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さくらの花嫁  作者: あた
本編
23/32

お弁当を届けます。

「ふあ……」

 翌朝、玉葉はあくびを押し殺しながら歩いていた。昨夜、遅くまで献立を考えていたせいで眠い。厨房に向かうと、飛雄がいた。包丁を研いでいる。

「あれ……料理長、どうされたんですか、休みなのに」

 彼は顔を上げ、甘く微笑んだ。


「君こそどうしたんだい、玉葉。僕に会いに来たのかい」

「いや、料理長がいるとか知りませんでしたし」

「照れなくていいんだよ。他の小鹿ちゃんたちはいないし、思う存分甘えてごらん」


 一向に「なぜここにいるのか」の答えが返ってこない。こんな風にのらりくらりとかわすということは、たぶん言いたくないのだ。玉葉は肩をすくめ、食材庫に向かう。


「えーと、たけのこ、たまご、じゅんさい……」

 食材を籠に入れていると、飛雄が後ろに立った気配がした。

「玉葉、一ついいかな」

 どうせまた寒い言動を繰り出すのだろうと思い、振り返らずに言う。


「なんですか? あ、花見団子も作ろうかな」

 籠からたけのこを取り出して眺めながら、飛雄が問う。

「君は陛下のこと、どう思ってるの?」

「はい?」


 振り向くと、亜麻色の瞳がこちらをじっと見ていた。からかっている風ではない。

「君は絶対に僕を好きになるという確信はあるけど、心配でね。で、どうなんだい?」

「その確信、絶対はずれます。……陛下は、放っておけない人、だと思います」


 あんなのにきれいなのに、なんだか寂しそうで。

「そう……妬けるな」

「は?」

「僕もこう見えて中々の寂しがりやなんだけれど」

「何が言いたいのかよくわからないんですけど」


 玉葉はたけのこを取り返し、さっさと厨房に戻る。勝手口に手をかけた飛雄がため息交じりに、

「玉葉は僕に冷たいな。上司だし尊敬すべき先輩だというのに」


「星料理長の言うことを間に受けてたら、厨房は女の子たちの争いで修羅場ですよ」

「そうだね。小鹿ちゃんたちはみんな魅力的だけど、いつかは一番を決めなくてはならない。それはもちろん君だよ、玉葉」

「料理長、お暇なら、たけのこ煮てください」


 暇なら使おう、料理に関しては信頼のおける人だし。玉葉は内心そんなことを思う。星料理長はたけのこの皮を剥きながら、

「今日、僕に会えてよかっただろう? 示し合わさずともかち合うとは、きっと運命だね」


「ああはい、(便利で)よかったです。それ終わったら飾り切りお願いできますか?」

「まったく仕方ないな。このこと、他の子には内緒だよ。嫉妬されてしまうからね」

 別にされないと思う。


 飛雄は人参や大根を花の形に切り、煮る。素早く、見た目も美しい。たけのこの煮物も上品な味付けでいくらでも食べられる。さすがだ。とは、調子にのるから言わないでおこう。

「星料理長、味見お願いします」

 小皿を差し出すと、ふう、とため息をつく。

「玉葉、駄目だよ」

 

「あ、す、すいません」

 さすがに甘えすぎたか。そう思って皿を引こうとすると、飛雄は玉葉の手ごと皿を掴んだ。恋人にするかのように、甘い声で囁く。

「もっと可愛く、「料理長大好き。お願い、味見して」って言ってごらん」

「あ、やっぱり結構です」


 これさえなければ尊敬できるのに。そんなこんなで全ての食材を作り終え、桜の形の弁当箱に詰める。


 完成した弁当を見て、飛雄は目を緩める。

「可愛らしいね」

「桜の花っていいですよね、形もかわいくて」

「それで、この可愛らしいお弁当箱を持って、僕の玉葉は誰とお花見するのかな?」

「白姫さまと蛍雪さんです。あと私は料理長のものじゃないです」


 せっせと包んでいると、星が四角い弁当箱に目を向ける。

「ん? これは?」

「それは陛下に」

「おや、お弁当を作るなんて、まるで本当のお嫁さんだね」


 玉葉は思わず弁当箱の蓋を落とした。じわ、と赤くなったのをごまかすべく、慌てて言う。

「わ、私はうどんですから!」

「……いつから麺類になったんだい、玉葉」

 本当に君は珍味だね。星がつぶやく。


「こ、これ陛下に渡してきます」

「すぐ帰ってくるんだよ、食べられないように」

 たけのこをつまみながら、星が言った。

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