スズメ
木の葉がさざ波のように音を立てて、揺れていました。それぞれの葉は陽の光を集めながら、ひとつの呼吸をし、合唱をしているのでした。そんな木々のこずえに、座っている小さなスズメがいました。
このスズメは、たいそう品が良いスズメでした。見た目は、尾びれに7本の白いスジが入っているくらいで、他のスズメ達と、ほとんど見分けがつきませんでした。ですが、物を食べたとしても、物には、依らないスズメでした。また、鳴き声が少しだけ、他のスズメ達よりは、ハスキーでした。
実は、このスズメは、天国からの御使いだったのです。
このスズメが人々の頭上を通り過ぎれば、その人々に、神様の祝福を与えるのでした。そのスズメが、ある店に留まれば、その店は不思議なほど、繁盛するのでした。
ある時、そのスズメが、街の噂になりました。
花屋の娘が街の人々に言いました。
「お客様、お客様、知っておられますか?この街には、幸運を呼ぶスズメがいるらしいですよ」
また、時計屋のおじいさんが言いました。
「なんでもそのスズメが来ると、店が繁盛するようじゃ」
それから、靴職人のお姉さんが言いました。
「声が少し、ハスキーみたいなのよ」
それと、プログラマーのお兄さんが言いました。
「尾びれには7本の白いスジが入っているみたいですよ」
天国の小さな御使いがこの街に、やってきてから幾日か経ち、小さな街でしたが、みるみるうちに栄えてきて、大きくなってきました。まるで、小さな種が大きな木になるように。
すると、なにやら、それを聞き知った異国の強欲な人達や盗人達が、大きくなった街に、紛れ込むようになりました。
ある三日月の晩のことです。
盗人達が言いました。
「噂のスズメを知っているかい?」
別の盗人が言いました。
「ああ、知ってる。知ってる。尾びれには七本のスジが入っているらしいな」
ある強欲な人達は言いました。
「なんでも、そのスズメは鳴き声がハスキーらしいぞ」
別の盗人が言いました。
「へっへっへ。そのスズメを鳥籠に入れれば、我が家の子孫代々は、繁栄するに違いないだろう」
三日月の光が差し込むなか、とうとう盗人達や強欲な人達が、仕事をはじめたのです。
盗人達の親分が言いました。
「あの強欲な奴らには、取らせないぞ!早くしろ、早くしろ!!」
強欲な人達の親分が言いました。
「手柄は、俺達のものだ!誰にも、渡さん!!」
その頃スズメは、とある車屋さんの近くに生えている木の枝に止まっていました。星々は、いつものように輝き、街の眠りを見守っていました。
そんな中、事件は
とうとう起きてしまったのです。
スズメが木の枝で休んでいるところを、強欲な人達の親分に、網で捕まえられてしまったのです。
この街の音や色彩は
くずおれて、暗くなりました。
強欲な人達の親分は言いました。
「はっはっはっ!これで我が家は、子孫代々まで大繁栄さ!」
強欲な人達の子分が言いました。
「親分、親分。手柄を少しでも、私達に分けて下さい」
それから、強欲な親分は、スズメを鳥籠に入れ、高価な骨董品や家具などが並ばれている、強欲な親分の家に、スズメを持ち去りました。
その時、スズメは、親分に言いました。
「あなたが私を持ち帰ったのですね。良いでしょう。あなたが、しあわせになれますように。あなたに天の祝福が訪れますように」
しかし、強欲な親分は、何をスズメがしゃべっているのかは、分かりませんでした。
そして、スズメが来てから、数日経ちましたある朝のことです。その強欲な親分の奥様が、不慮な事故で、亡くなってしまいました。
強欲な親分は、泣き叫びました。
「なんでだよ…。なんで俺がこんな目に合わなければならないんだ…」
悲しみに暮れる強欲な親分に、さらに、不幸が続きました。唯一の跡取り息子までもが、突然、心臓が止まり、亡くなってしまったのです。
強欲な親分は、悲嘆に泣きながら、あることを思いました。
「あのスズメだ…。あのスズメが家に来てから、散々な目に遭った。あのスズメはきっと悪魔だ!ああ、あんなスズメなんかより、愛する妻よ、愛する息子よ、、還ってきてくれ!」
それから強欲な親分は、立ち上がり、別の部屋にいる鳥籠のなかのスズメのところまで、悲しい想いを引きずりながら、歩いていきました。
そして、そのスズメがいる部屋に到着すると、叫びながら言いました。
「こんなスズメ…、どっかに逃がしてしまえ!!」
それから、強欲な親分は、鳥籠に入ったスズメを、外に、逃がしました。
それから幾日も、幾日も、強欲な親分は、泣きながら、神様に祈り、すがり続けました。
………。
そんななか、数日経ったあと、途方に暮れる強欲な親分の家からノックをする音がしました。
「トントントン…トントン」
そして、悲しい顔をした強欲な親分は、その玄関の扉を開けました。
すると、なんていうことでしょう!
死んだはずの、愛する妻と、一人息子が玄関の前に立っていたのです。
そして、親分は涙を流し、妻と一人息子を
心ゆくまで、抱きしめました。
~おしまい~