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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第六神
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幾つかの疑問

 長く暗い廊下を抜けると、僕達は大きな客間に通された。


「さぁ、どうぞ座って下さい」


 灰村に進められるままに、僕達は椅子に座る。灰村は机を挟んで向かいに座った。


「さて……何からお話すればいいのやら」


「……灰村さん。まずは、アナタがどこまで知っているのか。私はそれを確認したい」


 と、開口一番番田さんがそう言った。灰村は少し驚いた顔をしたが、すぐにいつもの不敵な笑みを浮かべる。


「ああ。そこですか。そうですねぇ……簡単に言えば、大体知っています」


「大体……つまり、八十神語りが行なわれるとどうなるか、ということまで知っているということですか?」


「ええ。これから白神さんに選ばれた存在がどうなるかも知っていますよ」


 灰村がそう答えると、番田さんは少し間をおいた。


 僕もケイさんもその様子を固唾を呑んで見守る。


「……それはつまり、八十神語りが生贄を捧げるための儀式ということも知っていた、ということですか?」


 番田さんはついに一番の本質を訊ねた。


 灰村の顔からそれまでの笑顔が消え、急に真面目な顔になる。


 しばらく灰村は黙ったままだったが……小さく息を吐き、番田さんを見た。


「なるほど。そこまでたどり着いていましたか。さすがですね」


「なっ……それじゃあ……」


「ええ。八十神語りは遊びや豊作を祈る儀礼ではない。白神さんに生贄を捧げる儀式です」


 灰村は驚くほど素直にそれを認めた。最初からこのことを僕達に伝えることを覚悟していたかのように。


「……いいんですか。それを認めても」


「ええ。その方がこれから話すことの理解も早いと思いますから」


「これから話す……こと?」


 番田さんが怪訝そうに聞き返すと、灰村は小さく頷く。


「八十神語りの七番目の話です。私は全ての八十神語りの話を知っていますから、貴方達にその内容をお話しようと思いましてね」


「え……全て、ですか?」


「はい。今では黒田家の者でさえ忘れてしまった八十神語りの全貌……だけど、村長の一族である灰村家はそれを把握しておく必要があった。いつまた白神さんが復活してもいいように」


 そういって、灰村は僕、そして、ケイさんを見る。その目はやはりどこか人を見定めるような……不快な視線だった。


「……って、復活させたの、アンタじゃん」


 と、ケイさんが悪態を着くようにそう言った。


「ええ。知っているから、復活させることに問題はないと考えたのです。どうです、番田先生。七番目の話。知りたくないですか?」


 しかし、いつもの調子なら絶対にその話に飛びつきそうな番田さんは渋い顔のままでうなずかなかった。


「せんせー。どうしたの?」


 ケイさんがそう呼びかけると、番田さんは我に返る。


「……いや。灰村さん。それは……黒須君がいる前でしていい話なのか?」


 と、番田さんは深刻そうな顔でそういった。


「はい? なぜです?」


「黒須君は今まで白神さん……いや、白神琥珀から八十神語りの話を聞いてきた。しかし、ここにきてさすがに勝手に黒須君に次の話をするのは、まずいと思う」


 番田さんのいうことも……最もだった。八十神語りの順番を勝手にこちらがやってしまえば、またしてもケイさんのように呪いを受ける可能性だってある。


 すると、灰村もさすがにそのことに気付いたのか、少し悩んでから番田さんを見る。


「……わかりました。では、白神さんに選ばれたガキは、ここで待っていて下さい。番田先生とそのオマケにだけ話します」


「お、オマケ……ああ。いいわよ。別に興味ないし」


 ケイさんはさすがに苛ついたのか、灰村にそう言って返した。


「……そうですか。では、番田先生、こちらへ」


 灰村にそう促され、番田さんは立ち上がる。


「……すまない、二人共」


「あ、別に気にしないでください」


「そうそう。さっさと聞いてきてよ」


 僕達2人がそう言うと、番田さんは灰村と連れ立って客間を出て行った。


「……大丈夫かな? 番田さん」


「まぁ、ね。しかし……どうにもおかしな話だよね」


「え? なんで?」


 僕がそう言うとケイさんはキョトンとした。


「だって、八十神語りは今まで黒田家がやってきたんでしょ。どうして、アンタの知り合いはその全貌を知らなかったのよ?」


「え……あ、ああ。確かに」


「それに……もう一つ気になる」


 そういって、なぜかケイさんはぐいっと僕の方に顔を近づけてきた。


「け、ケイさん? 近いんですけど……」


「……どうして、アンタの家族は八十神語りを知っていたの?」


「……へ? な、何?」


 いきなり言われたので、僕は理解できなかった。


 すると、困ったようにケイさんは今一度繰り返す。


「だから……どう考えても村の機密中の機密だった儀式の内容を、アンタのお婆さんとやらは知っていたのか、って聞いているの」

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