魘夢(えんむ)の雲
人は、私のことを悪魔だと睨んでくる
砂時計の砂が
さーうさーうと回転しても
岸辺で少しばかりか
涼しい風にめくれたくても
私のことを悪魔の血統だと
輪になり叫んで、睨んでくる
睨んでくる
睨んでくる
どんなに耽美な色に染まろうが
どんなに想いを込めて歌を歌おうが
「悪魔はどこだ、悪魔はどこだ!?
我らを脅かす
あの憎き悪魔め!
……△(アルケミカルシンボル)……。
お、いたぞ!
見つけたぞ、悪魔を見つけたぞ!
今日で、ケリをつけてやる!
悪魔め…、悪魔め
今だ!悪魔を殺せ!
悪魔を殺せ!悪魔を殺せ!!
殺れ、襲いかかれ!!!」
どうやら悪魔は
珈琲も静かに
飲むことが赦されていないようだ
悪魔は朝から晩まで
滝のような光によって
プライベートも照らされている
魘されっぱなし
悪魔は金色の直角に嘲笑されて
太陽の薔薇に焼かれる
悪魔は嫌われ
悪魔はもがき苦しみ
悪魔は殺される
どうやら、天使や人にとっては
私の【存在】が悪魔のようだ。
「悪魔、悪魔、おまえが悪魔!
悪魔、悪魔、おまえは悪魔!!」
私は、反射的な跳躍力になってから
言った【存在】に、言い返した。
「猿蟹合戦じゃあ、あるまいし。鏡だからね、鏡。ミラー、はい、ミラー」
鏡の青方偏移。
やや退いてくれたが
それでも消えることはない淫乱なハムストリングス。
だから、私は言った。
「お、これって、お遊戯会でしょ?」
「何を言っても無駄だ!おまえは、天地創造以前から、悪魔として、神に創られたのだ!!おまえは悪魔の子、悪魔の子なのだ!!」
それから、私は骨と血肉をボリボリと饕餮に喰われるように、喰われてしまった。
ボリボリと喰われてからは、
その【存在】の胃袋に入り込み
消化されたあと、腸のニューロンのなかで
揺さぶられながら
排泄物として、この世界に聖誕した。
聖誕したあとは
下水道のプランクトンに食べられて
シナプス伝達のキャッチボールを通過したあとに
プランクトンは幸か不幸か
大海と出会った。
それから
大海のクジラはプランクトンを飲み干して
クジラは人間のファントムエネルギーによって
釣られて、獲られ、刺身にされた。
その刺身を食べようとした伊勢佐木長者町の女に
以前私を食べてしまった、食べてしまった
【存在】が口説いてきた。
なにかと烏兎怱々(うとそうそう)であるから
【存在】と女は恋のセックスをして
かけがえのない愛の子供が産まれた。
命の親は愛であり、愛の親は、また、愛である。
その、かけがえのない愛の子供は、やがて
億千万を助けた
かけがえのない子供になった。
そのことは、天国では喜ばれ
そのことは、地では蔑まれる
やんごとなき天然であった。




