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06. 良い縁ばかりとは限らない

「ふぅ……」


 数時間後の夜も更ける頃、パーティーが終わると知佳は一人会場から抜け出した。今日だけで男性三十人と知り合った上に、同じグループの女性たちとも仲良くなりつい話し込んでしまったのだ。女の話はどうしたって長くなる。翌日の仕事があるからと話を切り上げなければ、彼女たちは延々と話し続けるところであったろう。


(とりあえず家に帰ったらお風呂に入って、連絡先を教えてもらった人たちに挨拶のメッセージを送らないと)


 連絡先を交換しているのは男性ほぼ全員だ。そのほとんどに同じ内容の文章を送ることにはなるだろうが、人数が人数だ。それだけでも骨が折れる。


 始めたばかりの婚活に若干の倦怠感を覚えつつ帰り道を歩いていると、不意に後ろから名前を呼ばれた。


「あー、よかった。止まってくれた」

「あぁ、さっきのパーティーの……」

「あ、はい! 覚えていてくださったんですね!」

「は、はい……」

「嬉しいです。いやぁ、僕は話を聞いてばかりであまり自分の話が出来ていなかったので、忘れられているかと思いました」

「は、はぁ……」


 追いかけてきたのは先程のパーティーで知り合った男性の一人だ。積極的にグループでの会話に混ざるわけではなく聞きに集中するタイプであり、直接深く話した相手ではないため、どういう人であったかはあまり印象に残っていない。が、流石に最近見た顔だということだけは覚えていた。そのことを伝えると、男性は何故か異様なまでに口元を緩めると、恍惚の笑みを浮かべた。


「……そ、それで、何か御用ですか?」

「あぁ、えーっとですね。この後もしお時間があれば、お茶でもいかがかな、と思いまして!」

「すみません。もう夜も遅いですし明日も仕事がありますので、今日はこのまま帰ろうと思います」

「えっ」

「失礼します」


 男性の異様な雰囲気に後ずさりしながらも、軽く一礼すると背を向けて歩き出す。――が、


「な、なんで!?」

「――っ!?」


 後ろから突然腕を掴まれ振り返ると、男性が掴みかからんばかりの勢いで詰め寄ってきた。


「なんで僕の誘いを断るの!? 君は僕のことが好きなんじゃないの!?」

「は、はぁ!? ど、どうしてそうなるんですか!」

「だって君はあんなに媚びるような笑顔を僕に向けて来たじゃないか! うっとりした目付きで見つめてくるってことはそういうことだろう!?」

「それはただの愛想笑いです! 都合のいい解釈をしないでください!」

「僕は君に一目惚れしたんだ! ってことは君もそうなんだろう!? 婚活なんて嫌だったけど、今日僕がここに来たのは君と出会うためだったんだ! 僕たちの出会いは運命なんだよ!!」

「それは一体どういう原理なんですか! 貴方が私に一目惚れしようが恋しようが貴方の勝手ですけど、私は今日誰にも惚れていませんし貴方との出会いは運命でもなんでもなくただの偶然です!!」


 男の言い分は何一つとして理屈が通っておらず、自分勝手なものばかり。知佳が猛反発するも、男が引く気配はない。鍛えているのか相手の男の力は強く、昔から運動神経のいい知佳だが、力では敵いそうにない。今は膠着状態にあるが、このままではいずれ力負けしてしまうだろう。


(……怪我させちゃうかもしれないけど、ここは相手の力を利用して!)

「う、うおわっ!!」


 男から逃げるように後ろに引いていた力を、今度は男に向けて押す。男の力に反発するのではなく受け流すのだ。案の定、力の方向が変わったことに驚いた男は、そのまま後ろに尻餅をついた。


(今がチャンス!)


 男の手が離れた瞬間に踵を返し走り出す。しかし、体は再びグンッと後ろに引き戻される。振り返れば、肩からずり落ちていたバッグの紐を、這いつくばった状態の男が掴んでいた。


「離してください!」

「いやだ! 君は僕と一緒になるんだ!」

「なりません!」


 何故そこまでして諦めないのか。もはや好意でもなんでもなく、ただの意地なのかもしれない。男の異常さに気味悪がりながらも、知佳はバッグを返してもらおうと引っ張り続けた。


「――っ!?」


 だが、そうして反発したのが悪かったのかもしれない。不意に後ろに引っ張られる感覚がなくなると、知佳の体は前に倒れ始める。どうやら相手にも学習能力があったらしい。先程の知佳同様、相手の力に対抗せず逆に力を抜いたのだ。


(っ、やば!)


 均衡していた力が流された反動で、知佳の体は前へ進む。が、ちょうど道の端にいたらしく、進んだ先には小さな段差があった。その段差に足を取られてしまったがために、知佳は体を支えることが出来ずに地面へ倒れていく。


(痛っ……くない?)


 衝撃に備え体を縮こませていた知佳。しかし予想していたよりも衝撃は小さく、硬い地面ではなく別の柔らかい何かに接触したような感覚がした。

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