顕れたモノ
「こ、琥珀……」
琥珀は……石段の上に立っていた。いつも通りニコニコしながら僕のことを見ている。
「本当に大丈夫ですか? もしかして何かあったんですか……その隣にいる薄汚い女と」
そういって、琥珀はケイさんの方に目を移す。ケイさんは少し眉間に皺を寄せたが、動じること無く琥珀のことを見る。
「アンタが、黒須君の知り合いって人?」
そして、特に軽い感じで琥珀にそう訊ねる。琥珀は怪訝そうな顔でケイさんを見る。
「……アナタとは喋りたくありません」
「へー。アタシもさぁ、アンタに用はないんだよねー。だからさ、さっさと代わってくんない?」
と、いきなりケイさんはわけのわからないことを言い出した。僕は思わずケイさんのことを見てしまう。
「え……ケイさん、何言って……」
「ん? 何? あ、そっか。アンタにはわかんないか。えっとね、あれ。アンタの知り合いかもしれないけど、アンタの知り合いじゃないよ」
ケイさんは軽い感じでそういう。知り合いであって、知り合いでない……まるでカクシガミ様の話のような言葉だ。
「……意味がわかりません。何を言っているのですか、アナタは」
「だから、そのままの意味だって。いるんでしょ? さっさと出てきてくんない? で、何をしたいのか教えてほしいわけ」
ケイさんそういうと、琥珀の顔が段々歪んでくる。
それこそ、酷く苛立っているようだった。
「け、ケイさん……そ、その……琥珀は――」
「少し黙ってて。もう少しだから」
ケイさんは僕にピシャリとそう言うと、先を続ける。
「それとも何? アタシのことが怖いわけ? 情けないねぇ。まぁ、こんな田舎にずっと巣食っていたわけだし、あんまりおしゃべりとか得意じゃない系なのかな~?」
さも馬鹿にしたようにそういうケイさん。僕は不安げに琥珀とケイさんを交互に見ていた。
「……いえ。違います……ですが……はい……わかりました。そうですね。少しだけ……わからせてやるのは大事だと思います……黒須君のためですから……」
と、いきなり琥珀は何か独り言をぼそぼそと呟いた。
独り言というか……誰かと話しているかのような感じだ。不気味なその感じに僕はただその光景を見ているこしかできなかった。
「ねぇ? 何? まだなの? さっさと出てきなよ。情けない田舎者の神様がさぁ!」
ケイさんがそう言うと、いきなり琥珀の頭がガクンと前に垂れた。白い髪がそのまま前にだらりと垂れ下がる。
「……琥珀?」
僕がおそるおそる声をかけると、琥珀はゆっくりと顔を上げる。
「……やれやれ。一体君は何者だい?」
そういって顔をあげた琥珀の口調は変わっていて、表情もまるで琥珀ではないような……どこか不気味な笑みを湛えたものになっていたのだった。




