ここにはいない
その後、どうにも琥珀の言っていた事が気になってしまい……僕は相変わらず授業に集中できなかった。
あの女には罰が下る……琥珀が言っていたのはどういう意味なのか……
いや、大体意味はわかる。それが僕とケイさんにとって最悪な意味を持つということも。
そして、放課後。
「賢吾」
思った通り、琥珀は僕の名前を呼んできた。
どこか不安定な表情で、嬉しそうに僕のことを見ている。
「……ああ、分かっているよ」
そういって、僕はそのまま琥珀の後を付いて行く。
ただ……一つ聞きたことがあった。
ケイさんと見た夕日で思い出したこと……僕が本当に探しているはずの僕が「黒田さん」と読んでいた彼女。
果たして琥珀の中にまだ黒田さんの記憶はあるのか……それとも……
「ねぇ、琥珀」
既に昇降口の近くまでやってきた辺りで僕は琥珀に話しかけた。
「なんですか? 賢吾」
「……その……琥珀は……黒田さんではないの?」
あまりにも突拍子もない聞き方だと思ったが……それでも、僕にはこれしか考えられなかった。
だからこそ、脈絡もなくいきなりそう聞いてみたのだ。
琥珀はまるで不思議なものに出会ったかのように僕を見ている。
「黒田……フフッ。何を言っているんですか。私の名字は白神、ですよ」
「え……で、でも……」
「おかしな賢吾ですね。ほら、行きますよ」
……やはり、ケイさんが言っていたことは間違っていたのだろうか。
もう既に琥珀は琥珀で、僕が探している黒田さんは、此の世界のもうどこにいない……
そう思うと自然とため息が出てきた。重い足取りで外に出る。
すると、琥珀が少し前に立ち止まっていた。なぜか校門の方を見つめたままで動かない。
「どうしたの? 琥珀?」
「……あの女。本当に懲りないですね」
苛立たしげにそう言う琥珀。と、僕も思わず校門を見る。
「おーい。黒須くーん」
見ると、そこにいたのは……巫女服姿のケイさんだった。




