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Act.5 繚乱七火撰とナックルオンスロート

 鷹を象った火に誘導されたのは郊外にある林の中にそびえる廃屋だった。火の鷹は蒼華の腕に止まる。


「あそこね。ありがとう、カザシ。良い子」


 火の鷹カザシが腕から飛び立つ。その姿は夜空に散った。もう能力を維持できないんだ。蒼華の気持ちがはやる。木を飛び交い、建物の側まで近寄った。


 様子を窺っていたところ、正面玄関の片方が外れかけた門扉から灯りが漏れていた。揺らいでいるのは焚き火だからだろうか。仮にも逃亡犯が廃屋で火を灯しているというのはあまりに不用意だと思い、いぶかしむ。


 別に覗ける位置がないか蒼華は探る。焦燥が彼女を駆り立てる。


 他の窓は軒並み板を打たれている。隙間から光が漏れている様子はない。仕方なく正面に戻り、扉の影に蒼華は立つ。


 気配を察知して待避。直後、内部から投げられた石で戸口にしっかり収まっていた方の扉が吹き飛んだ。そのまま背後にいたら蒼華に直撃していた。


 不思議なんだよな、と中から声がする。


「最初の下見のとき、みんな何故か律儀に正面玄関から来るんだよ。俺の経験上な。んで他に室内の様子を探れないとわかると玄関(ここ)に仕方なく戻ってくる」


 ローブをまとったブライアンが外れかけのドアを蹴飛ばした。ぐらついていた戸は蝶番が柱から離れて倒れた。


「で、ドアの後ろに隠れるときは外れかかってる方じゃなく、比較的まともな戸の後ろ。ま、いきなり外れて落ちてきたらこえーもんな」

「落ちてくるのがドアだけとは限らない」


 その言葉を合図に入り口の天井が壊れる。天井に潜んでいたもう一人の蒼華が瓦礫の崩落と共に落ちてくる。虚を突き、ブライアンの脳天めがけてかかと落としが叩き込まれた。


 不意打ちをまともに食らいよろめくブライアンに追い打ちをかける玄関で待ち構えていた蒼華。隠し持っていた煙玉を地面に叩き付ける。煙の中から蒼華が飛び出す。


アルターポーテンス、繚乱七火撰


「火熊!」


 ブライアンの顔面を完璧に捕らえた拳を振り抜く。ぐぉ、とブライアンが短く呻く。ドアの残骸を散らして巨体は屋内に消えた。「熱ィ!」という絶叫は建物の外にも聞こえた。


 蒼華が踏み込む。焚き火の三方を有り合わせのもので囲い、かまどのようにしていたらしい。缶詰やレトルト食品のゴミが散乱している。


 ブライアンはローブに着いた火を消すべくのたうち回っている。


「飯の途中だったのが災いした、くそッ」


蒼華の急接近に慌てたブライアンは布地を剥ぎ取り捨てた。「そら待ってくれねえよな」。その先で木材に燃え移る。


「出し惜しみしてられねえな。お前、強いもん」


 ジャケットには左の袖がない。蛍光ピンクの回路が腕を覆っているのが見てとれる。ブライアンが高らかに笑う。気分の高揚に呼応するように回路は強く光った。


「ぶちまけろ!」


アルターポーテンス、業腕壊力(ナックルオンスロート)


 蒼華は無我夢中で避けた。

 突き出されたブライアンの左腕から衝撃波が放たれた。空気が震え、建物は恐れおののくように小刻みに揺れている。余波で飛び散ったコンクリート片すら散弾銃のように蒼華の体を打った。


 蒼華は体を九の字に曲げてその場に崩れ落ちる。


 穿たれた壁からはねじ切れた鉄筋が無惨に露出している。直撃したら助からない。人の形が残るとも思えなかった。蒼華は、震えた。兄の仇はあまりに強大すぎた。


「俺の能力はもうバレてるよな。物をぶっ壊すと破壊のエネルギーを腕に溜め、殴打と共に叩き込む」


 ブライアンが歩み寄る。瓦礫を踏み砕き、無造作に置かれた木材をへし折る。「もったいねえ」と食べ掛けの缶詰から半ば溢れた鯖を拾い上げて咀嚼する。その度に露出した左腕に宿った光は強くなっていく。


「『破壊』とは俺が認識した形を壊すことと定義される」


 炎に負けじとブライアンの左腕は輝いている。


「待ったなしな」


 ブライアンが左腕を振り上げた。


「ぶちまけろ!」


 死を覚悟して蒼華が眼を瞑る。ブライアンの「うぉっ」という言葉がして、何が起きたかと思って眼を開いた。ブライアンの体が横たわるような不自然な体勢で宙に浮いている。


「水平方向に落下する経験は初めて?」


 四角い月を伴い、佐々木が大穴を抜けて廃屋に踏み込んだ。

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