女性騎士を拾う
魔獣の気配と血のにおいに気付き、その場所に向かっているアキの耳に魔物のうなり声と、女性の声、そして戦闘音が聞こえてくる。
「グルルルルゥ――!!」
「ガァウ!!ガウッ!!」
「はぁぁ!」
キィン!キィン!!ザンッ!!
「ギャウゥ!?」
「敵を切り裂け!【ウィンド・スラッシュ】!!」
シュンッ!
「ガッ!!…」
アレンが音のする場所に着くと女性が1人で魔獣を切り伏せ、隙をついて魔法を放ち戦っていた。
「あれは…軍隊狼か、数が多いな…さっきの風は女性の魔法の余波か」
女性が何匹か切り伏せてはいたが、まだまだ狼たちはいた。その数は20匹を超えている、1人で対処するには厳しすぎる数だ。
なにより軍隊狼は数も多いが、やっかいなのはその連携力にある。場合によっては自分たちより強い魔獣を食糧とする場合すらある。
女性の恰好はどこかの騎士のような姿だった…切り立った崖を背にうまく魔獣に対応しているが、いかんせん数が違いすぎる上にすでに負傷していた。
ところどころ出血していて、一番ひどいのは脇腹の傷だ。おそらく牙か爪でえぐられたのだろう。
「くっ…くそ!こんなところで死ぬわけには…」
案の定、脇腹をおさえながら膝をつく女性騎士、それを見たアレンは考えることをいったん止め、魔獣を仕留めることに集中することにした。全力のスピードで間に入る。
女性騎士と狼たちは、間にいきなり人が現れたように見えたはずだ…
先に反応したのは狼たち…獲物を前にいきなりの乱入者に苛立ちの声をあげる。
「グゥオゥ!!!」
「グルルルルルルルゥ!!」
「ウォウッ!!」
「こっからは俺が相手してやるよ、かかってこいや」
女性騎士も我に返り声をあげる。
「お、お前はいったい…なんでこんな場所に…そ、それよりそこをどけ!!その狼たちは普通の狼ではない!私に任せて逃げるんだっ!1人で勝てる数じゃない!」
「大丈夫ですよ、心配せず見ててください。それに…1人じゃありませんから!コハク!!」
「ウォウッ!」
アレンがコハクと叫んだ瞬間、アレンの影から大型の狼が飛び出し、そのまま軍隊狼たちに襲い掛かる。
コハクと呼ばれた大型の狼はアレンの背丈ほどもあり、軽々と軍隊狼を吹き飛ばしていく。
「なっ!?狼!?なんて大きさだ…」
「じっとしててください、傷に触りますよ…ここは俺とコハクに任せてください。
「あ、あぁ…分かったよ…」
いきなりのことで混乱している女性騎士をそのままにし、コハクに続いて軍隊狼たちに突っ込んでいく。
走りながらアレンは両手を広げるように伸ばす…空間が歪み、その両手にはそれぞれ剣が握られていた。
「なっ!?空間魔法!?」
後ろで女性騎士がなにか言っていたが無視して突っ込む。
コハクに注意がいっているので、すれ違いざまに次々切り伏せていく。
「ふっ!はっ!!」
「ギャッ!?…」
「ガッ!!…」
「【樹槍】」
「「「ガフッ…」」」
アレンの魔法で周りの樹から槍のように枝が伸び、軍隊狼たちを貫いていく。
アレンとコハクによって20匹以上いた軍隊狼をすぐさま全滅した。
「ふぅ…ありがとうコハク、ご苦労様」
「ウォウッ!!グルルル…」
「ははは!くすぐったいよコハク…」
アレンに甘えるように体をこすりつけてくるコハク、軍隊狼を吹っ飛ばしていた時の迫力はすでに無くなっていた。
アレンはコハクを引き連れたまま女性騎士の方へと歩いていく。
「傷を見せてください、そのままにしておくと出血で死んでしまいますよ」
「はぁはぁ…あぁ…す、すまない、助かるよ…はぁはぁ」
女性騎士は魔獣が倒され気が抜けたのか、先ほどより辛そうな表情をしていた。
「このまま俺の家まで運びます、あなた名前は??」
「わ、わたしのな、名前は…ア…」
「…気を失ったか、この出血量だ…仕方がない」
女性騎士の傷の応急処置をして、抱き上げ、家へと帰った。