山脈へ
俺はアンナさんの家を出て、そのまままっすぐに冒険者ギルドに駆けこんだ。
バタンッ!ガランガラ~ン!
いつもより乱暴に扉を開けてしまいベルが大きく鳴る。
建物内にいた人が驚いてこっちを見てくるが、今は気にしている余裕はない。
早足で受付カウンターへと向かう。
「よ、ようこそ、いらっしゃい…」
「ターニャさんはいますか?」
「しょ、少々お待ちください!」
受付のお姉さんの言葉遮って要件を伝える…申し訳ないと思うが今回は見逃してほしい。
すぐさまターニャさんが奥から走ってきた。
「ア、アレン様…どうされたんですか?今日はもう依頼は受けないと…」
「依頼とは別件です。【双魔鷹】の目撃情報なんかはありますか?」
「【双魔鷹】…ですか?」
俺が発した【双魔鷹】という言葉に周りにいた冒険者たちも反応する。
「【双魔鷹】ってあの…」
「たしか…山脈の方で…」
「でもそれって……が、討伐…んじゃ…」
「アレン様、別室にて詳しくお聞きします」
そういってギルドの奥へと案内された。
以前、冒険者登録をするときに最後に待たされた部屋だった。
「それで、どういうことでしょうか?」
椅子へと座るとターニャがアレンへと質問をする。
「単刀直入に言います。【双魔鷹】の核石が欲しいんです。【双魔鷹】の目撃情報があれば教えてほしいんです」
「…核石ということは」
「はい、肺魔病です。時間が無いんです。とにかく情報がほしい…」
今は時間が惜しい、無駄なことはできるだけ避け直球で欲しい情報だけを集めることが先だ。
「…【双魔鷹】の情報はございます。このギルドにも討伐以来が出ていましたから…」
「本当ですか!?…ん?出ていた…とは?」
「実は…」
ターニャさんの話では少し前から【双魔鷹】の討伐依頼が届いていたらしい。
俺は知らなかったが…依頼のランクはAランクのため俺には積極的に情報を教えてはいなかったそうだ。
そしてその依頼を数日前にとある人たちが受け、【双魔鷹】の討伐に向かったそうだ。
「どなたかがその依頼を受けてしまった場合、失敗しない限りは他の方がその依頼を受けるようなことはできません」
「…数日前ならば、その人たちが失敗した可能性は?」
「それは、ほとんど無いと言っていいでしょう…依頼を受けたのはSランクの方ですし、その方が率いるクランからそれなりの人数で討伐へ向かって行きましたので…」
「クラン?」
クランとは言ってしまえば冒険者同士の集まりみたいなものなんだそうだ。
クランを作り、人が集まれば依頼の度にわざわざ人数集めをする手間が省けたり、クランによっては特典なんかも付くそうだ。
ちなみにクランを作るにはそれなりの実績が認められている冒険者がリーダーを務めなければならず、場合によっては冒険者ギルドからの許可が得られないそうだ。
「今回、【双魔鷹】の依頼を受けたクランは【巨神の斧】…Aランククランであり、それを率いるクランリーダーはSランクの1人であるカーラさんはSランク冒険者になります」
…Sランク冒険者の1人に先を越されてしまったらしい。
くそ…あと数日速ければ俺が受けることもできたかもしれないのに!
「…その依頼に途中から参加することは?」
「原則、できません。同じクランメンバーならそういったことも可能ですが…アレン様はクランメンバーではありませんので」
ダメもとで聞いてみたが、やはりそういったことは無理らしい。
「…ターニャさんは今回のこの依頼、その【巨神の斧】が達成して帰ってくるのにどのくらいかかると見ていますか?」
「…正直なところ、分かりません。カーラさんは腕は確かなんですか…その、なんと言いますか…テキトーなところがございまして…討伐を完了してもすぐに帰ってくるかどうかが…」
「…分かりました。では【双魔鷹】の場所を教えてください」
「それは…ここから東に2日ほど歩いた先にあるナナツ山脈ですが…」
「ありがとうございます」
場所は分かった…歩いて2日、俺の…もしくはコハクに騎乗して走りつめれば1日もかからず着けるはずだ。
必要な道具なんかは空間魔法に入ってる…。
アレンはすぐさま東にある山脈…ナナツ山脈に向かうことを決意する。
椅子から立ち上がり応接室を出ていこうとする…。
「お、お待ちください!まさか、依頼に割り込むつもりですか!?」
「…そうだ。緊急なんだ、いますぐに核石が必要なんです」
「ですがっ!依頼を受けているクランから抗議があれば処罰されてしまいます!」
どうやら依頼の割り込みにはそれ相応の処罰が下るそうだ。
そりゃそうだよな…依頼を無理に横取りしようとしてるんだ、罰があってあたりまえだ。
しかし…それを分かったとしてもやらない訳にはいかない。
人の…あの子の命がかかってるんだ!
「…処罰は甘んじて受けます。今は急いでいるのでその話はまた今度に…」
「お待ちください!アレン様…ちょっと…」
ターニャさんが必至に制止するが、それを振り切って応接室を出る。
カウンターにターニャさんではない受付嬢がいたので、ナナツ山脈の場所を詳しく聞いておいた。
そしてターニャさんに再度制止される前にギルドの外へと出た。
そのまますぐに走り出す…あっという間に東側の城門へと着き、門番に冒険者カードを見せて通してもらう。適当に依頼を受けて外に出ると言っておいた。
ある程度、街から離れ…人の気配がしないことを確認した俺はコハクを呼び出す。
「コハク」
「ウォウッ!」
呼びかけに応じて俺の影から元気に飛び出してくるコハク…影の中に入りっぱなしなのは苦ではないみたいだが、やはり外の広々とした空間の方がいいみたいだ。
「コハク…話は聞いてたな?全速力で東に向かってくれ、頼む」
「ウー…ウォウッ!」
早く乗れというかのように背を俺に向け、体勢を低くしてくれる。
さすが…頼れる相棒だ。
すぐにコハクに飛び乗る。
俺が乗ったことを確認したコハクはゆっくり走りだし…すぐさまトップスピードにのった。
さすがに街道を走ると、他の人に見られる可能性を考え、街道を外れた森の中を走って貰っている。
それでもコハクのスピードは風のように速い。
狼としての特性や、生まれ育った禁断の森での生活によってコハクのスピードはむしろ森や林の中の方が速いと言ってもいい。
このスピードでいけばおそらく十数時間くらいで目的地には着けるだろう。
そのあとは先に依頼を受けた人たちより早く【双魔鷹】の討伐をしなければならない…もし仮にすでに【双魔鷹】の討伐をされてしまった場合は、核石の取引交渉か…もしくは無理にでも譲ってもらうことも考えねばならない。
アレンは、アンナさんやローラちゃんの様子を思いだしながらコハクの背にしがみ付いて…【双魔鷹】がる山脈へと向かっていった。




