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天国のメルヒェン ー時系列版ー  作者: アミュースケールトン
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うさぎロマネスク 続

ハルは、それからというもの

水色のお家に帰って

ヴェルディグリの扉のドアノブに

手をかけてひねったあと

自身の部屋に入っていった。



クリームイエローとインオールイノセンスの

太陽のひかりが射し込む部屋には

チョコレートやブリキのおもちゃ

造花の薔薇

チェスや木馬

亀のぬいぐるみ

けん玉

ヴァーチャルなゲームが

うなだれてベッドに置かれていた。



その部屋でハルは

時々、寝っ転がりながら

絵本を読んだり、窓越しから見える景色に

心を奪われていた。



だが、最近のハルのこのような

どこか寂寥(せきりょう)な部屋が

がちゃがちゃがちゃと一変してしまった。



あれこれと、物が片付かず

あれこれと、物心が(かさ)んで増えていく。



それから、なんだかがちゃがちゃと

していったから、

また、唇をつんとさせる機会も増えていった。

ハルが眺めているのは

全てあの人であったのであろうことは

定かではなかったが、

それでも、あの人が多かったことに

間違いはなさそうだった。



ハルは、普段より

リビングに行く回数が減っていき

一人の時間が多くなっていった。

それから、ある一定のところまで来ると

それからというもの

あの、大いなる力を

呼び起こしてしまう風が吹いてしまえば

泣いてしまうだけであった。



とある日

ハルは、寝てしまいたくもなかったが

気もつかず、清らかな月光に包まれて

眠ってしまった。

眠ってから、次第に

あの神秘の力が充満する世界へと

いざなわれていった。



足元は軽いので

ジャンプをしなくても

空に浮かぶことは出来て

その、感覚は普段よりも鮮明であった。



あたりは、様々な色や紋様が

描かれたような世界に変わっていった。

そこから、少しすすんでいけば

世界は輪郭を変えていくのであった。



ハルは楽しくなってきたので

手をロープのようにくねらせたり

くるくると宙を回って遊んだり

鳥人間や不思議な木々、様々な[存在]と

思う存分に、お話しをした。



鳥人間は言った。

「きみは、知らないだろう。可愛いものは、世界を止めてしまう力を持っていることを」



ハルは言った。

「へぇ。造花の薔薇だって、止まっているよ。」



アトランティスの木が言った。

「今の時代の文明は、ぼくたちの文明に比べれば、ナンセンスなのさ。なんだか、おもっくるしいよ」



ハルは応えた。

「きみは見たこと無いんだよ。カッコいい車を」



レムリアの花は言った。

「私たちは、いつでも繋がっている。ほら、また25689km離れたピラミッドさんから、声が聞こえてきた。」



ハルは言った。

「あっ、電話をしているんだね。」



七色のライオンが話しかけた。

「ハルが住む家に、今度おじゃましにいくよ。」



ハルは話した。

「じゃあ、一緒にチェスとけん玉で遊ぼうよ。それから、冒険ごっこをしようよ!」



カブトムシが言った。

「今度また来たときに、見せたいものがあるんだ。」



ハルは、言った。

「今じゃ、ダメなの?」



ハルは、このように

この神秘の世界を飛んでしまったあと

次第に、懐かしい感じがしてきた。



その懐かしい感じがする方へと

向かっていった。



向かっていくと、懐かしい感じから、

普段の感じより、やや、心が和む

感じに変わっていった。



それからハルは

気が付けばあの丘にいたのだった。



この丘に来たのだから

いつものように、ぼんやり空を

眺めようと思っていたけれど

今々は、違った。



楽しいから歌を歌ってみた。




『ハルのうた』

こかげにはひかりがやすみ

ちょうちょやとりたちも

しずかにあそぶ

そらがなくのをやめたから

ぼくはかわりにないてたよ

きみはいまどこにいるの

ぼくはきみのかわりに

うたをうたうよ

ちいさなうたから

おおきなうたまで

ほら、くもがぼくのてのひらに

おっこちてきたよ

ほら、たいようがきみの

こころをいつまでも

てらしているよ





すると

うたを聴いていた小鳥達が

ハルに話しかけてきた。



「ほら、きみが会いたかった人が、来るよ。」



ハルは、少し緊張してから、何故かまた

唇をつんとさせた。

それから、丘に咲く、ハルジオンを眺めた。



「ハルさん、ハルさん。お元気ですか?」



ハルは、なかなか顔を見ることが

出来なかった。



「元気です。先生はどうですか?」



「ハイ、私は元気です。ちょうどこの頃は、金木犀(きんもくせい)が咲きますね」



ハルは、何故だか、素直になって

大好きな(まなこ)を見て喋り出した。



「この前、話しましたよ。金木犀は、ぼくのことはなんでもご存知でした。」



先生はハルの眼を見つめて、微笑んだ、微笑んだ。命は尊いんだ。



ハルは、気付けば、目を覚ましていた。すると、いつものように、なんだかがちゃがちゃがちゃした天井がうっすらと見えてきた。ハルの心は、あのよろこびで染まった、ままだった。しばらくハルは、ベッドから起き上がれなかった。

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