悪意の薬
アレンが無事に冒険者ギルドで冒険者登録をし、初めての依頼を達成してから数日が経過した。
その間にアレンは専属受付嬢のターニャの進める依頼をこなしつつ日々を過ごしていた。
その日もアレンは冒険者ギルドに来ていた。
受けていた依頼を達成し、その報告のためにギルドへ来たのだ。
「はい、ターニャさん。討伐部位の角になります」
「確認いたしました。ビック・ボアの群れの討伐、完了です。お疲れ様でした」
「いえ…特に難しい依頼ではなかったので」
「…そう言えるのはアレン様か、もしくはAランク以上の方のみでしょうね…」
ビック・ボア…その名の通りかなり大型の猪の魔獣だ。普段は2~3頭ほどの群れで行動し、城壁外で栽培している野菜などを食い荒らす害獣である。
しかし、今回アレンが受けた依頼はビック・ボアの異常繁殖…その群れ実に20頭を超えていた。
大きな体格でかなりの速さで走るビック・ボアを1人で20頭以上狩るのは容易ではないのだが…アレンはコハクとともにあっけなくやってのけ、ターニャへ方向に戻ったのだ。
「では、こちらが報酬になります。お納めください」
「ありがとうございます」
「まだ日は高いですが…他にもなにか依頼をお受けになりますか?」
「うーーん…今日はもういいです。また明日来ます」
「承知いたしました。明日のご来店をお待ちしております」
「ありがとうございます。また明日!」
そう言ってターニャへと手を振りながらギルドを出ていく。
「それなりにお金が貯まってきたなぁ…アリスが来るまではなんとかやっていけそうだな」
天気がいい中…のほほんと歩いて店を覗きながら宿へと向かうアレン。
そんなアレンの耳にちょっとした騒ぎの事が聞こえてきた。
なにかあったのかな?
なんとなく争いが聞こえる方へと向かうアレン。
「お願いします!返してください!」
「うっせぇ!もう期日は過ぎてるって言ってんだろ!よこせ!」
「待ってください!もう少し…もう少ししたら全額返しますから!!」
「おせーって言ってんだ!こんのっ!」
バシッ!!!
「キャッ!…つっ」
「ふん!しつけーんだよ!んじゃこの金と…そうだな、この商品もらってくぜぃ」
「ううぅ…そんな…」
お店の従業員だろう女性と2人の男が言い争っていた。
店の売り上げだろうか…男たちは金が入っているであろう、その袋とお店の品物である野菜や果実なんかを持てるだけ持って出ていこうとしていた。
…なにがあったかわかんないけど、さすがに見逃すのもな。
「お願い…します。それがないと…」
「あぁ?ほんとしつけーな!離…せっ!」
男たちの服を掴み、お金を返してほしいと願う女性を男は再度殴りつけようとする。
その拳が女性の顔へ当たる寸前にアレンがその拳を止める。
「…なんだてめぇ」
「通りすがりですよ…さすがにやり過ぎじゃないですか?」
「関係ねーだろ、これはこいつが借金返さねーから、その取り立てだ!」
「取り立て?…本当ですか?」
「…はい」
どうやら本当に借金の取り立てのようだ。
女性へ確認すると頷くのが見えた。
「…たとえ借金の取り立てだとしても殴るのはやり過ぎでしょう」
「もう返済の期日は過ぎてんだよっ!こっちもしっかり回収しねーと上からドヤされんだ!」
「…もうお金は取ったでしょう、もういいでしょう」
「へっ!今回はな!利子の分を回収しただけでまだ返済にはなってねーんだよ!んじゃまたくるぜ!」
「そういうこった…へへへ!」
男たちはニヤニヤと笑いながらその場を去っていった。
「…大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます。わたしは大丈夫…です」
「頭から血が出てますよ…消毒と止血をしないといけません」
そういってアレンは女性を伴い、近くの井戸へと移動し手当をする。
「これでよしっと…」
「重ね重ね、ありがとうございます。ですが…その、お礼をできるものがなにもなくて」
「お礼は必要ありませんよ…よければ事情を説明してもらえませんか?」
「…はい」
女性の名前はアンナさんと言って、1人の女の子を1人で育てているそうだ。
そのアンナさんの子供が少し前に病気に罹ってしまい、その治療薬をあの男たちから買っていたんだそうだ…しかしなかなか子供の病気は治らず、薬を買うお金も尽き、借金という形で薬をもらっていたようだ。
「怪しいとは思ったのですが…正規の手段では時間がかかる上、かかるお金も高く…苦しそうな娘の姿を見ていられなくて…うっ!ひくっ!」
「…そうですか、ちなみにどんな病気に?」
「…肺魔病という病気です。なんでも魔力がある人が稀に罹る病気だそうで…体内に溜まっていく魔力が肺を圧迫して呼吸できなくなっていくそうなんです」
肺魔病…魔力を持つ人が稀に罹る病気。魔力を持つが魔法として体外に排出できない人に罹ることが多いとされている。治すには専用の薬が必要となる、その上、魔力の扱いを学ばないと再発する恐れがある病気。
「肺魔病の特効薬はありますが…その薬となる材料が魔獣の体の一部を使うようで、討伐の依頼を出すにもお金がなく…」
「そこに話をもちかけられた…と」
「はい…」
…おかしい、そんな入手が難しい薬をちょうど持っている?そんなことって…。
「…その薬、今は持ってますか?」
「は、はい…まだありますが…これです」
そういってアンナさんはポケットから白い包みを出し渡してくれた。
「ちょっと中身を見させていただきますね…」
「…分かりました」
アンナさんの許可を貰い、包みの中を確認する。
中身は粉末状になっている…それに甘いにおい…この匂いは…。
「…これは、薬じゃない…」
「えっ!?そ、そんなことは!娘に飲ませたら楽になってましたし!」
「これは鎮痛作用がある毒草ですよ…それも摂取し続ければ幻覚を見るようになって、最後は狂ったように死に至るものです。」
「そ!そんな…じゃあ…わたしはなんの…ために…」
「……」
包みの中身…それは薬なんかじゃなかった。
ハシリクルイ…そう呼ばれる毒草だ。少量なら鎮痛作用があるため痛み止めなどに使用できるが、使用し続けると体内で毒素が蓄積され、毒の作用によって幻覚を見るようになる。ひどくなると幻覚のせいで狂ったように走り回るようになり、最後には力尽きたかのようにいきなり死に至る毒草、それを乾燥させ粉末状にしたものだ。
「…アンナさん、いくつほどこの包みを飲ませましたか?」
「…あ、あぁ…えっと…10は、超えているかと…」
「っ!その量はまずい!すぐにお子さんのいるところへ案内してください!」
「そ、そんな!…こ、こっちです!」
泣きながら走っていくアンナさんに付いて行く。
肺魔病に加え、この量の毒草の摂取…子供の体じゃいつ死んでもおかしくはない!
バンッ!!
「ローラ!ローラッ!」
アンナさんが扉を乱暴に開けながら自宅へと入っていく。
小さな家だ…入ってすぐにローラちゃんが寝ているベットがあった。
「あ、おかーさん…お帰りなさい。ね?すぐに帰ってくるっていったでしょ?おとーさん」
「ロ、ローラ…?」
「おかーさん、おとーさん帰ってきたんだよ?」
ローラは虚空に向かって話しかけている。
すでに幻覚を見始めているようだった。
「もう幻覚症状が出ている…時間がない!」
アレンは焦ったように声をあげ、幻覚症状が見え始めているローラへと足早に近づいていった。
以前投稿していた小説になります。
こちらもよろしくお願いします。
Frontier・World・Onlineー春夏秋冬兄妹のVR戦記
https://ncode.syosetu.com/n8079fy/




