変異進化
アリスたちが巨大な蟻の魔獣と戦っている。
数は1匹だけ、包囲しながら上手く戦っているようだが…どうも苦戦しているようだ。
状況を認識したアレンはスピードを落とすことなく前方の樹の枝へと飛び上がった…そのまま次々と樹の枝を跳び進み蟻の魔獣へと近づく。
十分に近づいたアレンは枝から飛び上がり、身をひるがえしながら空間魔法で剣を手に持ち…蟻の頭上からその首へと剣を叩き込んだ。
ザンッ!!
「ギッ!?ギギギギ!」
「アレンか!すまん、助かった…」
「大丈夫ですか!?」
「ああ、けが人は出たが死人はでていない!」
アリスの答えにほっと息をつくアレン。
「ギ、ギギギ…ギギ」
「…蟲型の魔獣は首を切り落としてもしばらく生きています、十分注意してください」
そう言いながら、落とした頭へと剣先を振り下ろす…胴体の方もまだ動いているが、そのうち動かなくなるだろう。
「すまない、あまりにも魔獣と会わなかったものだから油断した…、気づいたら我らの近くに来ていてな」
「いえ、蟲型の魔獣には非常に隠密性の高いものが多いですから…でもこの蟻は…」
「アレン殿、この蟻の魔獣は…ビック・アント…で合っていますか?」
「えぇ…そのはずです、しかしビック・アントは比較的温厚な魔獣…積極的に襲ってくることなんてないはずなんですが」
ダリウスさんに聞かれ、ビック・アントについて答えるが…どうもおかしい。
ビック・アントは集団で巣を作る、雑食で魔獣の死骸なんかも食べるが…巣を攻撃しなければほとんど襲ってくることがない魔獣だ。
「我々もビック・アントとの戦闘経験はあるが…ここまで狂暴で強靭ではなかったはずだ、普通の剣戟じゃ簡単に弾かれてしまったぞ」
「アリスの剣が弾かれる?そんなバカな……ツッ!!もしかして!!」
「アレン、なにか思い当たる節があるのか?」
アリスの問いに答えずに先ほど倒した蟻の魔獣に近づき死骸を調べる…確かにビック・アントの死骸だ、しかしよく見ると違うところがあった。
表皮が…普通のビック・アントに比べ光沢があり、なにより薄らと赤が混じっていた。瞳の色も普通は黒だ…なのにこの個体は紅い目をしている。
この特徴がビック・アントに出るということは…
「…グラトニー・アント」
「グラトニー・アント?聞いたことがないが…」
近くに寄ってきたアリスには聞こえていたらしい。
「…グラトニー・アントはビック・アントの変異進化種です。女王蟻が極度の飢餓状態になり、それでもなお死なずに生き続けた場合にのみ発生します。最初は女王蟻がそれこそなんでも喰うようになります…同種の蟻ですら…その後、残った蟻たちにも変化が生じ、表皮が赤く硬くなり、それから少しすると眼が紅く変化します。その頃になると自ら獲物を積極的に狩り、女王蟻のいる巣へと持ち帰るようになります」
こいつらの厄介なところは種そのものが進化することにある。
規模にもよるが群れの数によっては簡単に国が亡びるレベルだ。
「そんな風に進化するなんて聞いたことがない…」
「普通は女王蟻がそのまま餓死して終わりですからね、俺も昔、なりかけの女王蟻に会ったことはありましたが、やはり餓死寸前でしたし」
森の魔獣が少なかったのはグラトニー・アントの狩りのせいか…この森は魔獣の宝庫と言ってもいい、それなのになぜアリスたちのところへ来た?偶然か?グラトニー・アントの習性を考えるとあり得ないことなんだが…ッ!まさか!!
「ダリウスさん!捜索隊のうち、2名が亡くなりましたよね?失礼ですが、どのように亡くなったんですか?」
「…1名は獣型の魔獣に襲われ喰われた…もう1名なんだが…背後からの奇襲を受けそのまま連れ去られたのだ…ハッキリとは見えなかったが、おそらくビック・アントだと…」
悪い予感が的中してしまった。
「それが原因か!!アリス!みなさん!全員警戒態勢を取ってください!!ここはまずい!すぐに移動します!!」
「いったいどうしたんだ!?アレン!」
「グラトニー・アントの一番最悪の習性は、一度喰って気に入った獲物を覚え…例えどんなに遠く離れていても知覚し、気に入った種が絶滅するまで捕食することです!おそらく捜索隊の1名が喰われ、人間という味を覚えてしまった…これから俺たちにグラトニー・アントが群がってきます!」
このまま平地にいたら囲まれてしまう、そうなる前に撃退しやすい地形に移動しなければならない!
アレンは急いで移動を開始するのだった。
そこにいつもの余裕そうな表情はなく…そのことが事態の深刻さを物語っていた。




