彼女に会うために
「……えっと……よく意味が分からないんですが……」
思わずそういうと、ケイさんは渋い顔で僕のことを見る。
「だからさぁ、アタシのこと、さっき会った奴と思って話してくれればいいんだって。たぶんだけど、アンタとさっきの奴は前にも一度、ここに来てるはずだよ」
そう言われても、その記憶がないのだから、僕には実感が湧かなかった。
ただ……ふと、空の向こうに沈んでいくオレンジ色の夕焼けを見る。
なんだろう……どこか懐かしく、それでいて悲しい気分になってくる。
「……なんか思い出した?」
「……綺麗ですよね」
僕はふと、そう呟いてしまった。ケイさんは怪訝そうな顔で僕のことを見る。
「へ? ああ。まぁ……そうかもね。綺麗かも」
「……いや。そうじゃない……綺麗だ。そう……彼女は確かにそう言ってました」
そうだ……言っていた。
僕の隣には、確かにケイさんではない彼女がいた。
そして、その彼女は寂しそうな顔でここから見るこの光景が好きなんだと、僕に言ってくれたのだ。
「……アンタ。なんで泣いてるの?」
「え……ああ、ホントだ」
言われて僕は、自分が涙を流していることに気づいた。
ケイさんは怪訝そうな顔で僕のことを見ている。
「そんなに泣くほどなら……思い出せるもんじゃないの?」
「……ええ、そうですね。もう……思い出せている気がします」
オレンジ色の光、優しくて、恥ずかしそうな笑み……
そして、綺麗な黒髪……
「……黒田さん」
自分でも不思議なくらい、自然と僕はそうつぶやいていていた。
ケイさんはただ何も言わず、僕のことを見ていた。
「思い出した?」
「……ええ、まぁ……ここにいたのがその黒田さんかどうかはわからないんですけど……ただ、僕が会いたいのは……その人なんだろうなぁ、と」
自分でも何を言っているのかよくわからなかったが……それが僕の答えだった。
ケイさんは僕がそう言うと、安心したように小さくため息を付いた。
「まぁ、なんでもいいよ。とにかく、アンタはその黒田さんとまた会いたい……その目標ができただけでも、上等じゃね?」
ケイさんに言われて僕はまさにそのとおりだと思った。
僕は黒田さんに、また会いたい……記憶の中にだけにぼんやりと存在する黒田さんに……




