危惧
「へぇ。ここらへんはなんだか雰囲気違うんだねぇ」
結局、ケイさんの言うとおりに、僕は番田さんと分かれ、北地区に向かっていた。
正直、なんでこのギャル風な人と一緒に北地区に行かなければいけないのかは疑問だったが……どうにも無碍にはできなかった。
ケイさんが言った、僕にまとわりついているものが見えるという発言……もしかすると、番田さんの言うとおり、この人は協力者として適当なのかもしれない。
「……え、えっと。ケイさん。そろそろ北地区に入りますよ」
そういって、 僕は道すがらにポツンと置かれているお地蔵様を見る。ケイさんもそれに気付いたようだった。
「……ふむ。弱いね」
「へ? 弱い?」
「うん。弱すぎ。これで境界のつもりなわけ? よくもまぁ、今まで何事もなかったもんだよ」
よくわからないことを言いながらケイさんはお地蔵様の近くに近づいていく。
そして、小さくしゃがみこむとお地蔵様を眺めていた。
「ここからでしょ、北地区ってのは」
「え……ええ。そうですけど……」
「だよねー。今まではそのつもりだった……だけど、今はもう境界が明確に区別されてない……だから不思議なことが起こるんだよねー」
そう言いながら、ケイさんはそのままお地蔵様の真横を横切った。僕も慌てて北地区への境界を踏み越える。
瞬間、やはり嫌な感覚が身体を覆った。拒絶されているような……それでいてねっとりと絡みつくような……何度やってきても慣れることのない不快な感覚だ。
「おー。なるほど。確かに、変な場所だね。ここ」
ケイさんは驚いたようにそう言った。さすがに番田さんと違って、ここの特異性が分かるらしい。
「……大丈夫なんですか? ケイさん」
「ん? ああ。へーきへーき。こういうの、慣れてるし」
そういって何事もなかったかのように歩き出す。
僕は不快な感覚を抱いたままに、その後を歩き出す。
北地区に来たケイさんは、まるで観光するかのような感覚で周囲を見回していた。
それこそ、楽しんでいるような……僕にはちょっと信じられなかった。
「へー。なるどねー。こりゃ、せんせーが興味持つわけだ」
「……ケイさん。その……そろそろ、いいですか?」
「ん? ああ。その……なんだっけ? 神社? 行くわけ? いいよ」
まるで気にしない様子で、ケイさんは僕の提案に乗ってきた。
僕は番田さんと来たはずの道を思い出しながら、旧白神神社に向かう。
そして、しばらくすると石段が見えてきた。
「この先が旧白神神社ですけど……ケイさん?」
と、そこまで来るとケイさんの様子が変わっていた。
先ほどまでのおちゃらけた雰囲気は完全に消滅しており、真剣な眼差しで目の前の石段を睨んでいる。
「……どうかしましたか?」
「……ねぇ、アンタ。アンタとせんせー、この石段。登っちゃったわけ?」
辛辣な声で、ケイさんはそう言う。僕は戸惑いながらも小さく頷いた。
それと同時にケイさんは金髪をクシャクシャと苛立たしげに掻き分け、僕のことを睨む。
「せんせーもなんで勝手なことするかなぁ……こういうことする時は、アタシに相談してほしんだけど……マジで」
「え……な、何か?」
僕がそう訊ねると、ケイさんはまるで哀れみを込めた目で、僕のことを見た。
「悪いけど……アタシ、アンタのこと助けられるかわかんないわ」




