アリスたちは王宮へ
アレンに街を案内し、信頼できる宿屋へ紹介をすませ一旦別れたアリスたちは、その脚で王宮へと向かっていた。
日はすでに完全に落ち、あたりは民家などの建物から漏れてくる光のみとなっていた。
しばらく歩くと王宮へと渡るための跳ね橋へと着いた、そこにももちろんのこと警備をしている騎士たちがいる。
門の時とは違い、今度はダリウスではなくアリスが前に出る。
そしてコートのフードを外しながら言う。
「第一騎士団・騎士団長のアリーシャだ、王への謁見のため参上した」
いつもはその階級から素通りできる王宮への跳ね橋の警備も、今回は名乗りを上げる。
先に連絡を走らせているとはいえ、今のアリスたちの恰好はただの冒険者…到底騎士団の属する者の恰好ではないからだ。
「…確かに、ご本人だと確認いたしました!どうぞ、お進みください!!」
「うむ、ご苦労」
アリーシャの顔は帝国の4つある騎士団のほぼすべての団員に顔を知られている。団長と言う地位にいることもそうだが、その美貌に加え、風を纏って戦う姿が印象的…そのためもはや偶像のような人気があるのだ。
跳ね橋の警備の敬礼と職務にねぎらいの言葉をかけ、王宮へと入っていった。
「お待ちしておりました、アリーシャ様。オーランド王がお待ちです。ご案内します」
「サンドラか…久しいな、よろしく頼む」
王宮へと入り、すぐに声をかけられる。
声をかけてきたのはこの帝国の王族に仕えるメイドの1人であるサンドラと呼ばれる女性…アリーシャたちを案内するために遣わされたようだ。
サンドラの先導に従い、王のいる場所へと向かう。
この王宮の内部は知っているが、勝手に歩いて向かうわけにもいかない…。
特に会話も無く王のいる部屋…その扉の前に着く。
ちなみに謁見の間ではない…時間も時間ということもあるが、内々で話すには広々とした広間では適さないと判断し、ある程度の広さがある部屋での会合となった。
サンドラが扉の前に立つ、他のメイドへと声をかける。
「第一騎士団長、アリーシャ様…そして救助隊の方々をお連れしました」
「承知いたしました。少々お待ちください…失礼いたします。第一騎士団長、アリーシャ様と捜索隊の皆様がお見えになりました」
「入りなさい」
「どうぞ」
「…失礼いたします」
扉の前に立つメイドが室内に確認を取り、入室の許可が下りる…アリスは一言断りを入れ入室した。
「アリーシャ、生きていたか…無事でなによりだ」
「アリス!!よかった!!生きていたのですね!!」
アリスが入室するとすぐに声がかけられた。
声をかけたのは、厳し目つきと長身痩躯である壮年の男性…この国の王であるオーランド・キング・グランと、その伴侶である優しそうな雰囲気が全身から出ている王妃ディーナ・キング・グランである。
王であるオーランドは落ち着いた声音で…王妃であるディーナは生きていたことへの安堵からか多少感情が高ぶっているようだった。
「はっ!大変ご迷惑をおかけいたしました!ただいま帰還いたしました!」
左腕を胸の前で平行に持っていき、敬礼をしながら頭を下げた。
ダリウス以下、他の騎士団の面々は部屋に入ると同時に跪いている。
「怪我を負っていたと報告があったが…見た限りだいぶ回復していそうだな」
「はっ!奇襲にて禁断の森へと転落し負傷していたところ、ある青年に助けられました」
「…その少年のことも聞いている…が、にわかには信じられん、あの森で人間が生きていくことなど不可能だと思っている…その青年は本当に人間か?」
オーランド王の言うことはもっともである。
それほどまでに禁断の森の魔獣は異常なほど強く、人間が生きていけるなど考えられないからだ。
「…わたしも最初は疑いましたが、わたしは人間以外には見えませぬ…それに邪悪な者でもないと」
「ふむ、アリーシャが言うのならば…お前の人を見る目は確かだしな…ダリウス、おぬしから見てその青年はどう見る?」
「はっ!数日一緒にいましたが、悪意は一切ありません!アリーシャ様に対しても、そして我々に対しても非常に友好的に接していただき、何度も助けていただきました!」
「…おぬしも同意見か…うむ」
アリスとダリウスの意見を聞き、考えにふけるオーランド王…その青年、アレンがこの国にとって害があるのかどうか考えているのだろう。
「…怪しいと思うのも分かります。ですが、一度直接会って話していただきたい。そうすれば悪意のないことは王にもすぐにお分かりになるかと…」
「そうだな…アリーシャやダリウスを助けてもらったのだ、会って礼を言わねばなるまいし…な」
「そして…わたしから一つ提案がございます」
「申してみよ」
「…その青年、アレンの騎士団入団を強く勧めます」
「ほう…」
「ッ!…!」
オーランド王の鋭い視線がアリスに刺さる。
王独特の雰囲気に一瞬呑まれそうになるアリスだったが…その視線に眼を合わせそらさない。
室内にいる者はみな、冷や汗をかいていた。
片や、この巨大なグラン帝国の王…その迫力は威圧は王独特の者で王者の風格を醸し出している…片やグラン帝国が誇る腕利きの騎士団長…その2人の睨みあいに見えない圧力を感じ、畏れたのだ。
そんな空気を壊したのは…王妃であるディーナであった。
「もういいでしょう、オーランド…それにアリスも…よしなさい」
王妃に言われて2人は見えない圧力を解く。
「…お前が入団を勧めてきたのは初めてだな、それほどまでに強いと言うのか?」
「…強いです。おそらく、わたしよりも」
アリスの言葉に救助隊以外の…王や王妃、室内に控えていたメイドたちの表情が変わった。
みな、アリスの強さは知っているからだ、そのアリスに自分より強いと言わしめたことに驚愕する面々。
「…お前より強いだと…それは偽りのない言葉か?」
「はい…アレンの戦うところは何度か見ました、それに一度だけですが手合せも…」
「そしてその手合せで負けた…か」
「はい…」
沈黙が室内に流れる…。
それを破ったのはまたしても王妃であった。
「ふふふ…アリスより強い男性が現れるなんてねぇ~!これはお婿さん候補かしら?」
「……なっ!!?ち、違います!!そう言う意味での入団推薦ではありません!」
いきなりの爆弾投下である…。
「だってあなた、昔からわたしより強い人じゃないと結婚しない!って言いきってたじゃない!」
「あ、あれはまだ若いときであって…今は別に…そんな」
「じゃあ、あなたより弱い男性でもいいの?」
「…いえ、それはそれで納得できませんが…」
「ふふふ…正直じゃないわねぇ」
苦虫を潰したような表情のアリス…ニコニコとものすごく嬉しそうに笑っている王妃ディーナ、そして先ほどの王としての威厳全開だったオーランド王ですら苦笑いしていた。
「まぁなににせよ、その青年は会わねばあるまい…その前に…今回の魔獣襲撃の真相を追い、魔族へと交渉をまとめる。その青年と会うのは少し先になるだろう。みな、今日はもう休むがいい、アリーシャもダリウスたちも完全に傷が癒えたわけではあるまい」
「分かりました」
「「「はっ!」」」
オーランド王の言葉で今日はここまでにし、休むことがきまった。
その言葉に従い退室していく騎士団の面々…。
「…アレンか、いったいどれほどの男なのか」
「ふふふ…アリスの御めがねに適ったのなら、悪い人ではありませんよ」
「…だといいがなぁ」
アリスやダリウスたちが退室した部屋で…オーランド王とディーナ王妃の呟きが響いた。




