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白神さんの八十神語り  作者: 松戸京
第四神
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許さない

 カクシガミ様の話が……終わった。


 なんだか、今までで一番不気味な話に聞こえる。


 それはたぶん……僕が経験を以てその恐ろしさを知っているからだ。


 そして、カクシガミとなった少女の言葉……


「これで、もう誰も忘れない……ですか」


 一人つぶやくように琥珀がそういったのを聴いて、僕は少しドキリとする。


「うふふ。大丈夫ですよ。私は……今みたいなことをするつもりはありませんから」


「……つもりはない、ってことは、やろうと思えばできるってこと?」


 僕が訊ねるとつまらなそうな表情で琥珀は僕を見る。そして、しばらくその軽蔑した視線を向けたと思うと、腰掛けから立ち上がった。


「いいえ。やりません。私は別にこの町の人たち全員に存在を忘れられても、気にすることはありませんから」


 そう言ってから少し間を置いてその目で鋭く僕を見る。


 まるで怒っているかのような……それでいて喜んでいるかのような……不思議な視線だった。


「私は賢吾にだけ覚えていてもらえれば、それでいいのです」


 そう言って、ニッコリと琥珀は微笑んだ。


 僕はその間ずっと考えていた。カクシガミ様の話でもあった「その人ではないその人」……それはつまり、今僕の目の前いる琥珀だ。


 僕が探していたのは……琥珀だ。でも、琥珀ではない。


 それが今、僕の本来あるべき記憶が隠されてしまっている……そんな感じがしてきたのである。


「賢吾? どうかしましたか?」


 僕がまたしても考え事をしていると、琥珀がその思考に割って入ってきた。


「……ねぇ、琥珀……もし、僕が君のことを……忘れていたとしたらどうする?」


 僕は躊躇ったが……聴いてみることにした。


 すると、琥珀は最初キョトンとした顔で僕のことを見ていた。しかし、やがてニッコリと笑みを浮かべる。


「ええ。もちろん、そんなこと許しません。絶対に」


 表情は笑っていたが……目は完全に据わっていた。そこで僕は確信した。


 僕の記憶は、隠されているのだ、と。


「さぁ、次は10日後です。賢吾、そろそろ帰って下さい」


 そう促されて、僕は石段の方に歩いて行く。


 ふと、気になって後ろを振り返ってみた。


「……いない、か」


 なんとなく感じた予想通り、既に琥珀の姿は境内のどこにもないのであった。

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