探求者の帰還
それから動きが起こるのは……一週間程経ってからのことであった。
つまり、それまでは僕の身の回りには特異なこと――もちろん、未だに琥珀に対して違和感は持ち合わせていたが――は起きなかったということである。
ただ、琥珀は相変わらず僕の家に朝来て、昼にはおにぎりを目一杯食べさせてきた。放課後になっても半ば待ち伏せしているかのように校門の前で僕を待っている。
簡単に言ってしまえば……僕は琥珀から逃げることができていなかったのである。
「はぁ……」
そんなことが一週間も続けば気も滅入ってしまう。期待できるのは……
「……番田さん。ちゃんと帰ってきれくれるんだろうか」
唯一の頼みの綱、番田宗次郎が早くこの町に帰ってきてくれることである。
番田さんは協力者を連れてくると言っていたが……果たして、その人はどんな人なのだろうか。
この八十神語りによって起きている一連の不思議な出来事を解決してくれる能力を持った人なのだろうか……
休みの日だというのにベッドの上で僕はそんなことばかり考えていた。
「賢吾ー! 電話よー!」
と、そんな折に、母さんの声が聞こえてくる。
電話……僕は慌てて飛び起きると、そのまま電話の方に向かった。
「はい」
少し食い気味に、僕は電話に出る。
「ああ、黒須くんか?」
「番田さん……帰ってきてくれたんですね」
少し嬉しかった。あの不気味な黒いスーツの男性であっても、今の僕に取っては唯一頼れる存在だからである。
「ああ。早速で悪いんだが、君に会わせたい人がいてね」
「会わせたい人……それって……」
「ああ。例の協力者だ」
どうやら本当に番田さんは協力者を連れてきたらしい。それならば、僕に拒否する理由はない。
「わかりました。喫茶店テンプルですか?」
「ああ……ただ、その……なるべく、早く来てくれ」
「え? あ、はい。そうしますけど……何か問題が?」
すると、番田さんは少し小さくため息をついた後で会話を再開する。
「実はその協力者なんだが――」
「せんせー! ここのコーヒー、あり得ない程不味いんですけどー!?」
と、いきなり番田さんの背後からそんな声が聞こえてきた。
番田さんはまたしても小さく溜息をつく。
「……とにかく、早く来てくれ」
そうして、番田さんは電話を切った。
僕は不思議な気持ちでとりあえず家を出ることにしたのだった。




