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第2話


シュートの泊まっている安宿では、銅貨2枚を払えば食事を出してもらえる。


何はともあれ、朝食とは1日の始まりとして重要という現代知識はあったので、シュートは必ず朝食を取るようにしてる。


しなびた野菜を適当に盛った美味しくないサラダとカチカチの黒パンに具のない味の薄いスープ、いつもと変わらないご機嫌な朝食だ。



いつもと違いがあるとすれば、


「うわぁ、美味しくないねぇ、おとしゃん!」


「ん。まぁな」



何が楽しいのかニコニコしながら美味しくない美味しくないと連呼しながらもむしゃむしゃ朝食を平らげる少女が目の前にいるという事だ。


だいたい8歳くらいだろうか。どういう訳だか知らないが、10年に1度の表れる神子様は何の手違いかシュートの元へと降臨なされたらしい。



夢中になって食事を続ける少女をジッと観察する。

昨日の同僚の話では神子は15歳程度で降臨するという話だったが、どうみても10歳もいってないだろう小ささだ。所詮は庶民の噂話だからその辺は誤差みたいなもんだろう。


「なぁ、お前はなんで俺のとこに来たんだ?もっと金持ちの貴族の所に産まれればいい暮らしが出来ただろうに」


「ぅ?う~ん……」



少女は可愛らしく眉間にシワを寄せてうんうん唸っている。

その姿がなんだか可愛らしくて、周囲の安宿に泊まっている客達がだらしなくニヤついて微笑ましく眺めているのが目に入った。


考えてみれば、この少女はどこから持ってきたのか真っ白な貫頭衣のようなものを着て珍しい銀髪なもんだからとても目立つ。

どうみてもこんな薄汚い安宿にいる人間ではないので、周りも何か訳ありと察して声を掛けてはこないが少女の醸し出す愛らしさにすっかり魅了されているようだ。



「わかったぁ!!」


「うぉ、デカい声を出すな。周りに迷惑だろ」


「あぅ、ごめんしゃい。おとしゃんわかった!」


「あー、はいはい。何が分かったんだ?」


「えっとね、おとしゃんに会いたいから来たんだよ!」


余りにも可愛らしくニッコリ笑って少女が言うもんだから、シュートもつい釣られて笑ってしまった。


「ははっ、そいつは、光栄だなって言やいいのかねぇ。」



照れ隠しに頭を無造作にかきながらシュートは考える。

本来なら貴族の元へと産まれるはずの神子様が平民の、その日暮らしの人間の元へと降臨したという事実をお偉いさんは「よし」とするだろうか。


この世界の貴族の価値観や風習に精通してるわけではないが、どうにもそんな都合の良い展開になるとは考え辛い気がした。



良くて貴族に飼い殺されるか、それとも神子様を拐かした犯罪者として処刑されるか。

少なくとも元の世界のような人権に考慮した平和的な自体にはならないだろう。


「……よし。逃げるか」


「ぅ?にげる?」


「ああ。たぶんこのままここにいると色々と危ない。だから俺は逃げる。お前はどうする?」


「ぅ?」


「お前はきっと、ここに残ってお貴族様に保護してもらった方がいい。いい暮らしさせて貰えるだろうし、きっとお前のやりたいようにやらせてくれるはずだ。だからお前は……」


ふいにシュートが言葉を途切れさせたのは、少女が目に一杯の涙を溜めて今にも泣き出しそうだったからだ。


「やだやだやだっ!おとしゃん、いっしょ!いっしょなの!!」


「あ~、分かった分かった!泣くな!聞いただけだ!」


お行儀よく座っていた椅子から跳ねるように抱き着いてきた少女の頭を撫でながらシュートは溜め息を吐いた。


「あ~、今更なんだが、お前の名前はなんていうんだ?」


「なまえ?なまえ、ないよ?」


「うん?そうか。じゃ、まあ取り敢えずマリアと呼ぼう」


「まりあ?わたし、まりあ?」


「うん」


現金なもので、マリアと名付けられた少女は涙ぼろぼろ鼻水ずびずび~、な顔から一転してぱぁっと笑顔になった。


「気に入ったか?」


「うん!よし、おとしゃんはやくにげよう!」


マリアがあまりに元気に逃げようと声にしたので、食い逃げする気じゃねえだろうなと宿屋の主人にジロリと睨まれた。


シュートは慌てて財布代わりの布袋から銅貨4枚をテーブルの上に置いてそそくさと安宿を後にした。

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