騎士団長アリス
アリスが起きて、次の日の朝。
アレンはアリスの怪我の具合を見ていた。
「うん、最初よりはよくなったね、まだまだ動くには厳しいと思うけど」
「す、すまないな…しかし、男に体を触られるのは慣れん」
「怪我を治すために我慢してくださいね、はいこれ、食べてください」
「あむ…うむ、美味い!これはなんていう実なのだ?」
「これはヒールベリーといって怪我の回復を早めてくれるんですよ」
「そんな実が存在するのか!?だから傷の治りが早いのか…」
アリスの住んでいる場所にはないのだろうか、ヒールベリーについてすごく驚かれた。
「それと痛みがひどいときはこれを飲んでください」
「これは?」
「イタドリ草を煎じたお茶です。痛み止めになります」
「…聞いたことがないな」
森の中に普通に生えているものなんだけどな…昔から使ってるし。
「なぁアレン」
「はい?なんでしょう?」
「敬語で話さなくてもいいんだぞ?」
「…一応気を使ってのことだったんですが」
「普通に接してくれていい」
「…分かった」
アリスが嬉しそうに微笑む。
「アリスは…なんでこの森にいたんだ?」
「…話せば長くなるが、ようは騙されたんだ」
「騙された?」
アリスの話だと、禁断の森から魔獣が出てきたと連絡を受け所属している騎士団と共に討伐に向かったそうだ。その魔獣は強力な魔獣だと事前に報告を受け、助けを求めるとともに合同演習も兼ねて同盟中である魔族と手勢と共に討伐することになったそうだ。
「魔族?魔獣とは違うのか?」
「魔族と魔獣はまったくの別物だ。魔族は人間種で知識も教養もある。魔獣はその名の通り獣…本能の赴くままに行動する」
「見た目は俺たちを変わらないのか?」
「ほとんど変わらないが、個人差がある、角が生えていたり翼があるものもいる」
「そーなのか…それで?」
話しの続きを促す。
帝国騎士団と魔族との合流地点が、禁断の森に入る前崖の上だったらしい。
先に現地についた帝国騎士団が魔族を待っていると、そこに襲撃を受けたらしい。
「襲撃?それは…魔族からってことか?」
「…わからない、襲撃は主に魔獣だったのだが…たまに魔法による攻撃が飛んできたんだ。ただの魔獣にあそこまで考えて攻撃できるとは思えない」
襲撃はいきなりだったそうだ。禁断の森に入る訳ではないので、騎士団全体に気持ちのゆるみがあったらしい…そこを木々に隠れて近づいてきた魔獣、それも複数体に襲われたようだ。
ただ気になることはあったらしい…なんでも隊列を組み直そうとしたり、撤退しようとする度にどこからか魔法攻撃が飛んできてそれを邪魔したらしい。
「わたしたちは必死に応戦した…奇襲を受けたとはいえ騎士団だからな、魔獣を討伐していった。しかし、ボム・タートルという魔物の自爆に巻き込まれてな…崖が崩れて森の中に真っ逆さまに落ちたというわけだ」
ボム・タートルというのはその名の通り爆発する亀の魔獣だ…亀の大きさによって爆発の威力に違いがでる歩く爆発物である。
崖ごと崩すレベルの爆発だとすると非常に大型の亀だったと予想できる。
そして崖から落ちたアリスは風魔法を使ってなんとか森に着陸…しばらくしたら軍隊狼に囲まれていたらしい。
「…アリス、それは騎士団が狙われたってことか?」
「おそらくはな…今回討伐に参加したのは第一騎士団の半数だったが…何人死んだか」
悔しそうに拳を握りしめるアリス
「アリスを追ってくる可能性は?」
「…無い、とは言い切れないな…わたしはこれでも第一騎士団の騎士団長だからな」
「騎士団長!?…やっぱお偉いさんだったか」
「ははは、まぁそこは気にしないでくれ、命の恩人くん?」
騎士団長か…あまりそうは見えないが強いのだろうな。
「アリスを狙ったやつが来たら追い返しといてやるよ」
「ありがとう、実際にアレンの強さがあれば可能だろうね、しかし、君はなぜそんなにも強いんだ?」
「んー…強いかどーかは分からないよ、ずっとこの森で生活してきたから比べる相手とかいなかったし」
「…この森で生活できてる時点で信じられないんだがな、普通は無理だ」
「ま、死ぬ気で生きればなんとかなるもんさ」
実際に何度この森で死にかけたかわからない…強力な魔獣と戦って血だらけになったこともあった…食べ物が上手く採れない時もあったし、毒にあたったときは三日三晩苦しみ続けた。
「とりあえず、そのまま安静にしてろ!俺はもう一度アリスが倒れた場所の方に行ってみる」
「わかった、気を付けてな…そ、それと…ここは安全なんだろうか?ほら?アレンの家とはいえ、禁断の森の中にいるわけだし…」
「あぁ…それなら大丈夫だ、コハクを護衛で残していくよ、コハクに勝てる魔獣はここでもそうはいないから安心して休むといい」
「コハクって…あの大きな狼よね?そーいえばなんで魔獣と一緒にいるの?どういうことなの?」
「それはまた今度な!今は寝ることのほうが優先だよ、んじゃ行ってくるね」
「え、えぇ…行ってらっしゃい」
そういって俺は家にアリスと、護衛のコハクを置いて森の中に入っていった。
アリス「…コハク、わたしを食べたりしないわよね?」
コハク「ウォウッ!」
アリス・ビックゥゥ――!!!
「アレン!早く帰ってきてー!!」