手つかずの…
「おっ!【ヒールベリー】見っけ!」
プチッ!プチっ!
「【上甘草】もある!」
ザッ!ザッ!
「いや~思ったよりも豊富な森だな!けっこう知ってる物もたくさんあるぞ!」
森に入っていったアレンは…短時間でけっこうな量の薬草や、山菜などを採取していた。
ギルドでのストレスもあり、いつも以上に楽しそうに夢中になって採取していた。
「ウー…ウォウ…」
「ん?あぁ…ごめんごめん、コハク。【ラープ草】はまだだったね、それじゃ本格的に依頼の方を採りに行こうか」
「ウォフッ!」
あまりに夢中になって採取していたアレンに対して、一緒にいたコハクが呆れて声(鳴き声)をかける。
おそらくコハクがいなければ依頼の事を忘れて、他の薬草・山菜等の採取に夢中になっていたことだろう。
「さてと…【ラープ草】ね…たぶん、あの薬草のことだろうけど」
実はアレン、【ラープ草】について実物を見たことがあった。
場所は言わずもがな禁断の森の中である。しかし、アレンは普段【ラープ草】の採取、使用はしていなかった…その理由は…
「でも…なんで【ラープ草】なんか…あんまり治癒力高くないのにね」
「ウォウ…」
「う~ん、特殊な加工でもすれば治癒力上がるとか?俺の知らない方法があるのかなぁ~」
そう、治癒力が低いのだ。
ただしアレンの中ではである。
禁断の森の中では他に、治癒力の高い薬草や山菜が数多く生い茂っていた。
そんな状況で育ってきたアレンにとっては【ラープ草】など、ほとんど雑草と変わらない扱いなのだ。
ちなみにグラン帝国では【ラープ草】は上級薬草として取り扱われてる。
採取が難しいため、それなりに高価な薬草…というのが一般的な認識である。
「あったあった…けっこういっぱい生えてるぞ」
アレンはすぐさま【ラープ草】の群生地へとたどり着いた。
森で暮らしてきた経験や勘を頼りに、薬草が生えていそうなところはなんとなくわかってしまうのだ。
「…とちあえず日が沈む少し前までできるだけ採っていくか…」
そういって【ラープ草】の採取を始めたアレン。
「あー…けっこう【ラープ草モドキ】が混ざってるなぁ…暗くなったら分かりづらいぞ、急がないと…」
【ラープ草】の群生している中にけっこうね量の【ラープ草モドキ】が混ざっているようだ…ちなみに見分け方としては葉の形が多少違うことと、モドキの方が根元がほんの少し黒いことだ。
慣れた者でなければその些細な違いの見分けは難しく、素人が依頼を受け、薬草と毒草をごちゃまぜで採取してくることも珍しくはない。
また、間違って【ラープ草モドキ】で作った回復薬を使用し、死亡したケースもあるほどだ。
それをなんなく見分け、次々に【ラープ草】のみを採っていくアレン。
あっという間に大量に採取し、空間魔法で収納する。
ちなみにアレンが採取している間、コハクは周囲の警戒をしつつ、久々に影の外に出たことを楽しんでいた。
「ふぅ…とりあえずこんなものかな……まだ日が暮れるまで少しあるな、もう少し探索していこうか、コハク」
「ウォウッ!ウォウッ!」
思ったよりも【ラープ草】の採取に時間がかからず、日が沈むまでに時間ができたアレンは森の探索を続け、さらに薬草等の採取をすることにした。
更に森の奥へと進んでいくアレン…他の冒険者はほとんど森の奥までは行かない、その理由は単に危険だからだ。
森の奥に行けば行くほど魔獣との遭遇率も高くなる上、下手に帰るのが遅くなれば暗い夜の森の中を彷徨うことになる。そんな危険を冒してまで森の奥を探索する冒険者はいなかった。
そして、人の手が入らないということは…森の芳醇な資源は手つかずで残されていることになる。
アレンはその資源を次々と見つけ採取していった。
「いや~!ここは山菜の宝庫だな!人の手が入ってない上に、魔獣の数が少ないから、下手すると住んでたとこより資源が豊富だ!あー!楽しかった!」
禁断の森だと、様々な山菜や薬草などが豊富に生えるが、その分魔獣の数も多く食べられてしまうことが多かった。しかし、この森では魔獣や獣はあまりいないのかもしれない。
アレンが採ってきた物は多かった。
ヒールベリー…甘酸っぱい木の実。自然治癒力を高めてくれる実。
イタドリ草…禁断の森でもとれた山菜。痛みをとる鎮痛作用がある山菜。
上甘草…こちらも禁断の森でもとれた山菜。甘くシャキシャキとした食感。栄養が豊富。
反魂草…灰汁が強いが、上手く灰汁抜きできれば非常に美味しい山菜。滋養強壮の効果が高い。
銀蕨…銀色に輝く山菜、茎の先が丸まっており、生き物が近づくとそれを伸ばし刺して攻撃してくる。ブナンの樹を燃やした灰で一晩煮ると灰汁が抜け食べられるようになる。
般若にんにく…常に毒の胞子を出し、般若が襲ってくるような幻覚を見せショック死させる。香りが良く、また抗菌作用がある山菜。毒の胞子を取り除く必要がある。
「さてと…もう暗くなってきたなぁ…コハク!寄り道なしで街に戻るよ!街の近くまで競争しようか!」
「ウォフッ!!グルル!」
「あ!ちょっと待っ!ずるい!」
アレンが言うや否や、コハクはアレンを置いて走り始めた。
遅れをとったアレンは急いでコハクを追いながら街へと向かっていった。
森の端でコハクを影の中に戻し、街へ戻るために門まで帰ってきたアレン。さすがにそのころになれば日は暮れ、あたりは暗くなっていた。
出てきたときと同じようにギルドカードを見せ、問題なく街へと帰ってきたアレン。
実際にはこの時間帯に帰ってきたアレンを怪しむ門番たちもいたが、他の冒険者たちもそういったことがあるので、よほどのことがなければ通れないということはない。
そのまま冒険者ギルド…には行かず自分が泊っている宿、『春の夜明け亭』へと向かった。
カランカラ~ン…
「お!おかえり、無事に冒険者登録できたかぃ?」
「…えぇ、少し時間がかかりましたが無事に登録できましたよ。そのまま依頼も受けて、街の外まで行ってきたとろこです」
「なんの依頼を受けたんだぃ?」
「【ラープ草】の採取ですよ」
「…それってけっこう高ランクの依頼じゃなかった?」
「Cランクの依頼だそうです」
「いきなりCランク!?」
【ラープ草】の採取、Cランクの依頼をいきなり受けたことに宿の主であるクリスが驚きの声をあげる。
「ちょ、ちょっと待って!アレン!あなた!ギルドのランク、いくつなのよ!?」
「Bランクですが…」
「B!?いきなりBランク!?…はぁ~~~~」
アレンのランクを聞いて更に驚くクリスだったが…最後はため息とともに脱力した。
「いったいなにやらかしたらBランクからのスタートになんのよ…」
「Sランク冒険者と戦って…いくつか魔法ぶっ放してきただけですよ」
「…はっ!!?」
「ですから、Sランク…」
「聞こえてたよっ!まったく!なんでいきなりSランクと戦うことになってんのよ!」
「…なりゆきで」
「どんななりゆきよっ!?」
だんだんイライラしてきたクリスである。
「はぁ…なんかあなたと話すと疲れるわねー…まぁいいわ、夕食は食べる?」
「…すいません、いただきます」
「それじゃそこに座って…それとアレン?」
「はい?」
「おかえり」
おかえり、アレンへ笑顔でそう言ったターニャは、そういって夕食の準備に取り掛かるため裏へと入っていった。
そして不意におかえりと言われたアレンは、しばらく呆然としていた…クリスが夕食のためにいなくなってもしばしそのままだったアレンは少ししてから我に返り…
「…ただいま」
笑みと共にただいま、と言った。
そのあと、美味しい夕食を食べ…胃も心も満たされたアレンはぐっすりと眠るのだった。




