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第3話 敵の状況

 夜が明け、朝日が山の頂を照らしているのを見上げる。

 目指すところは、山の中腹。この小川の源だ。


 子どもはまだ眠そうであったが、早起きにも慣れているのであろう、レイのローブをしっかりと握って起きあがっている。

 レイは子どもの顔を濡らしたタオルで丁寧に拭き、もじゃもじゃの赤毛を丁寧に撫でつけてやっていた。

 日が照らしている場所での煙は目立つので、朝食は冷たいパンを冷たい水で流し込むだけだ。

 それでも大事そうに、ゆっくりと頬張っている子どもの様がひどくいじらしい。

 ついついアルトも子どもの頭をなでてやると、子どもはアルトを仰ぎ見て、こぼれそうな笑顔をみせた。


 「さて、これからどうする?」

 考えるのはレイの役目とばかりに、アルトがレイを見下ろす。

 レイは目を細めて山を見やると、続いてごそごそと鞄を漁り出す。

 「なぁ、帰還玉、てめぇは持ってきてるか?」

 帰還玉は、手のひらサイズのボールで、地面に投げつけると魔法陣が現れる仕組みになっている。

 魔法陣が輝いているのはわずかな間だが、その間に魔法陣に乗ったものは、あらかじめ魔法陣に記憶させていた場所や人物のそばに帰り着くことが出来るのだ。

 使用が一度きりという使いきりのアイテムではあるが、冒険の必需品と言えた。

 「ん? あぁ、予備が一個だけならある。お前は?」

 「補充してこなかったんだよ。この間使ったばかりだからな。一つもねぇ。……ガキの人数にもよるんだけどさ。帰還玉はガキどもに使わせるぞ。魔法陣が消えるまでの間、俺たちはそこを死守だ」

 魔法陣はあくまでもシステマチックなものなので、そこに乗ったものであれば、人であれ魔獣であれ、何でも転移させる。

 そこに利用者の意志は働かない。

 だからこそ安く手に入れることが出来るのだが、如何せん、融通が利かない。

 万一、何らかの魔獣が子ども達を追って魔法陣に入るようなことになれば、転移先の街は阿鼻叫喚である。

 冒険者ギルドにつながっているから、そうそう後れをとるようなことはないだろうが、それでもギルドの混乱は必至だ。

 結果的に、うまく事が収まったとしても、レイ達がギルドから出入り禁止を食らう可能性はかなり高い。


 「守るのは判った。だけどな、死守はダメだ。今回、司祭レオンがいないんだ。取り返しがつかないんだぞ」

 「判ってるさ。相手がどうでるか、どういう奴かで、詳細はケースバイケースってことで」

 レイはまだガサゴソと鞄を探り、三本の巻物と、二つの煙玉を出してくる。

 「煙玉は麻痺パラライズが二個ある。相手が神経系に弱ければ、ずいぶんと簡単になるはずだ。巻物は、爆発二つにぬかるみが一つ。どっちも広範囲に効いちまうから、扱いが難しいんだよな。えぇと、最後はポーション二本か。レオンの奇跡に比べれば、気休め程度だが、ガキしかさらってこれない相手にはちょうどいいかもな」

 最後の薬瓶を二本を地面に置いて、満足そうにふんぞり返る。

 綺麗に店開きされた魔法具マジックアイテムが珍しいのだろう、赤毛の子どもは、レイの腕の下から目立つ頭をひょっこりとつきだし、興味津々で眺めていた。

 ずっと怯えた顔をしていたこの子の、子どもらしい表情を初めて見た気がする。

 レイもアルトも、お互い気づかないまま、似たようなふうに頬をゆるめて、魔法具を凝視している子どもをしばし眺めていた。

 「作戦名は臨機応変、だ」

 「それは作戦名なのか? それとも行動方針なのか?」

 「両方を兼ねている」

 レイはまたもやふんぞり返って、アルトを睨みつけた。

 「敵が何なのか、数はどれくらいなのか、どういう攻撃で出てくるのか、全くわからねぇからな。

 ただ、推測は出来る。数は少ない。ついでに言えば、大して力も持っていない。そして種族は俺たちのお仲間、人間で、男だ」

 「は? ……それって、殆ど判ってるってことじゃないのか?」

 「判ってるわけじゃねぇ。予測って奴だな。

 子どもをさらいやすい、もしくは奴隷市場で購入しやすいのは、人間だ。ほかの種族がやったら、目立ちすぎてすぐにお縄だ。

 数が少なくて弱いのは……。ガキどもをさらってくる辺り、大人を隷属させられるだけの人数も力もない証拠だろう」

 「なるほどなぁ……、で、男ってのは?」

 感心しながら聞き返すと、レイは奇妙な表情をした。

 哀れんでいるような、半分笑っているような。

 「……レイ?」

 その表情が面白くなくて少し声を荒げると、レイの小脇にいた子どもの方が、あからさまに肩をびくっと揺らして、レイの背後に隠れた。

 「理由はこれだ。この子はお前を怖がりすぎる。軽装備の若い男で、粗野で筋肉質のバカ。それがこの子達の見張り役に最低一人はいるだろうな」

 レイは子どもをなだめるように抱きしめ、背中をさすってやる。

 「いくら耳が聞こえないって言っても、気配は分かる。成人男子の威嚇ってのは、子どもにとっては恐怖にしかならねぇんだよ」

 筋肉質のバカってのはひどすぎるんじゃないか、とつっこみたい気持ちもあったが、そこは我慢した。

 いたいけな子どもに怯えられるのは、レイの悪口雑言よりももっと身に染みたのだ。

 「あぁ……悪い」

 怯えているところに近づくわけにも行かず、アルトは気まずくなって、三歩離れたところから子どもに向かって頭を下げた。

 「ってわけで、臨機応変、だ。おおざっぱな作戦は決めといた方がいいと思うが、詳細は各自判断に任せるってことで」

 にやにやと笑っているレイにいつも通りのげんこつをお見舞いすることも出来ず、アルトは二人から離れ、一人むなしくキャンプ用品をしまうのであった。


 子どもを真ん中に挟み、先頭にアルト、殿をレイが務めて、一行は山の中腹にある開けた場所に向かう。

 子どもは当初、落ち着かないように視線をうろつかせていたが、大人の二人が山へ向かおうとすると、特に抵抗することもなくおとなしく歩き始めてくれた。

 「つれてって、大丈夫か? パニックになったりしないか?」

 アルトは心配そうに振り返りつつ、そんなことを言う。

 だが、レイは心配していなかった。

 この子どもはとても理知的な目をしている。レイ達に合流してから、いやがるそぶりを見せたことがない。

 その大きな緑色の目は、レイとアルトをじっと観察し、二人の大人が何をしようとしているのか、敵なのか味方なのか、賢明に判断しようとしているように見えた。


 しばらく歩くと、徐々に木が疎らになってくる。

 置いて行かれまいと賢明に足を動かしていた子どもは、景色の変化に連動するように、落ち着きなく盛んに回りを警戒するそぶりを見せる。

 敵は近いらしい。

 アルトとレイは目を合わせて、頷きあった。

 アルトは身を低くすると、二人を置いて、疎らな木の間を突き進む。

 茂みの隙間をうまく縫うように進むから、木々が揺れる事もない。

 声が聞こえることはないと判りつつも、レイは子どもの頭を撫でて言った。

 「大丈夫だ。心配ない」

 子どもはまっすぐにレイを見上げ、こっくりと頷いた。

 その様子に、レイの方が何故だか、励まされているような気分になった。


 いつもだったら着込んでいるフルプレートはここにはない。

 防御的には心許ない限りであったが、こういう隠密活動には適している。

 日の光で光りそうな赤みの強い金髪は、草色のフードを被って隠してある。

 アルトは身を潜めて、茂みを渡り歩いていた。

 少し進んだところで、木立が切れる。

 うっかり日向に踏み込まないよう、用心して木陰からのぞき込み、絶句した。

 明らかに人為的に木を伐採された広場には、隣の葉っぱにふれそうなほどの密度で、マンドラゴラ達が栽培されていた。


 マンドラゴラの栽培は認められていないわけではない。

 非常に難しい上、栽培するための環境が限られている上、栽培ものの薬効は天然物の十分の一程度と言われ、とにかく割に合わないのだ。

 しかし、それでも栽培するとすれば、必ず政府の認可が必要になり、一定の頻度での立ち入り検査も受ける必要がある。

 にも関わらずこんなところで秘密裏に栽培されているということは、それ相応の理由がある、ということで。

 その理由は勿論、アルトには皆目見当がつかないが、悪い理由だろうと言うことは何となく想像がつく。

 改めて見渡すと、一体一体逃げないようになのか、一番太い葉の根本には赤い糸がくくりつけられ、その糸は畑一列分のマンドラゴラ全部につながっていた。

 両端のマンドラゴラから延びる糸は、畑の端にある杭につながっている。

 杭には白い紙が巻き付けられ、何やらかかれていたが、魔術師ならぬアルトにはその意味はわからない。

 せいぜい、何かの魔法なんだろうな、と思うのみだ。


 伐採した木で作ったのだろう。

 丸太を組んだだけのあばら屋が、畑を挟んだ向こう側に見える。

 そのドアの両脇には、革鎧を身にまとった二十歳そこそこの青年が二人、暇そうに地面に座り込んで、サイコロを振り合っていた。

 賭事でもしているのだろう。

 当然、アルトの方に気づいた素振りは見せない。

 当然か。

 あいつらは外から来る何かに警戒しているわけではなく、中から出てくることがないよう、見張っているのだ。

 畑を大きく迂回し、あばら屋の後ろから回り込もうとし、木立の中にもう一つ、粗末な建物があることに気づいた。

 男達が見張っている小屋よりも数倍大きい。

 建物の入り口には、両開きの扉があり、そこにはさすがのアルトでもそれと判る魔法陣が描かれていた。

 迂闊に近づくことは出来ないだろう。

 不安はあったが、建物はいまは置いておくとして、先にあばら屋の後ろに忍び寄った。

 雑に組まれた木の間から中をのぞき見ると、十から五歳程度の子ども達ばかりが七人ほど、部屋の片隅に集まり膝を抱えて座り込んでいる。

 ここにいる子ども達は全員、喉と耳を潰されていると思っていいだろう。

 アルトは憤りを胸に、小屋の入り口に陣取っている男達に近づく。

 男達の緊張感のない声が聞こえてきた。


 「お、また俺の勝ちだ。悪いな、儲けさせてもらってよ。山を下りるのが楽しみだぜ」

 「なぁ、それよりもさ、逃げた奴、探さなくていいのかよ。一人欠けてたら、怒られねぇか?」

 子どもの心配というよりも、勝っている男の気を賭事からそらすつもりなのだろう、負けている男はやや強引に話題の転換をはかる。

 「あんなガキ一人、山から一人で降りれるはず、ねぇだろ。どっかで野垂れ死んでるさ」

 「じゃぁ、やっぱり一人足りないって、俺たちの責任になるぜ?」

 「バカだな。頭を使えよ。ガキなんて消耗品なんだ。弱って死んじまいました、草どもの肥料になりました、って言えば、大丈夫さ」

 あっけらかん、と勝っている男が言う。そこには何の躊躇いもない。


 アルトはぎりっと剣の柄を握りしめた。

 鞘の中で、剣がカチッと鳴る。

 しまった、と思った時には遅かった。

 明らかに硬質な音が響いて、「何の音だ?」と男二人が辺りを警戒する。

 アルトはとっさに木々の中に視線をやり、被っていたフードをはがす。

 人質をとられたら、終わりだ。

 「ここだ!」

 堂々と叫んで出てきたアルトに、男達二人は驚いて、腰元のショートソードを鞘から抜く。

 左手にバックラー、右手にバスタードソードを構えたアルトは、二人の中途半端な位置を視野に入れると、大きく剣を振りかぶり、振り下ろす途中で右になぐ。

 「危ねぇ! 何だ、こいつ!」

 男達が畑に向かって数歩下がる。

 その隙に、アルトはあばら屋と男達の間に滑り込み、ドアを背負って立った。

 「貴様、何者だ! どうしてここに!」

 負けていた男の方が、切っ先をアルトに向けてくる。

 「俺か? 俺は…………正義の味方! ……の付き人だ」

 「何だ、そりゃ?」

 力が抜けたのか、切っ先が少し下がる。

 勝っていた男の方が少しは出来るようだ。油断なくアルトに切っ先を向けたまま、アルトの後ろにほかにも潜んでいるものがないか、探る視線を向けている。

 しかし、当然アルトの後ろには誰もいない。気配もない。

 男はにやっと笑った。

 「一人で何が出来るってんだ? 正義の使者殿? 大方、ガキに助けを求められて、何となくここまできたってだけなんだろう?

 正義感もいいが、それは貴様の命と天秤にかけるほどのものなのか?」

 「何だ、一人なのかよ。脅かしやがって……。あぁ、さっきの音もあれか? 怖くて震えてって奴か?」

 冷たい剣先は、気分次第で下がったり上がったり忙しい。

 二人の力量は大したことはない。

 賭に強い男の方がやや強めだが、日頃魔獣を相手に命のやりとりをしているアルトにとっては、どうってことのない程度だ。

 しかし、扉の前から一歩でも離れれば、アルトにとっては負けだ。

 今は耐えるしかない。


 「正義の使者ってのはいい響きだな。来いよ、使者の力、測ってみろよ、屑ども」

 わかりやすく挑発すると、わかりやすく乗ってくる。

 一人の剣を自分の剣で受け止め、がら空きになった脇を狙おうと近づいてきた一人を蹴り飛ばす。

 それからは正に乱戦だった。

 できるだけタイミングをずらして、一人ずつを相手にするように心がける。

 当初、不意を突かれた男たちの連携はバラバラで、ある程度の余裕を持って対応出来ていたのだが、それも男たちが冷静を取り戻すまでだった。

 男たちは、アルトが扉の前から離れられないと知ると、剣が届かない位置から砂を使った目潰しや、スリングでの投石攻撃に切り替えてくる。

 うっかり片目に砂が入ったところで、潰された視界の側からショートソードが突っ込んでくる。

 「くそっ!」

 右側死角からの攻撃に、何とか体を捻って交わしたものの、右手のバスタードソードは敵が近すぎて振るえない。

 左視界端では、残った一人が勝ち誇った顔で剣を振りかぶっていた。

 バックラーを構えて、来るべき衝撃に備えようと……。


 「アルト! 下がれ!」

 細く鋭い声が響く。

 下がれと言っても、後ろはドアだ。

 不意にドアが開き、小さな手がアルトを後ろに引き込む。

 その瞬間、アルトがいた場所に、煙玉が炸裂した。

 もうもうと立ちこめる煙だが、すかさずドアが閉められ、アルトは間一髪のところで、煙を吸わずにすむ。

 ドアの向こうでは、咳込む声が三度ほど聞こえたが、その後、重いものが落ちる音が二度して、静かになった。


 アルトは呆然としていたが、いくつかの小さい手がアルトの肩や手を叩いたので、瞬きを繰り返してから辺りを見回した。

 暗いところに入ったばかりで、目がなじむまで少しかかったが、先ほどあばら屋の中にみた子ども達がアルトを取り囲んでいた。

 中には涙ぐんでいる子もいる。

 どの子も汚れて、痩せていて、疲れ切っているように見えたが、それでも期待に瞳を輝かせ目の前の戦士をみている。

 一番近くにいて、恐らく、アルトの為にドアを開けて引っ張り込んでくれた年かさの子が、ぺこり、と頭を下げた。

 それと同時に、レイがドアを開けて中をのぞき込んでくる。

 アルトは尻餅をついたまま、後光を背負っているレイを眩しく見上げた。

 「……お前の言うとおりだったよ」

 ここには七人もいたのだ。

 アルトは、泣いている子の頭をそっと抱き寄せ、レイに手を伸ばす。

 「お手をどうぞ、お姫様」

 レイもニヤッと笑って、その手を引っ張った。

 「助かったよ、正義の味方が来てくれて」

 「何バカなこと言ってんだよ。この子たちのヒーローはお前だよ、アルト。格好よかったぜ」

 確かに、目の前で戦っていたのはアルトだ。

 だが、アルトは確かに一度、この子たちを見捨てたのだ。

 居心地の悪さを感じて、それを誤魔化すようにドアの外にでる。

 麻痺の煙玉を吸って、男たちは二人とも痙攣し、泡を吹きながら倒れていた。

 目は怯えるように、レイとアルトを見ている。

 アルトはそれにかまわず、レイに木立の中に見え隠れする建物を指さしてみせる。

 「あれ、何だと思う?」

 レイは遠目に眺めていたが、首を振った。

 「わからねぇな。魔法陣か? あれ?」

 「あぁ、扉にデカデカと書かれていた。見なかったか?」

 「俺たちは反対側から回ってきたからな、あれには気づかなかった。ま、ガキども助けられれば、後は官憲に任せられるし。こいつらは縛って小屋に閉じこめておこうぜ」

 レイは持ってきたロープで手早く男二人を縛ると、浮遊の呪文を唱えて、あばら屋に放り込む。

 子ども達は体を寄せ合ってそれを眺めていたが、男たちが視界から消えると、ようやくほっと息をついて、緊張を解いたように見えた。


 「今回の俺の出番はこれだけってことか」

 粗末なドアにロックの呪文をかけた後、レイは手をパンパンと叩いて、苦笑した。

 いきなり戦闘が始まったのが何故だったのか、アルトが何をやらかしたのか、レイからは判らなかったが、とにかく突然始まった剣劇にレイは生きた心地がしなかった。

 一緒にいる子供とはぐれないように移動するのももどかしく、足早にアルトの元へ急ぐ。

 アルトがドアを守るため、歪な戦い方をしているのは判っていた。

 あの中に子ども達がいるだろうことも。

 助かったのは、間に合ったのは、本当に間一髪のことであった。

 アルトに近づく刃を目にして、レイは、アルトを巻き込んでもいいと思い、煙玉を使ったのだ。

 最悪、三人共に倒れたところで、アルトが無事であれば、それでいい、と。

 何でこんなことになったのだろう、と頭の中は後悔ばかりだった。

 レイが無茶を言わなければ、こんな目には遭っていなかったのに。

 煙が晴れ、ドアを開けた瞬間、アルトの無事な姿を見て、レイは胸が痛くなった。

 子供たちに囲まれて、子供たちを背にかばうようにして、座り込んだアルトは、日の光を浴びて眩しそうに、柔らかく微笑んだ。

 「……お前の言うとおりだったよ」と。

 出そうになった涙を誤魔化し、わざとらしく笑ってみせるしかなかった。

 「何か俺って、本当にお荷物だ……」

 マンドラゴラ畑の端に寄っているアルトの背中をそっと伺う。

 多分、アルトは、レイがいなくても何とかしていただろう。そして、決してレイに助けを求めなかっただろう。

 今回のように。いつも通り。

 決断すべき時だった。

 どれだけ一緒にいたくても、一方的な関係はよいことではない。いずれ、破綻する。それが冒険中であったら、誰かが死ぬことになるかもしれない。

 これで見納めになるかもしれない。

 レイは痛む胸を押さえながら、アルトがマンドラゴラ畑に体を屈めているのを眺めていた。


 ……ん?

 レイは感傷を振り切って、まじまじとアルトを見やる。

 あいつは何をやっているのか?

 アルトは、持っていたハンカチを頭が見えているマンドラゴラの口につっこみ、金切り声を塞いだことに満足したのだろう、一気に引き抜いた。

 「ば、バカやろう!」

 レイが叫ぶのと、マンドラゴラの頭部に結わえられていた赤い糸が切れたのは同時だった。

 糸が切れた瞬間、離れた場所にあった建物の魔法陣も赤く禍々しく輝き出す。

 アルトは蒼白になり、立ち尽くす。

 両開きの扉は、ゆっくりと開かれていき、そこから白い煙が漏れてくる。

 子ども達の怯え様は尋常ではなく、レイはすぐに彼らに走り寄り、帰還玉を用意する。

 「ごめん……」

 片手にマンドラゴラを持ったままのアルトが、泣き笑いのような顔をして、謝ってくる。

 開ききった扉からは、長身のアルトが見上げるほどの大きさのゴーレムが、ゆっくりとその姿を現したのであった。 

あれ、三話で終わらない?

おかしいな。この計算だと、えぇと、五話?

スミマセン、もう少しお付き合いください。


20161123 誤字を訂正いたしました。

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