巣の中へ
アレンは高所から見つけた蟻の巣であろう、ちょっとした小山に見えるほど巨大な切株へと一直線に…全速力で向かっていた。地を蹴り、崖を跳び降り、樹の枝を飛び移り…そして時には蟻すら足場にしてどんな地形だろうと、ひたすらまっすぐに…。
しかし、ただ走っているだけではない。
巣に近づくにつれ、どんどん蟻の数が増えていく…そのほとんどがアレンを捕食しようと、そして巣に近づく敵を撃退しようと襲い掛かってくる。
アレンは向かってくる蟻の群れを確実に…効率よく、最低限の力を使い首を撥ね、無力化していく。
首を撥ねただけではすぐには死なないが、襲ってこなくなればいいのだ…短期決戦を目的としているアレンにとってはそれでよかった。
「コハク!全力で狩れっ!」
「ウォウッ!!グルルルルッ!!」
隣を走り、アレンの死角から襲ってくる蟻や、アレンが対応すると進行速度が落ちてしまう蟻に対して攻撃をしていたコハクがアレンの呼びかけに応じる。
隣にいたコハクがいきなり消える…そして次の瞬間、アレンの進行方向にいた十数匹の蟻の首が落ちた。
「「「ギギギッ!?」」」
自分の首が地面に落ちてからようやく…攻撃されたことに気付く蟻たち。
コハクはアレンに言われた瞬間、自分の影に一瞬でもぐりこんだ。
そして影を伝って蟻どもの影へと移動…自分の体から生やした刃のみを影から出し首を切り落としていったのだ。
影狼が得意とする影移動での接近方法と、ソードウルフが得意とする体へ刃を生やして敵を切り裂く攻撃方法の重ね合わせだ。
コハクの影移動に反応でき、刃での攻撃に対応できる魔獣はほとんどいないだろう…少なくともグラトニー・アントの兵隊蟻には反応すら許さなかった。
コハクが本気で蟻どもを無力化してくれるおかげで、アレンのスピードは更に上がっていった。
ちなみにコハクの影移動からの攻撃を防げる強力な魔獣も、目に見える範囲だけで十数体…蟻と戦っていた。獲物を狩りにきた蟻にたいして、その爪を、牙をおおいにふるい反撃し返り討ちにしていた。
なので蟻すべてがアレンに向かってくることはなく、全体の何割かは、他の獲物へとその咢をむけていた。
蟻と他の魔獣の戦っている場所すらも上手く利用し、進んでいくアレン。
魔法も武技も使わず、できるだけ温存した状態で巣へと走っていく。
もう何匹切ったか…数えるも億劫になるレベルで蟻を切り裂きながら巣へと到着したアレンは、休むこともなく巣の入り口へ駆けそのまま突っ込んでいった。
巣へ入ってからは目に見える蟻をすぐに始末し、自分の気配を消す、無駄な戦闘を避け…女王蟻をすぐに見つけるためだ。
巣の中は広く、迷路のようだった…蟻自体が大きいためか、アレンも普通に立って戦闘にも余裕がもてる大きさの道になっていた。
さてと…巣までは無事にきたが、さすがに暗いな…。
それに女王蟻の場所を突き止めないと。
奥に進むにつれて太陽の光が届かなくなり、暗くなっていった。人間の眼にはすでにほとんど映っていない。
「…【夜目】」
アレンが小さくつぶやく。それは暗闇…主に夜でも視界を確保できる武技であった。
【夜目】を発動させたことにより、視界がよりはっきりと映る…アレンがいまいる場所は、簡単に言ってしまえばゴミ捨て場のような場所だった。主に硬い甲殻を持つ蟲型の魔獣の甲殻の破片などであった…しかし、そこに1つ見たことがある物が混ざったいた。
それは…騎士団の鎧だった。
おそらく襲われ、連れ去られた人の鎧だろう…鎧がここにありそれを着用していた人間がいないことで、なにが起きたかは言うまでもなかった。
「…やはり喰われていたか…鎧だけでも回収していこう」
そういって血がこびりついた鎧を空間魔法で回収したアレン…。
「…喰い散らかした残りがここにあるってことは女王蟻の場所が近いな…【響感動地】」
グラトニー・アントは女王蟻しか食事をしない…ゆえにゴミ捨て場があるなら近くに女王蟻がいる可能性があるということだ。
アレンは地面に片手を付き、魔法を唱える。
地面に魔力を流し込み、広げる…地面から伝わる振動を増幅し、振動の発生源となっている者を特定、感知できる魔法だ。いまのように閉鎖された空間では非常に高い効果を発揮する。
「…みつけた」
一言つぶやき、コハクと共に音もなく巣の中を走り抜けていくアレン。
迷路のような巣の中であって、女王蟻のいる場所へ迷わず進んでいった。




