奇抜な巫女
それから、僕は十分後には喫茶店テンプルにやってきていた。
そして、扉を開いて中へ入る。
「はぁ~……ケーキもパフェもないとか~……あり得ないんですけどー」
店の奥からは聴いたことのない声が聞こえてくる。僕はそのまま声のする方に近づいていく。
「ああ、黒須君」
と、先に番田さんが僕のことを見つけた。僕は小さく会釈する。
そして、番田さんの向かいの席には……
「ん~? あ、やっと来たわけ?」
金色の髪に小麦色の肌……ここらへんでは見たことのない高校の制服を着ている少女がいた。
「ああ、黒須君。とにかく座ってくれ」
僕は言われるままに番田さんのとなりに腰掛ける。
目の前に対峙した少女は……いわゆるギャルっぽい少女だった。
少なくとも白紙町では見たことはない……都会風な感じだ。
「えー……紹介しよう。彼女は――」
「ちーっす。アタシ、ケイね。アンタは?」
番田さんの紹介の遮って、ギャル風の少女……ケイは僕にそう話しかけてきた。
「え……黒須……賢吾です」
「ふぅーん……まぁ、せんせーから大体話は聞いているからさ。この町、変な儀式があるんだって?」
目の前に置かれたオレンジジュースを不機嫌そうに口に含みながらケイはそう聞いてくる。
「え……へ、変な儀式というか……」
僕は助けを求めるように番田さんを見る。
番田さんは苦笑いしながらケイを見る。
「……その……なんで本名を名乗らないんだ?」
「はぁ? せんせー、わかってないなぁ。名前っての大事なもんなんだよ? ポンポン軽々しく知らない人に教えるもんじゃないの。だから、せんせーもこの町ではアタシのこと、ケイって呼んでね」
そう言って、ケイは今一度オレンジジュースを一気飲みすると、鋭い視線を僕に向けてきた。
「まぁ、アンタには教えてもいいんだけど……アンタにまとわり付いているやつには教えられないのよねぇ」
そう言われて僕は思わず番田さんを見る。
「あ、あはは……彼女は……巫女なんだ。以前私が調査で世話になった神社で知り合ってね。それ以来こういう件では世話になっているんだ」
巫女……とてもそのギャルっぽい容姿からは想像できなかった。
そもそも、琥珀も巫女だが……とても琥珀と同じような生業の存在には見えない。
でも、僕にまとわり付いているもの……一体彼女には何が見えているのか……
「まぁ、とにかくさぁ、さっさとその原因に会わせてくれない? こんな辛気臭い町あんまり長くいたくないんですけどー」
不機嫌そうにそういうケイ。原因、と聴いて、真っ先に脳裏には琥珀のことが思い起こされる。
ただ……琥珀にはどうすれば会えるのだろう? 僕は彼女の住んでいる場所を知らない? というか……いつも彼女はどこへ帰っているんだ? いつも僕のことを迎えにくるけれど……一体どこからやってきているのだろう。
「ふむ……そうだな。黒須君。とりあえず、この……ケイ君と一緒に北側地域に行ってみるのはどうかね?」
「え……北側、ですか?」
僕が嫌そうな顔をすると同時に、ケイがニヤリと微笑む。
「いいね、どうも気になってたんだ。その話。案内してよ」
「よし。ではさっそく――」
「ああ、せんせーはダメ」
「……は?」
番田さんと僕は思わず顔を見合わせる。それを見て、ケイは悪戯っぽく微笑んだ。
「私とこの……黒須君? 二人で行くから」




