祈りと呪い
「え……ど、どういうことですか?」
ケイさんのいきなりの発言に、僕は思わず聞き返してしまった。
「……あのね。この世界には人間が入っちゃいけない場所があんの。その時代、その場所……色々条件は異なるけど……この石段の先はマジでヤバイわけ」
ケイさんは冗談を言っている風には見えなかった。
僕はなんだか途端にものすごく不安な気分になる。
「旧白神神社は……そういう場所だったんですか?」
「うん。アンタに纏わりついてるもの……段々分かってきた。最初はアンタ、何かに取り憑かれてるんだと思ったけど、違う。呪われてるんだわ」
「の……呪われてる?」
呪われている……意味がわからなかった。呪いって……あれか? それも八十神語りのせいだっていうのか?
「アンタの予想通りだよ。その……やそ……なんとか? それが原因。せんせーは儀式だとか何とか言っていたみたいだけど、アタシに言わせてみればただの呪いの行事」
「の、呪い……ちょ、ちょっと待って下さいよ。八十神語りを今僕と一緒にやっているのは、僕の知り合いで……」
「知り合い? じゃあ、聞くけど……アンタはいつからソイツのこと知っているわけ?」
「え……む、昔からですよ。小さい頃から……」
「だから、いつ? どこで会ったの? どこに住んでるわけ?」
……ケイさんの質問に、僕は答えられなかった。琥珀とは……いつ出会ったんだ? どこに住んでいる? どうやったら会えるんだ?
「そ、そんなの……」
「いい? アンタはなにか勘違いしているみたいだけど、呪いと祈りってのは同じようなもんだからね」
「え……呪いと祈りが、同じ?」
ケイさんは力強く頷いた。
「例えば、誰かに幸せになってほしいと祈る……その強い祈りはその対象が幸せにならない限り永遠に効力を発揮し続ける……つまり、対象がどのような状態になろうと、なにがなんでもソイツを幸せにするってワケ」
「じゃあ……八十神語りがその類のものってこと……ですか?」
「そういうこと。アンタがその知り合いってやつと初めたのはそういう呪いの行事。そして、その行事はこの石段の先で延々今までここらへんでは行われてきた……だから、この先に行くのは不味いってわけ」
ケイさんにそう言われて僕は何も言い返せなかった。
呪い……八十神語りは呪いの行事だった?
でも、父さんの話では、元々は作物の豊作や、村の平穏を祈っての儀式だって……
……祈り。そうか。祈り。
他でもない。八十神語りは、祈りの儀式だったのだ。
でも……だったら、あの神様に関する話はなんだ?
神様の話をするのは、祈りと何が関係があるんだ?
「賢吾。大丈夫ですか?」
と、いきなり石段の方から声が聞こえてきた。僕はその方に顔を向ける。
「え……な、なんで……」
石段の方に顔を向けるとそこには……
「どうしました? 顔色が悪いですよ?」
そこに立っていたのは、巫女服姿の琥珀だったのだ。




