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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第五神
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彼女に会うために

「……えっと……よく意味が分からないんですが……」


 思わずそういうと、ケイさんは渋い顔で僕のことを見る。


「だからさぁ、アタシのこと、さっき会った奴と思って話してくれればいいんだって。たぶんだけど、アンタとさっきの奴は前にも一度、ここに来てるはずだよ」


 そう言われても、その記憶がないのだから、僕には実感が湧かなかった。


 ただ……ふと、空の向こうに沈んでいくオレンジ色の夕焼けを見る。


 なんだろう……どこか懐かしく、それでいて悲しい気分になってくる。


「……なんか思い出した?」


「……綺麗ですよね」


 僕はふと、そう呟いてしまった。ケイさんは怪訝そうな顔で僕のことを見る。


「へ? ああ。まぁ……そうかもね。綺麗かも」


「……いや。そうじゃない……綺麗だ。そう……彼女は確かにそう言ってました」


 そうだ……言っていた。


 僕の隣には、確かにケイさんではない彼女がいた。


 そして、その彼女は寂しそうな顔でここから見るこの光景が好きなんだと、僕に言ってくれたのだ。


「……アンタ。なんで泣いてるの?」


「え……ああ、ホントだ」


 言われて僕は、自分が涙を流していることに気づいた。


 ケイさんは怪訝そうな顔で僕のことを見ている。


「そんなに泣くほどなら……思い出せるもんじゃないの?」


「……ええ、そうですね。もう……思い出せている気がします」


 オレンジ色の光、優しくて、恥ずかしそうな笑み……


 そして、綺麗な黒髪……


「……黒田さん」


 自分でも不思議なくらい、自然と僕はそうつぶやいていていた。


 ケイさんはただ何も言わず、僕のことを見ていた。


「思い出した?」


「……ええ、まぁ……ここにいたのがその黒田さんかどうかはわからないんですけど……ただ、僕が会いたいのは……その人なんだろうなぁ、と」


 自分でも何を言っているのかよくわからなかったが……それが僕の答えだった。


 ケイさんは僕がそう言うと、安心したように小さくため息を付いた。


「まぁ、なんでもいいよ。とにかく、アンタはその黒田さんとまた会いたい……その目標ができただけでも、上等じゃね?」


 ケイさんに言われて僕はまさにそのとおりだと思った。


 僕は黒田さんに、また会いたい……記憶の中にだけにぼんやりと存在する黒田さんに……

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