肺魔病の薬は…
アンナさんの娘であるローラはすでに幻覚症状が出ていた。
急いでローラへと近づき診察にうつるアレン。
症状を診つつアンナへと質問をする。
「アンナさん…旦那さんは?」
「…夫はすでに亡くなっています。そのことは娘にもしっかりと伝えてあります…」
亡くなったお父さんの幻影が見えているみたいだな…まだ幻覚症状が軽い、なんとかなるか。
ハシリクルイでの幻覚症状は、初期症状としてその人が望む様な…もしくは幸福に感じる幻覚が見える。そして症状が悪化すると恐怖を感じる幻覚を見るようになり、その幻覚から逃げるように狂ったかのように走り出すのが特徴だ。
「症状がまだ軽微です…いまからハシリクルイの毒を抜きます」
「む、娘は…ローラは!大丈夫なんでしょうか!?」
「ハシリクルイの毒素自体は問題なく抜けます…でも、肺魔病事態はいまのところどうすることもできません…」
「…わ、私の…せいでっ!」
正規での薬の入手が困難とはいえ、偽物の薬を買い続け、娘さんの体に毒を飲ませていたということにだいぶショックを受けているんだろう…アンナさんは泣き崩れてしまった。
「特にかく…今は毒素を抜くことを優先させましょう!」
「は、はい…ぐすっ…はい!」
…強いな、さっきまで泣いていたのに、娘を助けるために眼に力がこもってる。
「幸い、毒素を抜くための材料は持っています!あとは手順を踏んで調合するだけなのですぐにできますよ」
「わ、私に手伝えることがあればなんでもっ!」
「…では、まず…」
冒険者登録してからちょこちょこ採取依頼を受けておいて良かった!
依頼とは別に薬になりそうな薬草や山菜をいくつも採取することができた…これだけあればすぐに薬を作ることができる。
アレンはアンナの手を借りつつすぐに薬を調合、症状が悪化する前に娘のローラに飲ませることができた。
「すぅ…すぅ…」
「…顔色がずっと良いです。それにすごく楽そうに寝ている…」
「もう毒素は抜けていますからね。それに投与した薬には鎮痛作用もありますから…そのおかげでしょう」
「…ありがとうございます。どうお礼をしていいか…」
「お礼はいりませんよ、たまたまですしね」
「ありがとうございますっ!!」
さすがに苦しんでいる人を見捨てるわけにもいかない…俺が勝手に助けたことでお礼をもらうつもりはなかった。
しかし、ハシリクルイの毒素は抜けたとはいえ…問題が解決したわけじゃない。
「毒素に関しては問題ありません…しかし…」
「…はい、肺魔病…ですね?」
「えぇ…残念ながら俺はその特効薬を持っていません」
肺魔病の特効薬…それはとある魔獣からとれる核石、それを細かく砕いたものだ。
その魔獣の名は【双魔鷹】と呼ばれる大型の鷹の魔獣だ。
炎と風を常に身に纏いながら飛び、その口からは炎弾や突風の魔法を放つ。翼を羽ばたかせれば突風が起き、風を纏った爪は硬い岩盤ですら容易に切り裂く強力な魔獣だ。
「【双魔鷹】は強力な魔獣ですが、基本的には自分の縄張りからは出てきません。それにあいつの…あいつ等のやっかいなところは…」
群れるのである。
強力な【双魔鷹】には多くの【魔鷹】が集まり、大なり小なり必ず群れで行動するのだ。
【魔鷹】事態はそこまで強い魔獣ではありません…しかし、そこに【双魔鷹】が入ると明確に統率のとれた動きに変わり、強さのレベルがあがる魔獣なのだ。
「…おそらく冒険者ギルドに依頼しても達成できるのは極少数の限られた人のみでしょうね」
「そんな…だから依頼料が高額に…」
冒険者ギルドに依頼していれば依頼のランクは最低でもBランク…それなりの金額がかかってしまうのも納得だ。
女手一つで娘を育てているアンナさんが用意できる金額とは到底思えない。
「うぅ…ごほっ!ごほっごほっ!!…ヒュー…ヒュー…」
「ロ、ローラっ!?ローラッ!!」
「…おかーさん?」
寝ていたローラが咳込みながら起きた。
肺魔病の影響だろう…呼吸する際の音が不自然なものになっている。
「おかーさん…ヒュー…さっきおとーさんが…」
「ッ!…それは夢よ、ローラ」
「夢…そっか…夢だったんだ…ゴホッゴホッ!!」
「ローラ!?あああ!どうしたら!どうしたら…」
アンナさんが泣きながら咳込むローラの背中をさすっている。
…こんなの見捨てられるわけないよな。
親を失うつらさは知ってるけど、子を失なうつらさは変わらないはずだ。
「…アンナさん、鎮痛作用がある薬草を置いていきます。娘さんがあまりにも辛くなりそうならば煎じて飲ませてください。それまでは娘さんにずっとついてあげてください」
「ツッ…もう、もう…ローラは助からないってことですか?」
…アンナさんは俺の言葉にどうやら諦めを感じてしまったようだ。
痛み止めで少しでも苦しくないように…残された時間を過ごすようにと、そう言われたように感じたんだろう。
「違います、俺がなんとしても特効薬を獲ってきます。それまで娘さんを支えてあげてください」
「そ、そんな!薬となる魔獣は強力で…お金だって…」
俺はアンナさんと、娘のローラへと近づき、その頭へと手を乗せる。
「大丈夫です。俺に任せてください…俺が戻ってくるまで娘さんに近くに…」
「ありが!あ、ありがとう!ございますっ!」
アンナさんは泣きながらお礼を言ってくれた…。
「おにーちゃん…だれ?」
「俺か?俺はアレンていうんだ…おかーさんのお友達だよ。よろしくね、ローラちゃん」
「おかーさんのお友達か…へへへ、今日はちょっと体が悪いんだ…治ったら遊んでくれる?」
「あぁ、いいよ。いっぱい遊ぼうね」
「約束だよ!おにーちゃん!…ゴホッ!」
ローラちゃんの頭を撫で、立ち上がる。
まずは情報だ…どこかに目撃例でもあればいいんだが…こういう時に魔獣の情報が集まりやすい場所はやはり冒険者ギルドだな。
すぐにターニャさんに…。
「あの!アレンさん!」
「なんでしょうか?」
「ど、どうかご無事で…薬のこと、よろしくお願いします!」
そういってアンナさんは立ち上がり頭を下げてくる。
少し震えながら、目元にはいまだな涙を浮かべている。
子を思い、涙を流せる人から頭を下げられお願いされている。
俺は心に、絶対に薬を獲ってきてみせると再度誓いアンナさんへと向き直る。
「必ず薬を獲ってきます!」
俺はこの親子のために必ず【双魔鷹】を見つけだし、その核石を獲ってくる!
実際にハシリドコロと呼ばれる毒草があります。
山菜のハンゴン草と間違えて食べてしまう例が多く、死亡例も確認されている非常に危険な毒草になります。
名前の由来は、幻覚作用で走り回ってしまうことから名前がついたとか…。




