れているようだし、それに魔法を使う人もいるみたいだな。
男たちの中には魔法で空を飛ぶ【魔鷹】を撃ち落としている者もいた。
思っていたよりしっかりと戦える人たちのようだ。
「…【隠密】」
しかし、肝心な【双魔鷹】の姿が見当たらない。
アレンは岩陰に身を隠しながら移動を開始した…戦っている人にも、【魔鷹】にも見つからないように注意しながら目的の魔獣を探した。
男たちが戦っている場所から尾根越しの反対側に目的の魔獣はいた。
切り立った岩肌や天然の石柱がそこかしこにある場所で空を飛び…こちらも数人の冒険者と戦っているようだ。
戦っている人数は3人…魔法使いらしき男と、自分自身を隠すほど大きな盾を持った男…そして…
「うぉーーーらぁっーーーー!!!【ギガント・スラッシュ】っ!!」
「ピィギギギィ―――――!!!!」
石柱を駆けのぼり跳躍…身の丈ほどある巨大な斧を振り下ろし、【双魔鷹】の片翼を切り裂き、滑るように着地…斧を地面に突き立て勢いを殺し立ち上がった人物…。
「はっはっはっ!!いいね!いいぞ!!楽しくなってきたーーーっ!!!」
「ちょっと!姉御!やるならしっかり翼切り落としてくださいよっ!」
「うっせーーっ!ちょっと踏み込みが甘かったんだよっ!次はスパッとやってくるわ!」
3人目…巨大な斧を持つ、姉御と呼ばれる女性がいた。
戦闘が面白いのか、笑顔を浮かべながら戦っている。
おそらくこの人がSランク冒険者…他の人たちにはない凄みを感じる。
岩陰から3人の様子を見ているアレンは、自分の感がこの女性を強者だと告げていた。
「ピィィイイイイイイイイ――――――――!!!」
【双魔鷹】は翼を切られたことに怒ったのか、口から炎弾を放ってくる。
「まかしてください!…ふんっ!!」
ゴバァァッ!
放たれた炎弾を盾持ちの男が身を挺して受けに行く。
着弾…炎弾は盾に当たると同時に砕け散る…なかなかの威力があったが盾持ちの男は無事だ。
「あちっ!あちっ!炎系の魔法を受け止めるのはこれだからいやなんだっ!」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃないよ!構えなっ!」
「はいよ!姉御!!」
女性が盾持ちの男へ猛ダッシュしていく…それを確認した盾持ちの男は構えていた盾を水平に構え直し、その盾に女性が跳び乗る。
「うおっ…らぁっ!!」
ブォンッ!!
なんと盾を足場とし、女性の跳躍力と盾をかち上げる力を合わせ魔獣のいる場所まで大きく跳躍した。
跳び上がった女性冒険者は、炎弾を放つために動かず空中に留まっていた【双魔鷹】の背に乗った。
「ナーイス!さすが馬鹿力ぁ!…んじゃその首、貰おうかねっ!」
すかさず魔獣の首めがけて、その巨大な斧を振るおうとする…しかし、先ほどの攻撃で学習したのか魔獣もそのままやられることはなかった。
魔獣はその場で勢いよく横回転、女性冒険者を引き離すとともに、浮き上がった女性冒険者に己の翼を叩きつけ吹き飛ばしたのだ。
「ぐっ…こんのっ!!」
「姉御っ!」
吹き飛ばされた先は硬い岩肌だ…このままだと岩へ叩きつけられ無事では済まないだろう。
「…ふんっ!」
ガッ!ガガガガガガガガガガガッ…。
しかしそんなことにはならなかった…女性冒険者は吹き飛ばされている途中で、近くの石柱に斧を突き刺し無理やり停止、斧の柄を利用し逆上がりのようにグルっと周り、突き刺した斧の上へ着地した。
「いってぇ~な…そう簡単にはやられてくんねーか…」
「姉御!無事…ですね、というか魔獣の背中に着地しないでそのまま切り付ければいいものを…なんでわざわざ飛び移ったんすか!?」
「…背中に乗ってから首切った方がかっこいいかと思って…」
「…いい加減にしてくださいよ、倒すことを優先してください」
「あー!うっせ!うっせ!!わーった!わーった!」
どうやらこの女性冒険者は自分の気持ちを優先しながら戦う人物らしい。
かっこいいからという理由だけで、わざわざ攻撃のタイミングを一手遅らせるくらいだもんな…まぁそのおかげで討伐されなくてすんだんだけど…さてと。
アレンは静かに双剣を取り出し手に握る。
魔獣、冒険者の双方に気付かれないように襲撃できる場所へと移動を開始した。
ボゴォン!
「よっと…」
そんなアレンに気付くことなく、女性冒険者は斧を引き抜き地面へと着地する。
「よ~し、体もあったまってきたし、そろそろ討伐すっか~!」
「早くしましょう…【魔鷹】を抑えてるメンバーも心配ですし…」
「はっ!あいつらが【魔鷹】ごときにやられっかよ!」
「…まぁそうですが」
笑いながら斧を担ぎ直す女性冒険者…そしてその斧を魔獣に向ける。
「んじゃ!今から本気でその首もらうぜ!覚悟しろよっ!」
「ピィギギギギギギィィ――――――――ッ!」
女性冒険者の宣言に呼応するかのように【双魔鷹】が翼を大きく広げ、咆哮する。
その咆哮だけで突風が吹き、人が吹き飛びそうなほどだ。
そして…そんな中、【双魔鷹】の背後から静かに、確実に、迅速に接近していく者がいた。
言わずもがなアレンである。
女性冒険者に気を取られている【双魔鷹】の背後から疾走、石柱を利用し跳躍…高々と跳び上がり、双剣をクロスするように振りぬきながら落ちていき…
…ザンッ!!!
一太刀で【双魔鷹】の首を切り落とした。
主人公…獲物、横取り。




