対応策
「ど……どうすればいいんだ……」
琥珀がいなくなった後の白神神社で、僕は途方に暮れていた。
「ひっ……ひひっ……」
ケイさんは泣きながら相変わらず笑っている。
笑いが収まる様子は……ないようである。
「……とりあえず、番田さんに相談してみて――」
かといって、そのためには一度電話をしなければいけない。残念ながら僕は今番田さんに連絡する手段がない。
そうなると一度白神神社を離れる必要があるのだが……こんな状態のケイさんを放っておくわけにはいかない。
「……くそっ。どうすりゃいいんだ」
「あはっ……あははっ……」
ケイさんは笑いながらも、何かを訴えるように僕のことを見ている。
……いや、待てよ。巻き込んだ、と言ったが……ケイさんはこうなることを予想していたんじゃないだろうか。
どうにもケイさんが何の準備もせずに八十神語りに対峙するとは思えない。
結果的にこんな状態になってしまってはいるが……きっと、それなりの対応策を施していたはずである。
「……あ」
僕は漸くその時思い出した。ポケットからケイさんから託された御札を取り出す。
この御札……正直、なんだか嫌な感じがした。例えるなら……カガミ様の家に行った時に感じた感覚……何か不浄なものを感じるのだ。
「ケイさん。その、これ……」
僕は恐る恐るケイさんに御札を手渡してみた。
「ひっ……ひひっ……あははっ!」
するとケイさんは僕の手からひったくるように御札を取り上げた。
「あ」
僕が驚いている間もなく、ケイさんは御札を……そのまま口の中に飲み込んだのだ。
「え……ちょ、ちょっと! ケイさん!?」
しかし、御札を飲み込むと同時にケイさんの笑いは止まった。
そして、ケイさんは急に立ち上がったかと思うと、そのまま境内の端の茂みの方に走って行ってしまった。
「け、ケイさん!?」
「おげぇぇぇぇぇ!!!」
と、茂みの方からとんでもない声が聞こえてきた。
僕はそれが何を意味する声なのかは大体分かった
。
そして、しばらくその声は茂みから続いた。それが止むと同時に茂みから何かがこちらに向かってくる。
「あ……け、ケイさん……!」
見ると、げっそりとした顔でケイさんが茂みの中から現れたのだった。




