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雨あられ


ジュリアンの敗北宣言を聞いたアレンは、首筋に当てていたその剣をひいた。


「いや~参ったわん、上には上がいるものねぇ」

「ジュリアンさんも強かったですよ…思わず本気になっちゃいましたよ」

「ふふふ…嘘おっしゃい、まだ余裕があるんでしょう?」

「…それはお互い様でしょう」


言葉を交わしながらお互いの眼を見て笑う2人…拳と剣を交わした仲だ、お互いになにか感じ取ったのだろう。


「あー!楽しかったわ!また…ヤリましょうね」

「…試合であれば…なんか響きが嫌なんだよなぁ…あ、あのなんでそんなに手をニギニギするんですか?」

「気にしないで♪」

「気にします!は、離してください!」

「もうちょっと…」

「は、離れない!!ちょっと!いつまで握ってんだっ!?」


ジュリアンは立ち上がり、笑顔でアレンに手を差し出す。

それに答えて握手を返すアレンだったが…がっちり握られて離してくれなくなった。

アレンの手を握った瞬間、ほどよい握力でひたすらにニギニギニギニギニギ…。

あまりの気持ち悪さに絶叫して逃げようとするが、ジュリアンからは…逃げられなぁ~い!



「アレンちゃんのその敬語って癖なの?普通に喋ってくれてかまわないのよ?」

「ニギニギしたまま会話続けようとすんな!」

「もう!わがままねん!」

「くっ…こいつ」


なんとか手を離してもらったアレン…ずっとニギニギされていたため手はポカポカだ!


「敬語は癖だよ…基本的に初対面の人には自然と敬語になるんだよ」

「じゃあ、アタシに敬語じゃなくなったのはアタシのことを好きになってくれたからねん!?きゃ!相思相愛だわ!!」

「違うわ!!あまりの衝撃に敬語なんて吹っ飛んだんだよ!!」

「もう!照れちゃって…」

「…もういい、あんたとの会話は戦闘より疲れる」


ジュリアンとの会話を打ち切り、エリックとターニャの元へと歩いていく。

勝利したはずのアレンが肩を落とし歩き、負けたはずのジュリアンがスキップしそうなほど上機嫌でアレンの後ろを歩いている。

ちなみに、ジュリアンの躰はいまだに傷だらけでところどころから血が流れているが…まったく気にしていない。本当に人間なのだろうか…。


「エリックさん、ターニャさん…試合終わりましたが、これで冒険者登録してもらえますか?」

「……」

「……」

「…もしもーし」

「固まっちゃってるわねぇ…もう、エリックちゃん!!」


バチコンッ!!


「ぐあぁぁぁあっ!!!」


固まっているエリックに対して、ジュリアンがデコピンをかまし正気に戻す…頭が後ろにのけぞる様に撥ねていった…ものすごい勢いだったが、死んではいない、絶妙な力加減である。


「いつまで転げまわってるの?アレンちゃんの話をきいてあげなさいよ…まったく」

「誰のせいだっ!!」


痛みに転げまわっていたエリックが、理不尽なジュリアンの言葉に言い返す。


「それで…登録していただけますか?」

「ッ!…ここまでの戦いを見せられ、なおかつSランクのジュリアンを倒したのだ。認めないわけにはいくまい」

「よかった…それじゃ…」

「しかし!!剣が使えるのは分かったが、魔法はまだ見ておらん!というかお前、記載にはない付与魔法使ってなかったか!?」

「あぁ…そういえば…忘れてました」

「忘れっ…それはもういい!…と、とにかく魔法を見せてもらおうか!登録は魔法に虚偽がないことを確認してからにする!」


若干ムキになっているのか、ここまでの強さを見ていながら魔法を見せないと冒険者登録をしないと言い始めたギルド責任者のエリック…さすがに周りの冒険者も、そして隣のターニャもゴミを見るような目でエリックを見ている。


「エリックちゃん…あなた大人気ないわねぇ~」

「…まぁ構いませんよ、どうやって見せればいいですか?適当に魔法撃てばいいですか?」

「魔法訓練用の的があそこにあるだろう?あれに撃て」


そういってエリックはアレンの背後に指を向ける。

アレンが振り向くとそこには確かに弓矢の的に使うような丸い標的があった。弓矢のものと比べると少し大きく厚みがある。


「あれは魔法の効果を弱める【淡魔石(たんませき)】でできている、そうそう壊れることはないから本気でやっていいぞ」

「…壊してもいいってことですか?」

「壊せるもんならな!!あの的はこのギルドができた当初から使っているが、いまだにヒビ1つ入らんほど強固なものだ!」

「分かりました。では…」


そういって的の方へと向き直るアレン…。


淡魔石(たんませき)とは、魔法を司る魔力そのものを分散させる力を持つ特殊な石のことだ。

主に魔法の的や、魔法が得意な犯罪者の手錠や檻の素材に使われている。

材質自体も硬く、ハンマーで叩いてもそう簡単に壊れることがない鉱石だ。

なお、この性質を好み…ハンマーなどの鈍器系武器にする冒険者などもいる。


向き直ったアレンは右手を的にかざし…魔法を唱える。


「【叢雨(むらさめ)】」


シュン…!


かざされた手から放たれたのは水の刃…それが高速で飛び、的に当たり…そのまま通り抜けた。

一瞬後…


パカン…。


的が真っ二つになった。


「「「「…はっ?」」」」


あまりの出来事について行けない周りの人たち…ジュリアンですら口をあけて驚いている。

だが!アレンはここで止まらない!エリックの対応に少しずつフラストレーションを溜めていたアレンは魔法にその怒りをぶつけ…的を木端微塵にしようと決めたのだっ!

手をかざしたまま次の魔法…いっきまーす!


「【天火(てんか)】」


ゴウッ!!


次に撃ったのは火の魔法…金色に見える美しい炎の塊が弾丸のように撃ち出される…真っ二つになった片方へと着弾!狙われた半分になった的は一瞬にして燃え尽きてしまった。

わざわざ片方だけを狙ったアレンの魔法コントロールも脅威である。


さて…的は半分残っている。


次へ参りま~す!



「【業風(ごうふう)】」


ビュー――…ガガガガッ!!


的の周囲に風が集まり、激しく渦巻く複数の風の槍となり…的の四方から降り注ぐ。

的を貫通し、穴をあけた…穴の周りにはヒビ一つない、余計な破壊がないほどに貫通力が一点に集中している証拠だ。


2つに裂かれ、穴だらけになった魔法の的…まだ原型があるな~。


次の魔法、カモ~ン!!


「【銀嶺(ぎんれい)】」


ヒューー…キンッ!


周囲の温度が一気に下がり…ボロボロだった的が一瞬にして氷の塊へと閉じ込められる。

少し距離の離れた的の場所からでも強い冷気を感じ、息が白くなる…もし魔法の範囲内であればその寒さは、冷たさは言うまでもない。近くにいるだけで凍傷になるだろう。


的はちょっとした氷山のようになってしまった。

でもまだ形が残ってる…


最後、いっきまーす!


「【冥潰(めいかい)】」


ゴゴゴ…ガゴンッ!


地面が揺れたかと思ったら、次の瞬間…氷漬けの氷山となっていた的を中心に、左右から地面が隆起し…そのまま的を挟み込み、粉々に砕いた。

一拍後…隆起した地面が消えると、砂レベルに粉々になった的の破片が周囲に散っていった。

地面の隆起による圧殺…その威力の前にはどんなに硬い鉱石でもその形を保つことは不可能だ。


ギルド設立から、数多くの冒険者の魔法の的となり、魔法の向上に大きく貢献してきた【淡魔石(たんませき)】の的は…今この瞬間、跡形もなく()()()()()のである。


魔法をぶっ放したことである程度のストレス発散になったアレンは…すごくいい顔でエリックへと振り返った。


「これで文句はないですね?」


声をかけられたエリックはそれどころではない…己の眼が信じられなかった。

自分自身でもあの的に魔法を撃ち込んだことはある…それゆえに的の頑丈さは知っていた。

壊せることなど不可能だった…そのはずだった。


それが今日、跡形もなく消されたのだ…そしてそれを起こした張本人に笑顔で名前を呼ばれたエリックは…。


……パタン。


静かに気絶した。






土日の更新はできないかもしれません。

月曜に更新いたします。

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