カクシガミ様の話
ある村に、一人の少女が住んでいました。
少女は酷く地味な女の子で、周囲にもいるのかいないのかよくわからないなどと、存在感のなさを指摘されていたそうです。
彼女としてもそれは気になることで、どうにかして自身の存在をみんなに知ってほしい……彼女はいつもそう願っていたそうです。
ですが、少女が願えば願う程に、少女の存在感は薄くなっていきました。
まるで願いが反比例するように……いつからか、少女がその村に住んでいたのかどうかも、同じ村人でさえ疑うようになってきたのです。
やがて、月日が経ち、少女の存在は完全に忘れ去られてしまいました。
ただ、その頃から少女によく似た別の少女が、村に現れるようになりました。
その子は地味だった少女とは違い、いつも明るく、村でも人気者でした。
別の少女の存在が強まっていくに連れて、少女のことを覚えている人間はいなくなってしまいます。
ですが……どうにもおかしいのです。目立つ少女に名前を訊ねると、地味な少女と同じ名前を名乗るです。
ただ、同じ名前といっても、村人にとっては同じように感じる程度で、地味だった少女と目立つ少女が同じ名前だったのかは確かめることができませんでした。
なぜなら、誰も地味な少女の名前を覚えていなかったからです。
村人は不思議に思いましたが、そのうちどうでもよくなってそのことさえも忘れてしまいました。
しかし、困ったことになりました。少女だけではありません。村中の人間が同じような状態になったのです。
その人に似ているのだけれど、その人ではない……ただ、どこが違うのかというと説明できない、あるいは、元の人間の性格や名前を思い出せないのです。
最終的にその村は「その人だけれどその人ではない」人だけの村になってしまいました。
村人同士は互いに自分が誰なのかさえ、そして相手が誰なのかもわからなくなり、恐怖に駆られ、ある夜互いに殺し合いを始めてしまったそうです。
そして、運良く生き残った一人の村人が他の村に助けを求めに行きました。
しかし、帰ってきた時には村は屍の山……ただ、その死体だけらの村の中心で、一人の少女がニコニコしながら立っているのです。
生き残った村人はその少女を見てすぐにそれが、あの地味だった少女だということを理解しました。
そして、お前は今までどうしていたんだと村人が訊ねると、地味な少女は返答せずにニコニコしながらこう言いました。
「これで、もう誰も、私を忘れない」
それ以来、その周囲の村では、生き残った少女を神の化身として崇めたと聞きます。
人の本来あるべき記憶や名前……存在までもを隠してしまう、カクシガミ様として。




