表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

00. あなたにとって恋とは

 ――あなたの初恋はいつですか。


 初恋。それはこの世に生をけてから、初めて自分以外の何者かに恋慕の情を寄せること。園児、学生、社会人、あるいはまだ迎えたことのない人もいるかもしれない。相手を乞い願い、求める激しい恋心。それは時に陽だまりのように胸の内を温め、時に激流のように荒ぶり、時に引き裂くように儚く鋭い痛みを伴い、時に凪のように穏やかな静けさを人の心に生み出すもの。けれどどのような想いも、一様に美しい。それが、初恋。


 ――その相手は誰ですか。


 父や母、幼馴染、友人、先輩、後輩。はたまた身分違いや年齢差など、乗り越えるべき障害を伴う関係もあるだろう。好意を寄せる相手に際限はない。何者かを真に恋い慕う感情に、抗う術などないのだから。


 ――その初恋は、実りましたか。


 自分から相手への想い、相手から自分への想い。互いに恋願う気持ちが合致している時、人はこれ以上にない幸福感を抱くものだ。


 しかしながら、自分が乞い求めたとして、必ずしも相手がそれに応えるとは限らない。実のところ、恋が成就することは奇跡に近いと言える。というのも、恋慕の情というものは、自身が相手の都合を考慮した上で抱くものではなく、自己の心の内で不意に生まれるもの。恋心というものは、いうなれば自分勝手であり一方通行であることが大抵なのだ。


 詰まるところ、実らない恋というものは、自分の中で完結させなければならないのだ。人はそれを〝失恋〟と呼ぶ。


 ――では、どうやって失恋を乗り越えましたか。


 次の恋に進んだ、過ぎたことと思い出にして整理をつけた、恋愛に費やしていた熱を別の場所へ向けた、または今も尚、制御できない感情に囚われ動けずにいる人もいるだろう。それほどまでに、恋というものは人の感情や行動を振り回す。人を癒す恋もあれば、狂わせる恋もある。それが恋愛というものなのだ。


 さて、ここに一人の女がいる。名は神崎知佳かんざきともか、齢二十九にして独身、恋人がいない年数と年齢は同じである。なにも彼女は恋をしたことがないわけでも、したくないわけでもない。初恋は幼児期に迎えているし、異性からのアプローチも何度も受けてきた。しかし、彼女はその全てを断り男女交際というものを避けてきた。ではなぜ、彼女が恋愛を避けてきたのか。それは、幼児期に迎えた初恋に問題があったのだ。


 彼女の初恋の相手とは、かなりの年齢差があった。一回り、二回りどころではなく、実に六十歳差。乗り越えるには大きすぎる障害である。そして、仮にその障害がなくとも、彼女にはどうあがいても絶対にその恋を叶えられない理由があった。それは、彼がテレビ画面の向こう――アニメの世界で生きるキャラクターであるということだ。


 これは、アニメのキャラクターへの初恋をこじらせた女が、その恋心と折り合いをつけるべくもがき足掻く物語である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ