ワラガミ様の話
その夫婦は村でも有名なおしどり夫婦でした。
寡黙で夫に尽くす妻……傍から見れば幸せそのものでした。
しかし、男は妻が寡黙なのをいいことに、家の外に女を作っていました。
男は家にロクに帰ってこない日が続きますが、妻は黙って夫の帰りを待ちました。
妻はこう思っていたそうです。
自分より他の女といた方が幸せならば、それでいいのだ、と。
それならば、せめて男と、一緒にいる女にはずっと楽しく笑っていてほしい。
笑顔がずっと続けばいいと、祈っていたそうです。
実際、男は寡黙な妻といるより、家の外に作った明るくて気立ての良い女を好みました。
女はいつも男といると下品に笑います。それは楽しそうに……
ある夜。同じように男はその女と家の外で遭っていました。
すると、なぜか女は男のくだらない話をきっかけに大笑いしました。
男がなぜそんな笑うんだと聞いても、女はずっと笑い続けています。
段々と気味が悪くなってきた夫ですが、女はそれでも笑い続けています。
それこそ、楽しくて幸せで仕方ないというように……
結局、女はその晩からずっと笑い続けるようになってしまいました。
寝ることも出来ず、食べることもできず、延々と笑い続けます。
そのうち女は酷くやせ細り、不気味に笑い続ける女を村の人はおかしな奴だとして放っておきました。
それから数日後、女は笑いながら死にました。
その死体を見た男はなぜかふいに笑い出してしまいました。
皆に怪訝そうな顔で見られても、男は笑うのをやめません。
というよりも、止められませんでした。
その時、男は見たのです。そして、理解しました。
壊れたように笑い続ける自分を見て、不気味に嬉しそうに微笑む自分の妻の姿を。




