記憶の中で
「ケイさん……どこに行くんですか?」
僕は何も言わずにケイさんの後を付いて行った。
するとケイさんはふいに振り返った。
「……えっと、その北地区じゃない白神神社? それってどこにあんだっけ?」
「え……知らないで行こうとしてたんですか……」
あまりのことに僕は思わず呆れてしまった。ケイさんはいたずらっぽく微笑む。
「ごめんねー。とにかくさ、一度そこへ行ってみようよ」
「……でも、行ってどうするんですか? 今行っても……」
「まぁ、行ってみればわかるよ。ほら、連れてって」
ケイさんに言われるままに僕は白神神社に向かった。
既に夕焼けが沈みかかっている……なんだろう。このオレンジ色の光を浴びていると、前にもこんな時に白神神社に行ったような……そんな気分になる。
「アンタはさ、忘れたいの?」
ケイさんはまたしても僕に話しかけてきた。
「え……何をですか?」
「アンタが思い出そうとしていること。アンタは忘れたいの? それとも思い出したいの?」
「それは……思い出したいですけど……」
しかし、ケイさんは僕を信用していないようだった。というより、何かを気にしているようにも思える。
「なるほど。つまり、アンタは思い出したいけど、アンタの知り合いはアンタに思い出してほしくないわけだ」
「え……それって、琥珀が……ですか?」
「うん。まぁ、たぶん、だけどね」
よくわからなかったが、ケイさんには分かるらしい。僕はそれ以上何も聞かずに白神神社への道を急いだ。
程なくして白加美神社に辿り着いた。北地区ではない……見覚えのある石段が僕とケイさんの目の前にある。
ケイさん石段を登り始めた。僕もそれに続いて登り始める。
「アンタはさ、アタシのこと、どう思う?」
と、ケイさんがそんなぶしつけな質問をしてきた。
「え……な、なんですか? 急に」
「変って思わないわけ? 妙にこういう……ちょっと危ない感じのことに詳しいのに」
言われてみれば……確かに、僕は全然怖がっていなかった。ケイさんだって、何か不思議な力を持っているかのように思える。
だけど、僕は普通に接している……
「え……ま、まぁ。でも、ケイさんは僕のことを助けようとしてくれているわけですから」
僕がそう言うとケイさんはキョトンとした顔で僕を見た。そんな顔で見られてしまうと、僕の方が困ってしまう。
「ぷっ……あははっ!」
しばらくすると、ケイさんはなぜか笑い出した。
「え……な、なんで笑うんですか?」
「あはは……なるほどね。たぶんだけど……アンタ、その知り合いと似たような会話、ここでしていると思うよ」
「え……琥珀と、ですか?」
「違う違う。あの白神と合体する前のアンタの知り合い……黒田、だっけ? その人にも今と同じようなこと言ったでしょ、って話」
ケイさんにそう言われると、なんとなくそんな気もするし……そうでもない気がする。
「そ、そうかな……」
「ええ、そうですよ。黒須さん」
と、いきなり口調をかえてケイさんがそう言ってきた。まるで琥珀のような口調で僕は思わず目を丸くする。
「……こんな感じかな? さっきのヤツの口調。アンタの知り合いに似てた?」
「……からかわないでください。僕は真剣なのに……」
「からかってないよ。今からアンタに思い出してほしい記憶を思い出してもらうためだよ」
「え……どういうことです?」
すると、ケイさんは優しくニッコリと微笑んだ。
「簡単です。私をアナタの知り合いだと思って、私に接してくれればいいんですよ」




