真意
それから北地区を暫く歩く。相変わらず何か異様な気配を感じる。
「黒須君。ダイジョブ?」
と、ケイさんが話しかけてきてくれた。僕は小さく頷く。
「うん……どうやら、旧白神神社とは別の方向みたいだね」
「ありがたいことにね。あそこには……私でも、あんまり近づきたくないからね」
ケイさんは苦々しい顔でそう言う。
白神さんの呪いを退けたケイさんでさえも入りたくない場所……今の旧白神神社がどういう存在かは理解できた。
「あなた方は、どこまで知っているんです? 白神村について」
ふと、灰村が誰に向けてでも無く話しかけてきた。僕達は思わず番田さんのことを見てしまう。
「……どこまで……八十神語りという儀式があった地域、という認識しかありませんが」
「あはは。そうですか。私は……ちょっと違います。八十神語りにしか頼れなかった地域、という認識ですね」
灰村はそう言って足を止め、周りを見回してみた。
「……南側だって、そこまで繁栄しているわけでもない。でも……白神村は本当に何もない場所だった。お爺ちゃんは言っていました。何もない場所だったからこそ、八十神語りを行うことができたんだ、と」
「……アナタは、八十神語りがどういうものか知っているですよね」
「ええ。しかも、アナタ達異以上に。それでも、そんな奇怪な儀式に頼らなければならなかった……お爺ちゃんや、私の祖先がどれだけ苦労したのか、なんとなく分かりますね」
「ですが……アナタは、そんな八十神語りを自身の興味だけで復活させ、何の罪もない少年少女を巻き込んだ……分かっているんですか?」
番田さんの口調はいつもよりも少しキツ目だった。しかし、灰村は分かっているのかいないのか、曖昧な笑顔で番田さんを見る。
「……さぁ、私の家まで後少しです。そこで、八十神語り……ひいては、白神村のことについて、きちんとお話しますよ」
そういって、灰村はまた歩き出した。
「……番田さん、あの人は……」
「……おそらく、本気ではないだろうな」
「え? それって……」
番田さんはそう言って、僕のことを見る。
「……私達にこれ以上首を突っ込むな、といったのはただの口実だ。むしろ、私達に八十神語りの真実を教えようとしている……私にはそう思える」
「えー? でも、せんせー。そんなことしてどうするのよ?」
ケイさんも理解できないようだった。同じく、僕もなぜそんなことをするのか……イマイチよくわからない。
「さぁ……つかみ所のない人物のようだからな。とにかく、彼女に付いて行くしか無いだろう」
番田さんはそう言って歩き出した。僕とケイさんもそれに続いて今一度歩き出すのだった。




