無事に
女王蟻、グラトニー・アント・クイーンとの戦いを終え、ほんの少しの休憩を終えたアレンは…途方にくれていた。
「…どーすっかなぁ」
アレンの目の前には自分で崩したこの広間への出入り口があった。
兵隊蟻がしばらく入ってこられないように爆破し、崩したとはいえ脱出の事も考えながら崩したつもりだった。
しかし、今アレンの目の前にあるのは自分自身で崩した上に、女王蟻が吐き出し続けた酸の弾丸で溶けて固まった入り口だった。
戦闘が広間全体で行われたため、酸の被害が大きく崩した瓦礫を融解…溶けきらずに他の岩などにくっつき1つの壁のようになっていた。
「参ったな…強引に抜けたら下手すると崩れそうだし」
アレンの魔法を使えば入り口を爆破し、通る穴をあけることは難しくないだろう…しかし戦闘で広間全体がだいぶ脆くなっている。下手に刺激を加えると崩落の可能性があった。
3つ目…4つ目と出入り口になっていた箇所を確認していくアレン。
「おっ!ここは…よし、なんとかなりそうか」
最後の5つ目の出入り口だけは他と違い、酸の直撃を受けておらず、普通に崩れたままであった。
近くに寄ってそのことを確認したアレンは、崩落しないように注意しつつ瓦礫の撤去を行っていった。
「う~~~~ん…疲れたもう日が暮れるなぁ」
瓦礫の撤去をし、進んできた道を戻り無事に外へと出ることができた…すでに日暮れ間近でありだいぶ時間がたっていた。
巣の周りにあれだけいた兵隊蟻たちは、そのほとんどが姿を消していた。
数匹、目に映るところにはいるが…狂暴性はなくこちらに襲い掛かってくる気配はしなかった。
「…クイーンが討伐されて元に戻ったか…遅かれ早かれあとは死んでいくだけだな」
ぼそりと呟くアレン。
グラトニー・アントの暴走は飢餓状態の女王蟻が変異したことによる種の一斉変異である。
そのクイーンが倒されれば兵隊蟻たちは元のビック・アントに戻り…女王を失ったため統率力もなくなり混乱しながら散り散りになっていくのだ。
その末路は強力な魔獣の餌になる…それを回避できたとしてもすぐに餓死するのだ。
その証拠に巣の近くではすでに死んでいる個体に姿が確認できた。
その死骸はみな、甲殻が黒く…グラトニー・アント特有の赤黒い甲殻ではなかった。
「よし!みんなのところに帰るか!コハク!!」
「ウォン!!」
アレンに呼ばれ、その影からコハクが飛び出してくる。
女王蟻との戦いの際にコハクはアレンの影の中にいた。
当初、アレンも火などを起こし光源で影を作りコハクを呼び出すことも考えていたが…密閉された空間で火を起こす危険性や、暗闇での戦闘ではコハクの力を十分発揮できないことを考え、コハクを呼び出すことをやめたのだ。
「みんなのところに戻ろうか…疲れたから乗せてってくれるかい?」
「ウォウゥ――…」
仕方がないな~とばかりにうなるコハクの背に乗り、みんなが待つ場所へと向かう。
アレンの心は騎士団の…そしてなによりアリスが無事でいるかどうかでいっぱいだった。
コハクは主の、アレンの心をくみ最短、最大速度で騎士団が籠城した天然の砦へと駆けた。
あれだけいた兵隊蟻の姿はなかった…たまに兵隊蟻の死骸を咥えている他の魔獣を見かけることはあったが、戦闘にはならずにすんだ。
そして日がほとんど落ち、薄暗くなるころにその砦へと着いた。
そこには無数の兵隊蟻の死骸が転がっていた…砦の壁の近くで黒く焦げている死骸や躰を寸断されている死骸が目に入る。
そしてなにより目が行ったのは砦唯一の入り口である場所だった。
死骸が山のようになっていた…おそらく入り口で殺された蟻を、生きている蟻が邪魔だと言わんばかりに引っ張り出し近くに放り投げたのだろう…無数の蟻の死骸がそこにあった。
そのほとんどは首を切られているか、頭を貫かれているもののようだった。
どれほどの激戦だったか…アレンは眉をひそめた。
一応警戒しつつ砦の中へと入っていく。
「…アリス!無事なのか!」
歩を進めながら暗くなった砦へと入り、アリスへと声をかけるアレン。
「…アレン?アレンかッ!!よく帰っていた!怪我は?怪我はしてないのか!?」
砦の中ではいまだ剣を構えたままのアリスがいた。
襲撃は収まったが、また襲ってくるとも限らない…油断せずに戦える体勢でいたのだろう。
アレンの姿を確認したアリスが走り寄ってくる。
「俺は大丈夫だ!アリスたちは!?みんな無事なのか?」
「わたしたちもみな無事だ!みな、大なり小なり怪我はしているし、魔法をメインに撃退をしていた面々は疲れ切って奥で倒れているがな!」
アリスの言われ周りを確認すると、ダリウスさん他…アリスを含め数人しかいなかった。
動ける人だけで警戒を続けていたんだろう。
死者がでていないことにほっと胸をなで下ろすアレン。
「みんな無事でよかった…」
「アレン…ありがとう、アレンがいなければわたし達はみんな喰われていただろう」
アリスが姿勢を正し、まっすぐこちらを見てお礼を言ってきた。
その姿に思わず見惚れ…そして恥ずかしくなり視線を外しながら言葉を返す。
「俺もみんなには…アリスには死んでほしくないしな…本当に無事で良かった」
最後にはもう一度アリスの方を向き笑顔で無事で良かったと伝えるアレン。
「ふふ…借りができてばかりだな、いつになったら返せるものやら」
「別に返さなくてもいいが…それじゃアリスが納得しなそうだな、気長に待つとするよ」
「あぁ!返すまでずっと待っていろ!なにがなんでも必ず返すからな!」
2人はお互いに冗談を交えながら笑い合って…そして笑顔のまま見つめ合った。
…他の団員がいることも忘れて…。
「うぅおっふぉんッ!!」
ビクゥゥ―――!!
ダリウスの咳込みに飛び上がらんばかりに驚く2人…そのままダリウスの方へと顔を向ける。
「…生還されたことを喜ぶことはけっこうですが、すでに日が暮れています。安全が確認されたのなら急ぎ、野営の準備をしたいのですが…よろしいですか?アリーシャ様、アレン殿?」
「「は、はいっ!大丈夫ですっ!」」
アレンはともかく、アリスですらも反射的に敬語で答えてしまうほどには…笑顔で提案してきたはずのダリウスの眼が笑っていなかった。




