末裔
「さぁ。ここが私の家です」
思わず僕、ケイさん、そして、番田さんは言葉を失ってしまった。
今まで北地区に存在していたのか、と思えるほどに巨大な屋敷……その屋敷こそ自分の家だと灰村は言ったのである。
「どうぞ、付いてきて下さい」
灰村はそう言って家の中に入っていった。
僕とケイさんは思わず番田さんを見る。番田さんも少し戸惑っていたようだったが、そのまま家の中に入っていった。
「……よし。行こう」
ケイさんも決意を決めたようで、そのまま屋敷の中に入っていった。僕もその後に続く。
実際、屋敷の中は北地区とは思えないほど、美しい庭が広がっていた。
手入れの行き届いた感じからして、灰村は本当にここに住んでいるらしい。
「……他の人は、いないのか?」
番田さんがそう訊くと、灰村は庭を眺めながら回答する。
「いますよ。出てこないだけです。今もアナタ達を見ています」
不吉なことをさらっという灰村。
確かにどこからともなく、何者かの視線を感じる……しかし、周りを見渡してみても、誰かの存在を確認することはできなかった。
「さぁ、どうぞ、家の中へ」
いつの間にか玄関までやってきていた。
僕達3人は言われるままに扉が開かれた玄関の中に入った。
屋敷の中は……薄暗かった。どこまで続くかわからない廊下が奥のほうにつづいている。
「おかえりなさいませ。お嬢様」
と、どこからか低い声が聞こえてきた。
見ると、玄関先には年配の小さな老人が立っていた。
「ああ。爺や。連れてきた。人数分のお茶」
「……かしこまりました」
灰村がそう言うと、老人は家の奥の方に入っていった。
「ウチの使用人です。お爺ちゃんの代から使えてて……そろそろ90歳くらいですかね」
「……なるほど。確かに、アナタは白神村の村長の一族の末裔のようですね」
番田さんがそう言うと、灰村は少し不機嫌そうに番田さんを見る。
「酷いですね。疑っていたんですか?」
「いえ……それはいいとして、さっそくお話、聞かせていただきたいのですが」
番田さんがそう言うと灰村はようやく思い出したようで、ポンと手を叩いた。
「そうでしたね。では、行きましょう」
灰村はそう言って、廊下の奥へ進んでいく。番田さんもその後に続く。
「僕達も行こう……ケイさん?」
と、ケイさんの方を見ると、ものすごく不機嫌そうな顔で辺りを見回していた。
「どうしたの?」
「……この屋敷……ヤバイよ。マジで」
「え……ヤバイって?」
すると、ケイさんは小さくため息をついてから僕の方を見る。
「……あの女を見ればわかるけど……この村長の一族、あんまり性格が良い一族じゃなかったんだってこと」
「え……それって……」
「とにかく、行こ。さっさと話終わらせて、こんな場所、おさらばしたいし」
そういってケイさんも廊下の奥へ向かっていく。僕もそれに続いて薄暗い廊下の奥へと進んでいったのだった。




