訪問者
「あ。すいません。お水。注文はいいです。すぐ終わるので」
ニコニコしながらそう言って、女性は僕の隣に座った。
髪型は……まるで日本人形のようなおかっぱ頭だ。なんとなく、不気味な感じのする女性だった。
ケイさんも番田さんも不審げな目で女性を見ている。
喫茶店の店長が怪訝そうな顔で水を持ってきた。女性はコップに入った水を机の上に置く。
女性は水を口に運ぶと、半分ほど飲んでから小さくため息を付いた。
「はぁ……あ。すいません。自己紹介もしていなくて。私、灰村華と言います。白紙町の役場で働いていまして」
女性は曖昧に微笑みながら僕と番田さん、そして、ケイさんを見た。
「……失礼ですが、ご用件は?」
番田さんが怪訝そうな顔でそう言った。すると女性は少し間を置いてから、話を再開する。
「うーん……単刀直入にお話しますと、番田宗次郎先生。これ以上八十神語りに首を突っ込むのはやめていただきたい」
番田さんは少し目を大きく見開いた。しかし、すぐにそれこそ想定外のことであったかのように、灰村と名乗った女性から目を逸らした。
「……なるほど。アナタは……どういう立場の方ですか?」
番田さんがそう訊ねると、灰村は意外そうな顔をした。それからまたしても曖昧な笑みを浮かべる。
「どういう……しがない役場の職員ですよ」
「……八十神語りは、この町では既に忘れられた儀式……なぜアナタのようなしがない町役場の職員がその存在を知っているのですか?」
番田さんがそう言うと、灰村は少し困ったように頬を指先で撫でていた。
「うーん……それ、言わなくちゃダメですか? 私は単純にやめてくれ、と言いに来ただけなんです。私が何者かどうかなんて、どうでもいいじゃないですか」
「やめてくれ、と言われてはい、そうですか、とはいきません。私はこれでも研究者です。八十神語りには、解明すべき事実が隠されています」
番田さんがカッコいいことを言ったが、灰村はあくまで困り顔で番田さんを見ているだけだった。
「そうですかぁ……じゃあ、言いましょう。私の祖父はこの村の最後の村長でした」
「……え?」
番田さんが思わず驚きの声を上げた。僕も思わずケイさんと顔を見合わせてしまう。
「はい。というか、昔から白紙町……じゃなくて、白神村の村長の家系なんですよ。ウチは」
「……ということは、まさか……」
番田さんがその先を言い終わる前に、灰村は大きく頷いた。
「はい。灰村家こそ、白神村で昔から、白神神社に八十神語りを行わせてきた張本人なんです」




